68 【フレイア国立国際大学】ヴィスカ
それはあまりにも退屈な日の連続でその日々を死ぬまで過ごすという事実に気が付き僕はそれに絶望した。
「そこ……お……おい……!」
うるさいな、僕は今、何もかも忘れて寝てるんだよ。
「きみ……キミ!!」
ん? 寝てる? 寝てるのか? 僕は今講義中に寝てるのか?
「そこの君!!」
教授の声が部屋中に響き渡る。
その光景に周りの人間は何を思っているか分からないがクスッと笑う。
「はい!!」
あまりにも退屈すぎて寝ていた。
「寝ていたのか?」
「いえ! 起きてました!」
「では魔法及び魔法陣の基本解除方法を言ってみなさい、起きていたならわかるはずだ」
舐めるなよ爺さんが。
僕は自信に満ち満ちながら立ち上がり話す。
「魔法の解除方法は場合によって異なります、他者に影響している魔法を解く場合はエアルフで魔法を上書きして解除します、魔法陣がある場合はこちらから魔力を流し崩壊させるか、魔法陣に新たな線を描き魔法陣としての成立を解くか、魔法陣の描かれているものを破壊するかです、以上が魔法及び魔法陣の基本解除方法です」
「せ、正解だ」
教授は不服そうに言う。
まぁいつもの流れだ、本当は寝たくは無いのだが僕はいつも退屈なって寝てしまい質疑応答をさせられる。
退屈凌ぎにはいい。
講義が終わると僕はすぐに家に帰り一通りの生きるために必要なことを終えると本を読みながら寝る。
これの繰り返し、生きている意味があるのだろうか?
と考えながら今日は夜遅くまで研究室で卒業するための論文に使う僕の研究資料をまとめ、複雑に入り組んだ街の中を歩いて帰路についていた。
生きる意味とかではなく目の前の研究のことについて考えてなくていいのかって? そんなくだらないことを考えるよりどう退屈せずに生きるかを考えた方が重要だ。
研究内容について? 研究内容は魔族の発生原理に関する研究だ。
実にくだらない、少しは面白いかと思い部に入ってみたはいいものの、想像の上をゆく様な面白さはなかった。
だが転機が訪れる。
僕の人生を面白いものにする転機が今、この複雑に入り組んだ街を歩き帰路に着く最中に訪れる。
「ね〜」
突然背後から声をかけられた気がした。
高い女性の声だ。
一瞬僕かと思ったがこのヴィスカに来てから人と話す機会はあまりなかった、ましてや声をかけられるなんてこと指で数えれるほどだ。
その声を無視して自宅へと歩きだすとまた声がする。
「ね〜てば!」
トンッ
今度は肩に手を置かれる。
どうやら本当に僕に声をかけていたらしい。
思ってみれば周りに人はいない、ならば僕だ。
だが僕に何の用があるんだ?
後ろを振り返るとそこには背丈の低い少女がいた。
なぜ?
なぜここにこんな幼い少女がいるのだ? 飛び級するほどの天才か? いやそれはない、僕以上の天才はいない、じゃあなんだ、時間も時間だフレイアの市民という可能性も低い。
ではなんだ? 最近ブレン島に残滓が集まらなくなったと聞いた、ならば結論は。
「僕に何の用ですか? 魔人さん」
少女は面を食らった顔をする。
「へ~、今の一瞬で考えたんだ、それでその結論に至っても動揺もしない、噂通りの頭の良さで噂通りの変人、やっぱり天才って変人なのかな……」
「それは褒めてるのですか?」
「どっちだろうね?」
「話がそれました、用は何ですか」
「ごめんね、用じゃなくて命令かな、キミに上級魔族を作れる魔法を作ってほしいの」
そう言いながら手から見たこともない黒い物体を鋭くとがらせ僕に向ける。
僕はゾクゾクした、その僕の命を奪うであろう黒い物体にではなく、その少女の出した命令に。
「どう? やる? やらない?」
なんという誘惑的な命令か……これは僕の先の未来に一生来ない刺激だろう。
「やります」
「おぉ〜即決、いいね〜」
「ですが私にどうしろと? ここで上級魔族を作る魔法の研究なんか一苦労ですよ? 実験もできませんし」
「あ〜、魔法陣だけできたら教えてよラルクの紙渡しとくから、どういう魔法かはね〜、え〜と、下級魔族でも中級魔族でもいいから合体させて無理矢理上級魔族を作りたいんだよね〜、多分残滓を集めて一から作るより早いし、自然と上級魔族になるのを待ってたら日が暮れちゃうんだよね〜、それじゃバイバイ、あ!! このこと言ったらこの都市滅ぼすから〜」
そう言うと少女は複雑に入り組んだ街の中に消えていった。
ここから僕の人生は退屈ではなくなるだろう。




