92 講義、魔族・魔人族基礎
フレイアに入学してから一週間――今日はドゥルールとの講義が始まる日。
「ドゥルール来たよ!!」
ウチはドゥルールがいつもいる部屋の扉を開ける。
今日は講義にはじまる直前、教授たちが部屋からいなくなる時間を狙って会いに来た。
ドゥルールはウチの姿を見ると机の上にある紙を数枚とってこっちに来る。
「は、はい、アグさん、今日から講義が始まりますね。で、ではこちらへ――」
そう言うとドゥルールは魔族・魔人研究部の本部から出て、少し歩いたところにある小さな部屋に案内される。
部屋の中は狭く、真ん中には黒板、壁の隅には数個の椅子と机が置かれている。
「講義ってこんな狭い部屋でやるんだ」
「わ、私とアグさんの対面ですから。そんな大きな部屋はとってないです」
「たしかに」
「で、では、始めましょうか」
そう言うとドゥルールは壁の隅に置かれていた椅子と机を持ってきて黒板の前に置くと、ドゥルールは持ってきていた数枚の紙をその机の上に置く。
「ありがと」
ウチは用意してくれた椅子に座って黒板を見る。
「で、では、これから魔族・魔人族の基礎についての講義を始めます。久々の講義なので、わかりずらいかもしれませんが……」
「大丈夫だよ!! わからなかったら、わかるまで聞くから!!」
「あ、ありがとうございます。で、では、今日は基礎の中の基礎——魔族と魔人族の発生の原理について教えますね」
そう言うとドゥルールは黒板に図を描き始める。
ウチは机の上に遅れた紙に目を通すとすごくわかりやすく授業内容が書かれている。
「ま、まず発生原理を説明する前に、この世界にある四つの力について説明する必要があります。あ、アグさん、なんだと思いますか?」
「四つの力? 一個は魔力でしょー? あとは魔力残滓……ほかにある?」
「ま、魔力と魔力を消費すると発生する魔力残滓――その二つが一般的に私たちの生活にかかわる力ですね。あ、あとの二つは神力と生命力です」
「なにそれ?」
「神力は導きの神様が使っていた力で、今は分け与えられた五天様が使う力です。生命力は名前からわかる通り生命の命そのもので、わ、わかりやすい例をあげると生石の中にあるのが生命力です」
「そう思うと生石って名前通りだね」
「そうですね。そ、そして、魔族・魔人族の発生に神力以外の三つが深くかかわってきます。それでは、魔族と魔人族の発生のについて――か、紙にはなんて書いてありますか?」
「魔族は魔力残滓が集まって発生して、魔人族は魔力残滓が人の胎児に集まることで発生する……」
「そ、そうです。魔族は媒体がなくても魔力残滓が集まって発生する。魔人族は人の胎児を媒体として魔力残滓が集まって発生します」
「質問!!」
「は、はい、どうぞ」
「なんで都市の中では魔族と魔人族が発生する事件が起きないの? 魔力残滓って魔力を消費した時に発生するものだよね? 都市なんか相当溜まるんじゃない?」
「するどいですね。そ、それはですね。各都市のトップ、ラングなら五天様が人から生成される魔力残滓を都市の外に弾く魔法を常時展開しているからです」
「うわ、大変そう……。それって生石でできないの?」
「で、できないこともないですが、生石は瞬間的な魔法展開に優れているので恒常的となると使いにくい特徴があります。それでも恒常的に使われる例は街の灯りやエンブスの燃料ですね。灯り程度なので小さな生石で色々と複雑な魔法の描き込みも簡単なんです。もちろん技術がないとできませんが。と、都市全体に展開する大規模な魔法となると、それなりに費用もかかりますし、とても大きな生石をテュールからもってこないといけないので色々大変なんです」
「生石も万能じゃないんだ」
「は、話が逸れましたね。発生の仕方だけで魔族と魔人族に違いがあることが分かりましたが、成長過程にも大きな違いがあります。魔族の成長は至って単純で、魔族が発生した際の魔族の体を構成しているのは、魔力残滓が大部分を占め、あとは魔力と微小な生命力で構成されます。アグさん魔族は生まれたままの状態だといずれどうなるでしょうか?」
「舐めすぎだよドゥルール、生命力がなくなって消滅する」
「正解です。と、討伐者の人たちからしたら常識でしたね。魔族は自分の生命力を補給するために他の種族を襲い、生命力を吸収して生きながらえます。他の動物を襲う原因もこれですね。そして長く生きた個体が上級魔族になっていくのです。こ、この時の体構造は魔力残滓が消えて大部分は魔力で構成されていますが、魔力残滓がどのような過程を経て魔力に置き換わるのかは解明されていません」
「そこは謎なんだ」
「そ、そうですね。有力な説では生命力が魔力残滓を変換しているのでは、という説がありますが、ざ、残念ながら私たちは光や感覚でしか魔力や魔力残滓を確認できないので、完璧な証明はされてません」
「へぇー」
「い、一方、魔族と違い、魔人族の成長過程はいまだに解明されていません。仮説では魔族との成長とあまり変わらないといわれていますが、魔族が生まれてからすぐに生命力と魔力を必要とするのと違い、魔人族は生まれてすぐの頃は生命力を必要とせず、人間のように自己完結して生きれます。こ、これも数少ない魔人族が起こしたであろうとされる事件から予測して出した推論で、五から六歳前後――つまり一般的に人間が魔術を自覚し出す時期に生命力が必要となってくるのではないか、といわれています」
「ヴィスカでも魔人族についてはあんまりわかってないんだね」
「は、恥ずかしいですが、そうですね。な、なにせ魔人族の実験体なんて手に入りませんから……魔人族に関係している事件や、種として似ている魔族を調べて間接的に調べる他ないんです」
その後ウチはドゥルールから魔族・魔人族の基礎的知識の講義を昼まで受けた。
「き、今日はここまでです。アグさんありがとうございました」
「こちらこそありがとう!! いやー楽しかった!!」
「ひ、久しぶりの講義で緊張しましたが、そ、そう言ってもらえるとなによりです。アグさんは今日、まだ講義あるのですか?」
「いや、ドゥルールの以外行く気ないからないよー」
「え、えー!?」
「大丈夫、大丈夫。ウチはヴィスカを卒業するのが目的じゃないから!!」
「そ、そうですが……」
「それにウチにはドゥルールがいるからね!!」
「いや、あ、あ、ありがとうございます。で、ではどうします? き、今日お昼ご飯食べたら一緒に部長に会う方法考えます?」
「そうだね!! ドゥルールがいつも買ってるお店教えてよ!!」
「い、いいですよ」
「それじゃ、お昼食べにしゅっぱーつ!!」
そして場面は―ヶ月後――エリアたち探検部に戻る。




