エピローグ
あれから数週間、ルミアは村外れの小さな家で療養を続けている。呪いの力を失った代償として視力を失ったが、医師の見立てでは命に別状はないという。
アドンは手術後の目の調整が必要とはいえ、幸運にも大きな後遺症は残らなかった。そして今、かつての自分を見守ってくれた両親や村人が、ルミアの存在も少しずつ受け入れ始めている。最初は「メデューサの血を引く」と聞いて身構えた人もいたが、アドンが涙ながらに説得した。
「彼女はもう……誰も傷つけない。その瞳は、僕のために光を失ったんだ……。」
驚く者、同情する者、それでも怖れる者――様々だったが、ルミアは人々の前に立ち、拙いながらも頭を下げて謝罪した。かつて石化させてしまったことを悔やんでいる気持ちと、もう力がないこと。
そしてアドンはルミアの手を握り、「これからは僕が君の目になる」と誓った。彼女の不安げな表情を間近で見て、胸が苦しくなるけれど、今度こそ本当に支えてあげたいと思う。かつて見えなかった自分と同じように、彼女には広い世界を知る権利があるはずだから。
夕暮れの草原で、アドンは視界に映る景色をルミアに言葉で伝える。
「空は今、柔らかいオレンジ色で、少しずつ紫が混ざってきてる。遠くの森には鳥の群れが戻ってきていて……」
ルミアは聞きながら、空を見上げるように顔を向ける。その頬にはまだ哀しみの影が残るが、同時に穏やかな微笑みもあった。
「本当に……綺麗なんだろうね。私も、見てみたかったな……」
その声には、少しだけ切なさが混じる。でも、アドンはしっかりとルミアの手を握り返し、強い調子で言う。
「大丈夫。僕が全部、君に伝えるから!君が心に“色”を思い描けるように、僕はありったけの言葉を使って、一緒にこの世界を見よう」
ルミアは涙を浮かべながら小さくうなずく。二人の道は決して平坦ではない。けれど、互いに守り合うことで生まれる強さが確かにそこにある。
春の風が優しく草を撫で、花の香りを運んでくる。アドンは瞳を伏せ、闇の中に住みながらも笑顔をくれたルミアを想う。今度は自分が彼女の光になろう。そう胸に誓いながら、少年と少女は夕暮れの草原に佇み、未来へと小さな一歩を踏み出した。
あとがき
本作は、見えない少年と“呪われた瞳”をもつ少女の切なくも儚い青春ファンタジーラブストーリーです。二人はそれぞれが抱える闇や欠落を通じて、互いを理解し合い、補い合うことで、かけがえのない繋がりを育んでいきます。
メデューサの力を失うために光を捨てたルミアと、ようやく視力を得たアドン。その立場が逆転するかのような展開は、運命の皮肉でもあり、同時に二人をさらに結びつける要素でもあります。人は不完全だからこそ、誰かと寄り添うことで初めて自分の存在を肯定できるのかもしれません。
読んでくださった方に、ほんの少しでも「誰かを想う優しさ」や「不完全なままでも前に進む強さ」を感じ取っていただけたなら幸いです。終わりのようでいて、新たな始まりを迎える二人の物語が、この先どう続いていくのか……想像を膨らませていただけると嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。青春の淡い光が、読者の皆さまの心にもそっと灯りますように。




