6 初依頼 出発
この世界は五つの知性ある種族、人族、聖人族、獣人族、巨人族、竜人族、がそれぞれの国を造り世界を統べている。そして魔人族が世界の敵として存在している世界。そんな世界で生きる一人の人間の物語。
シェニーとネスはきちんと市場の像の前に集合していた。
そこに集合時間ピッタシにエリアが来る。
ヤバい……この二人なら少し遅れてくるかなと思って時間ピッタシに来ちゃった。
しかもこの二人顔も合わせず、話もせず立ってる。
いつからこの状態だったのだろう……気まずい…。
「あのー遅れてしまいごめんなさい!」
エリアは頭を下げる。
別に遅れてもないのにその空気に耐えることができなかった。
「あなたは別に遅れてないでしょ?」
「何してんだお前?」
とシェニーとネスは冷静に言葉を返す。
「私が早く来すぎただけ」
「俺が早く来すぎただけだ」
その言葉を聞き二人の眉がピクリと上がる。
その空気を察しエリアが即座に話す。
「では!!ご依頼の村まで行きましょうか!!」
そう言いながらエリアは二人の背中を押して村まで歩きだす。
三人で黙々と村まで歩いてる途中、シェニーが口を開く。
「そういえばエリアくんだっけ?」
「エリアで大丈夫です」
「じゃあ私もシェニーで大丈夫、あとタメ口でいいよ」
急なタメ語OK宣言に緊張でも照れでもない変な感情に苛まれる内気なエリア。
「なんでエリアは討伐者になったの?」
「デリカシーのないやつめ、そんなこと聞くもんじゃねえだろ」
とネスは質問を遮る。
「そう?ちなみに私は世界中を旅したいからよ!」
と自慢げに言う。
「へ、大した理由じゃねぇな」
「そう言うアンタはどうなのよ」
「アンタじゃなくネスって呼べ!俺が討伐者になった理由はバカ姉から逃げるためだ」
その話を聞きシェニーとエリアの頭に?が浮かぶ。
「どういうことよ?」
「まぁ説明すると長いけどな、簡単に言うと、バカ姉からずっと剣の修行をつけられてこっちの命がいくつあっても足りないから逃げてきたんだ」
恥ずかしそうにネスは話す。
「ネスの方が大した理由じゃないじゃない」
そう呆れた顔でシェニーは言う。
「あぁ?あのバカ姉を知らないから言えるんだよ!国を超えて逃げても追ってくる化け物だぞ」
ハハハハ
その言葉を聞き二人は乾いた笑いが漏れる。
「それで、エリアは?」
「ぼ、僕は」
「別に良いんだぜ、言わなくても」
ネスはエリアの肩をトントンと叩く。
この人口は悪いけど、案外優しい人かも。
エリアはふとそう感じた。
「僕は六年前に魔人に拐われた妹を探すため、そしてその魔人を倒すために討伐者になったんだ」
「六年前って言ったらクラージュ侵攻の時か……」
とネスはボソッと言う。
「なんか重そうね…ごめん」
シェニーは申し訳なさそうに謝る。
「だから言わんこっちゃない」
ネスはやれやれと首を振る。
「いや別にそんな暗くならなくていいよ」
「ならもう一つ質問させて、その魔人はどんな魔人だったの?」
さっきごめんと言っていたのに、エリアの暗くならなくて良いという言葉を聞き、ズバッと質問するシェニー。
「おい!」
「だって気になるじゃない!それに私たちが知ってたら手がかりになるでしょ?」
「魔人見たことあんのか?」
「あるわけないでしょ?」
「ないんじゃねぇか!」
「魔人なんて滅多に見れるもんじゃないし、そんな化け物、見た時点で命がないよ」
「まぁそれもそうだな」
「それでどんな姿だったの?」
「仮面をつけた魔人だった」
「仮面ね」
「仮面か」
二人はその特徴を聞き首を傾げる。
「いやー知らないね」
「知らないな」
「じゃあ妹さんはどんな姿なの?」
「六年前だから結構変わってると思うけど、肩ぐらいまで長い茶色い髪で、元気いっぱいで、黒く光る魔術が使えるぐらいかな」
「黒く光る魔術?おまえ知ってるか?」
「黒く光る魔術は見たことあるけど、魔術は人それぞれ似たり寄ったり、見当がつかない、まぁ探しながら旅をしてみる」
「そうだな、俺もそうしよう」
そんな話をしながら歩いて行くと、夕方ごろに依頼の村に着いた。
村に着くと村長だと思われる人が出てくる。
「ようこそお越しくださいました、この村フォルスの村長であり依頼主のオルド・マルカスでございます」
「今回の依頼を引き受けた討伐者のエリア・ブラグルです」
「シェニー・タンタスです」
「ネス・ウーピットだ」
3人は礼儀正しく頭を下げる。
「今日はもう遅いので泊まれる場所を用意しておきました、そこで依頼についてゆっくりお話ししませんか」
村長はそう言い三人を村の空き家へと案内する。
連れてこられた空き家は何にも物がない一部屋の家だった。
三人は一部屋か...と思い、嬉しくもないけど、家がないよりマシという嫌でもない変な気持ちになった。
「どうぞこちらへ」
村長はそう言いながら手でこちらに座ってくださいと示し三人を座らせる。
「では早速今回の依頼内容についてなのですが、依頼書にも書いてある通り、村近くの森での魔族の大量発生の原因調査です、一週間ほど前から魔族が大量発生しだして、今はだれも森に近づけなくなって山菜が取れずに困っているんです」
「何か魔族の大量発生に思い当たる点はありませんか?」
シェニーが質問をする。
やはり下から二番目の討伐者のランクとはいえ、依頼は慣れているのであろう、話を進めてくれる。
「思い当たる点ということではないのですが、依頼した森は山に囲まれており地形の関係上、魔力残滓が溜まりやすく昔から魔族が発生しやすい場所なのです」
「なら、原因はその地形なのではないですか?」
「確かに原因と言われてしまえばそうなのですが、あの森には魔族が生命力を吸うことのできる生物がいないのです、なので魔族が発生したとしても数日で消滅するはずなのです、今までも魔族が数日で消滅するおかげでそれほど問題にはなりませんでした」
「だけど今回は魔族がなぜか消滅せずに森で増え続けていると」
「はい、ですのでその調査をよろしくお願いします、あくまで調査なので原因が見つからなくても報酬はお支払いします」
「わかりました、あと依頼書にも書いていましたが大量発生しているのは下級魔族でいいんですよね?」
そうシェニーが最後に質問すると、バツの悪そうに村長は答える。
「はい森を見たところ下級魔族しか確認していませんし、今まであの森で中級、上級魔族を確認したことはありません」
「そうですか」
とシェニーが会話をすべて進めた。
エリアをネスはその様子をただ見ているだけだった。
「では今夜はゆっくりしていってください」
そういい村長は家から出ていった。
「さてと、二人ともさっさと明日に備えて寝るよ」
「お前って結構頼りになるんだな?」
とネスは言う。
「まあ、そうよ!頼りになるでしょ?」
少し照れながらシェニーは答える。
「依頼受けるの初めてなので頼りになりました!」
とエリアも褒める。
「あ、ありがとう!あと敬語はやめてって私たちは仲間でしょ」
すごく照れながら答える。
「早く寝るわよ、あと男ども!ここから先に入ってきたら問答無用で槍で串刺しにする」
とさっきまで照れていたのに態度が一変し床に魔法で線を引く。
「誰がお前なんか襲うか」
とそういいながらネスは早々に眠りにつく。
「じゃあおやすみ」
そういいエリアも眠りにつく。
「おやすみ」
とシェニーも眠りにつく。
ー数分後ー
三人はあおむけで寝っ転がっている。
「みんな起きてる?」
とシェニーが問いかける。
「おう」
「はい」
と二人は返事する。
「今回の依頼少し厳しいものになるかもしれない」
とシェニーは言う。
「どういうこ、と?」
とエリアが慣れないタメ口で返す。
「やっとタメ口で聞いてくれたね、あの村長の言っていたこと、調査する森は魔力残滓がたまりやすい地形、最近になって魔族が消滅しなくって大量発生している、そして森を見たところ下級魔族しか確認していない、そんなことありえる?」
「どういうことだ?」
とネスは返す。
「ネス本当に馬鹿ね…」
「おい」
「普通に考えてもみてよ、魔力残滓が集まりやすい場所で理由はわからないけど、魔族が何らかの手段で生命力を吸い取り生きながらえている、そんな場所に下級魔族だけしかいないはずないでしょ」
「なら中級、もしくは上級魔族がいる?」
とネスは返す。
「そういうこと、中級ならまあいいけど、上級魔族なんかが来てみてよ、私たちなら一体倒せるのでギリよ、それにこのご時世、魔人族が関わってる可能性もある、だっておかしいもの今まで安定していた森の環境が急に変わるなんて」
「魔人族が出ても僕たちには魔術もありますし、案外行けますよ」
そうエリアは言う。
この六年シャリアの酒場でコツコツ毎日修行していたエリアは、自分がどれくらいの強さなのか、魔人がどれくらい強いかわかっていなかった。
それ故のこの発言だ。
エリアの言葉に対しシェニーは返す。
「仮面の魔人を追ってるエリアには申し訳ないけど、無理よ、魔術を使えるっからって私たちが強いってわけでもないし、上級魔族一体なら私たちで案外なんとかなるかもだけど、エリアが目的としてる魔人族を倒せるって人はほんの一握りよ、魔人族は1体で都市を壊滅させれるっていう言い伝えだってあるんだから、強さの桁が違うの」
とその話を聞き空気は一気に重くなる。
「だから明日は下級魔族しかいない森だと思わずに気を引き締めていきましょうっていうこと、じゃあおやすみ」
そんな話をして三人は眠る。