5 仲間
(よしこれにしよう)
(これがいいか)
(これにしようかな)
三人が一つの依頼書へと手を伸ばす。
依頼内容は、ヘルトから少し離れた村からの依頼、森に下級魔族が大量発生する原因の調査。
三人の手が当たりお互い、いや二人は顔を見合わす。
エリアを置き去りにして金髪短髪で175cmぐらいありそうな男と黒髪長髪で165cmぐらいで耳が横に長い女が言い争いはじめる。
「すいませんが、これ私の依頼書ですよ?」
「おまえ何言ってんだ? これは俺の依頼書だ」
女がクスッと笑う。
「あなたの討伐者ランクはどのくらいですか?」
(こいつ………)
「おまえさっき俺が受付を済ましてたのを見て言ってんのか?」
「いえいえ、そんなことはないですよ? ちなみに私のランクはスノウです」
「おいおいおい、テメェのランク下から二番目じゃねぇか!! よくもまぁそんな得意げに言えたな?」
「それでも私の方がランクが上なことに変わりないんだよ? さぁ!! 譲りなさいよ!!」
そう言うと女は男から依頼書を引き離そうと依頼書を引っ張り男も負けじと引っ張る。
「あぁ? 譲るわけねえだろ!! スノウはスノウの依頼探してこいよ!! これはリエラの依頼だ!!」
「この依頼スノウランクの依頼と同じくらいのお金が貰えるんだよ!! こっちの方が楽じゃない!!」
「テメェんなくだらねぇ理由で!!」
「くだらないって!? あなたも似たようなものでしょ!?」
(どうしよ、この依頼諦めようかな、でも二人をこのままにしておくのは)
そんな言い争いをする二人に挟まれているエリアが手を小さく挙げて声をだす。
「あ、あのーせっかくなら三人でこの依頼受けませんか?」
「誰だお前?」
「誰あなた?」
「え……」
となんだかんだあり結局三人で依頼を受けることになり、三人はギムレの二階にある相談室に入って席に座る。
「なんで私があなたと組んで依頼を受けなきゃいけないの? 貰えるお金も減っちゃうじゃない」
(早く諦めなさいよ!)
「それはこっちのセリフだ! さっきも言ったが! 今からでもスノウランクの依頼受けてこいよ? まだ間に合うぞ?」
(こいつ、がめついな)
「さっきも言ったけど! あなたはこの私よりランクが下なんだから譲りなさいよ! まだ間に合うよ?」
「あぁ?」
「やんの?」
三人で依頼を受ける流れになったのにまだ喧嘩を続ける二人。
そう、この金髪短髪と黒髪長髪は変なプライドのせいで喧嘩を止めるタイミングを失い引くに引けなくなっていたのだ。
エリアはプライドなんてなかったが、喧嘩ではなく依頼から手を引くタイミングを見失っていた。
「あ、あのーとりあえず自己紹介しませんか? 僕はエリア・ブラグルです、よろしくお願いします」
エリアが喋ると喧嘩はぴたりと止む。
意外にも聞く耳は持ってるらしい。
「私はシェニー・タンタス、この少し長い耳を見たらわかる通り聖人族よ」
「俺はネス・ウーピットだよろしく」
シェニーとネスはエリアの方を見ながら、さっきまで喧嘩をしていたのが嘘のように、普通の自己紹介を済ませる。
「それで自己紹介は済んだしどうするよ? 特に話すこともねぇし帰るぞ? この女と一緒にいるのはごめんだ、とりあえず明日市場の像の前集合な」
ネスが席から立ち上がると、エリアがもう一つと手を挙げる。
「もう一つだけ、自分たちの戦闘方法について話しませんか? その方が戦いになったときやりやすいでしょうし」
「別に戦闘になっても下級魔族ばかりの雑魚戦だろ? 話す必要もねえだろ」
「おっと、なら明日間違えてあなたに攻撃が当たったらごめんなさい」
「あぁ? テメェこそ俺の邪魔にならないように動けよ? じゃねぇと斬っちまう」
「あのー、話してもいいですか?」
「どうぞ」
「いいぞ」
二人は言い争いをやめてエリアの方に向く。
まるで茶番のような流れだ。
「僕の戦い方は魔術と剣による近接戦です、魔術は地味ですが基礎魔法をさらに強化するみたいなものです、一応基礎魔法以外の魔法も使えますが得意ではないですが」
「あなた魔術つかえるの!? 私も!」
「おまえ魔術つかえるのか!? 俺もだ!」
(なにこの偶然!?)
と二人とも自分に指を差して嬉しそうに言う。
「次は私ね、私の戦闘スタイルは槍と魔術を使った中距離戦で魔術は私の魔力で植物を顕現させるもの、魔法に関しては聖人族だから大体魔法陣を覚えたら使えるよ」
「次は俺だな、俺の戦闘方法はエリアと同じで魔術と剣を使った近接戦だ、魔術は魔力を電気にして使うことができるものだ、魔法は一切使えん」
「あれれ? 魔法使えないの? もしかして基礎魔法もできなかったりして?」
シェニーは口に手を当てながらネスを見下すように言う。
「そうだ……」
「え!?」
エリアとシェニーは驚いた声を出す。
「い、いいや?」
シェニーは煽りでもなく本当にドン引きしたような感じで否定する。
確かに基礎魔法を使えないというのは信じ難い事だ。
基礎魔法とは身体強化、魔力障壁、魔力弾の三つを指しており、名前の通り魔法を使うための基礎中の基礎であり身体強化に至っては練習しなくても微力ながらある程度使える、だから基礎魔法が使えない方が珍しい。
「基礎魔法なしでよく生きてこれたね、こんな人いるんだ!!」
シェニーは一周回ってドン引きが大笑いに転じる。
「明日魔族と間違えて斬り殺しちまったらごめんな格付け女」
「私こそ明日魔族と間違えて、槍で串刺しにしてしまったらごめんね、魔法音痴」
二人の頭に一気に血が上る。
「『ポイスト』」
そうシェニーが唱えると魔法陣から立派な槍が出てくる。
ネスは腰に掛けていた剣を抜く。
(もう宿に帰りたい……)
そんな光景をそっちのけで、もう早くここから逃げたいエリアは口を開く。
「えーとさっきも言ってましたが、明日の朝、市場の像の前集合でよろしくお願いします」
「わかった」
「おう」
(この人たちと明日の依頼こなせるかな……)
エリアはそんなことを思いながら夜眠りにつき明日が来る。
次の日、シェニーとネスはきちんと時間より早く市場の像の前に集合していた。




