70 財布は厳重に
「すみません!! このクレープ? の……イチゴクリームください!!」
「元気な姉ちゃんだね~、まいど!!」
と屋台のクレープ屋の店主は笑顔でクレープを焼き始める。
ここはフレイヤの首都ラングの中の飲食店が並ぶ道。
「姉ちゃん見たとろ聖人族じゃないがなんだい、最近流行りの討伐者ってやつか?」
「そうだよ〜、最近流行りの討伐者の中でもまぁ~偉い人なの!!」
と金髪ショートの元気な女は屋台のカウンターに身を乗り上げ生地を焼いている様子を見ながらこたえる。
「そうかい偉い人なのか!! ならいろんなところに行くんだろ、ぜひうちのクレープの評判を広めてくれや!!」
「美味しかったら広めてあげるよ!!」
「そりゃそうだ、ほれ」
と店主が出来上がったクレープを女に渡そうとしたとき。
シュッ!!
女の後ろを素早い何かが通る。
「姉ちゃんスリだ!! 姉ちゃんの財布盗ま……あれぇ? 姉ちゃんは?」
女はもう既に財布を盗んだ相手を追いかけ家々の屋根の上を走っていた。
盗人は四足歩行で手足から猫のような足をかたどった魔力をまとい素早く家の屋根から屋根へ飛び移って逃げる。
「ゲッ!! 今回はバレちまったかニャ」
「逃げられた時から次こそはってことで、重さでわかるぐらい財布に大金を詰め込んでたんだから!!」
「別に大金じゃなくてもいいと思うが……俺としては好都合だニャ、今回も遠慮なく俺の肥やしにしてやるニャ!!」
「その気持ち悪い喋り方やめろ!! 『武器は常手中に』」
と言いながら女はどこからか出したか手の中に短剣を生み出しその探検を盗人に投げつける。
「ニャッ!!」
盗人は腰から青い尻尾を生やし投げられた短剣と弾く。
「当たったらどうするつもりニャ!?」
「なんでウチが盗人の身の心配をしないといけないんだよ!!」
と次々と女は短剣を盗人に向けて投げつける。
盗人は避けたり尻尾で弾いたりしながらなんとかその攻撃に対処をする。
弾かれた短剣は人々が歩く道に落ちる前に全て消える。
「おまえ毎度言うが足速すぎだニャ!! こっちは魔術を使ってまで逃げに全力なんだニャ!!」
「こっちはお前を捕まえるために身体強化に全力なの!!」
「それで追いつかれたら魔術使ってる側からしたらたまったもんじゃないニャ!!」
と軽い言い合いも交えながら街中の家々の屋根の上を短剣を投げたり避けたりしながら走り回る。
その頃別の場所では騎士団が何かを探していた。
「いったいどこに行ってしまったんだ……あぁ私が目を離してしまったばっかりに……」
と地位の高そうなビシッとした黒服を来た男は下を向いて落ち込んでいた。
「こっちにもいないです」
「そうですか、次はあちらのこ方を探してくださいよろしくお願いします」
と黒服の男は数人の騎士に命令を出す。
その時、黒服の男の方に市民の悲鳴が連続して近づいてくる。
「な、なにごとだ!!」
男は悲鳴のする方に目を凝らして見てみると家々の屋根の上で女が男に向かって刃物を投げて追いかけている姿が目に映る。
「なんだあれは!? 私はあちらを何とかしてきます!! 引き続き捜索をお願いします!!」
と騎士に言い残すと黒服の男は懐から短剣より少し小さい。だが、裁縫には大きすぎる縫い針を取り出し屋根の上に投げる。
縫い針は屋根の近くに刺さると黒服の男との間に青い糸が出現させる。
その糸に黒服の男が掴まると糸を縮ませ屋根に登り騒ぎの二人を追いかける。
「ちょっとそこの女性、短剣を投げるのをやめなさい!!」
「ちょっと誰よ!? 注意するならあの盗人にして!!」
「盗人? あの男性が?」
そのなにやら揉める声を聞き盗人は振り返り両手を大きく広げる。
その瞬間盗人と黒服の男の間で同じ思考がよぎる。
(どっかで見た顔だニャ)
(あの顔どこかで……)
次の瞬間手と足に鳥を模る様な青い翼と鉤爪が現れる。
「さらばだニャ!!」
そう言うと盗人は翼を大きく羽ばたかせ高く飛び上がる。
「逃すわけないでしょ!!」
女は飛び上がる男を前に立ち止まりどこからか弓矢を取り出す。
「三秒」
構えるやいなやすぐに飛んでいく盗人に向かって矢を放つ。
盗人は振り返り矢が飛んできているのを確認すると少し身体を捻って軽々とかわす。
しかし女はその動き込みのもう一つの矢を即座に放っていた。
「もう一発!?」
盗人は翼を閉じて矢を防ぐ。
「さあ!! 落ちな盗人!!」
盗人は翼を閉じたことにより揚力を失い地面へと落ちていく。
「あまいニャ!!」
すかさず身体の四肢を猫の手足に変化させ身体を回転させ地面に降りる。
「へッ!! 落ちた時のことぐらい考えてるニャ」
と呟きながら顔を上げると盗人の顔が蒼白に染まる。




