95 特別の差
「この子の名前は――」
僕の名前はルミ・スミョール。
餓窮の都近くの村の出身。
村はそれほど大きくもなく、人口も少ないが、それ故に人同士の関係は近く、助け合いのできる村で、大好きな場所だ。
お母さんはスララ・スミョール、お父さんはラッカウ・スミョール、とても優しい。
夏にはお父さんと一緒にラングまで果物を売りに行ったり、友達と魚をとったり、冬には村の人たちみんなで家の上に積もる雪を落としたり、お母さんが美味しいスープを作ってくれたり、どこからかプレゼントが来たり――とにかく毎日が楽しい。
そんな楽しい日々が続いている時、僕の頭の中に突拍子もない思考が生まれる。
赤い雪を作れるかもしれないと。
その日僕はベッドから飛び起きるとすぐにそのことをお母さんとお父さんに伝えた。
「お父さんお母さん!!」
「どうした、今日は元気だなルミ」
「ルミ、朝ご飯できてるから早く着替えてきなさい」
「あのね!! 僕雪が創れるかも!!」
僕の言葉にお父さんとお母さんは目を丸くする。
僕は何を言っているのかわかってもらえていないと感じたので、手のひらに僕自身初めてだけど雪を作ってみることにした。
手を二つ合わせて器の形にし、その手のひらに赤い雪がたまっていくのを想像する。
不思議なことに僕の想像通りに手のひらに赤い雪が溢れんばかりと積もった。
お父さんとお母さんは自分のやっていたことをやめて僕に近づいてくる。
「どういうことだ? なにかの手品か? いつの間に……」
そう言いながらお父さんは僕の手のひらにある赤い雪を手に取る
「あったかい……」
「ラッカウ、これって……ルミの魔術じゃない?」
「魔術? ルミが?」
そうお父さんは言うと僕のことを嬉しそうに力いっぱい抱きしめてきた。
「そうかルミ!! 魔術が使えるようになったのか!! 凄いな!!」
「村の人たちに自慢しなきゃ!!」
そう言うとお母さんは喜んだ様子で急いで家を出ていった。
「お父さん魔術って?」
「うん……そうだな……わかりやすく言うと……ルミだけが使える特別な魔法だ」
その後お母さんが村中に広めたことで僕が魔術を使えるようになったことは一日で知れ渡った。
村の人たちはつぎつぎと僕の魔術を見に来ては褒めてくれた。
そんなちやほやされた時間もつかの間、すぐに僕の友達の一人、村で一番の可愛い女の子シャミも魔術が使えるようになった。
シャミの魔術は触れたものを切断する魔術らしく、僕のただ少し暖かい赤い雪を作る魔術より凄くて村の中で重宝された。
僕は悔しくて何とか役に立てる方法はないか考えたけど、結果できるようになったことは赤い雪の温度を少し上げる程度だった。
そしてシャミが魔術を使えるようになって一週間もしないうちに僕が魔術を使えるということをみんなすっかり忘れてしまった。
どうやら、僕にだけ使える特別な魔法は、シャミにだけ使える特別な魔法より使えない……。
お父さんとお母さんはそんな僕を見て慰めようと色々なことをしてくれたが、逆に空しさが積もるだけだった。
――そんな日々から一ヶ月もしない頃――
目を閉じて夜を越そうとしている時、僕はある思考に苛まれる。
殺せ、殺せ、死ぬぞ、殺せ。
夜一緒に寝ているお父さんとお母さんを見てそんな思考が頭を埋め尽くす。
殺せ、死ぬ、殺せ、消える。
僕は枕に顔を埋めて無理矢理思考を放棄して眠りにつくことができた。
その日を境に僕の体はおかしくなった。
ご飯を食べてもいくら寝ても元気が出ない、逆に元気がなくなっていっていくのを感じる。
僕はなんとか雑草をちぎってその雑草から何かを吸い取れることに本能的に気がついて、その欲望に負けじと頑張った。
だけど、吸い取れる何かは微々たるもので、お父さんやお母さんに限らず、村の人を見るたびに殺さないといけないという思考に苛まれる。
頭がおかしくなりそうだ。
人を見るたびに空腹のような感覚、やらないといけない感覚が僕を襲う。
苦しい……でもこんなこと、お父さんとお母さんに話せない。
話してはいけない気がする。
そして僕の人生を変える日が来る。
その日、僕は頭の中はいつも通りではないが、いつも通り村の年の近い友達数人と遊んでいた。
どうやら今日はかくれんぼをするらしい。
鬼はあのシャミで僕は隠れる側だ。
僕は草むらに身を隠し、鬼に見つからないように願った。
草むらから僕たちを探すシャミの姿が見える。
殺したい……。
シャミは僕の隠れている草むらに近づいてくるが、気づかずにどこかへ歩いてく。
殺したい、死んじゃう。
僕の体は勝手に動いていた。
気が付くと僕はシャミの後ろ姿に向かって拳を振り上げていた。
多分……ここから不意を突いて殴り続けたらシャミを――殺せる。
そうさせる力が今の自分にあると、なにかが確信させていた。
「……!!」
僕はすんでのところで踏みとどまり、地面にわざとこけるようにして倒れて、殴り殺したい欲求を抑えた。
シャミは気づかないうちに後ろで勝手に倒れた僕を見て驚く。
「うわ!! びっくりした!! どうしたのルミ? なんで私の後ろでこけてるの?」
鬼のシャミは笑いながら最悪な思考が頭の中をめぐる僕に手を貸して、立ち上がるのを手伝ってくれた。
「大丈夫? ケガしてない?」
「大丈夫、大丈夫」
「ちょっと見せて」
シャミは優しくそう言いながら僕がけがをしていないか確認をする。
「ルミもドジなんだね、ほらここケガしてるよ」
シャミは僕の肘を指さしてケガを指摘する。
「血は出てない……みたいね。でも、水で洗ってきた方がいいよー、そうしないと悪化しちゃうってお母さんが言ってたから」
「わかった」
「あと……見つけた!! ルミの負けね!! じゃあ傷口洗うんだよ!!」
そう言うとシャミは他の隠れているみんなを探しに走っていった。




