65 最後の特訓
話し合いを経た次の日の昼時、エリアたちは木の枝ではなく武器を構えノルダの前に立つ。
ノルダも木の枝ではなく、腰に携えた刀を抜く。
「本気で来なよ、僕が本気じゃないって判断したら指一本ぐらいは飛ばすからね、じゃあ、特訓の成果見せてもらおうか!!」
とノルダが大きな声を武器を構える三人に向けて発すると三人は力強く再度構え直し最初にネスが走り出す。
「『電身』」
魔術と身体強化の合わさったネスの動きは特訓前とは比べ物にならないくらい速かった。
「成長したね」
そう言いながらも軽々と刀でネスの攻撃を受け止めるノルダ。
「最強と戦えるなんてこう考えれば光栄だな!!」
ネスはノルダに力負けして後方へと吹き飛ばされ宙を舞う。しかし、それはあまりにも綺麗な吹き飛ばされ方、なんたって吹き飛ばされた時点で宙で着地した次の瞬間には攻撃できる準備をしているからだ。
そして地上からは宙を舞うネスをくぐりシェニーが槍をノルダに向かって突き立てる。
ノルダは槍を刀で受け止めるがシェニーの腰辺りからノルダめがけて先のとがった鋭い木が伸びる。
「『樹尾』」
「こんな魔術の使い方を思い付いてたんだね、いいね」
ノルダはシェニーの槍を弾き後ろに下がる。
しかし樹尾は弾かれた槍とは関係なく後ろに下がるノルダに向けて伸びる。
ノルダは下がりながら伸びてくる樹尾に向かって刀を振り上げ樹尾を真っ二つにする。
樹尾は二つに避けてしまうが、避けた二つはノルダに向かって伸びる。
(なかなか面倒な魔術になったね)
そんなことを思いながらも二つに分かれて自身に伸びてくる木を刀で粉々にするノルダ。
すると後ろに下がり距離を置いたノルダの足元から草木が生えそれがノルダに巻き付き身動きを封じる。
「『箱森』」
(薔薇縛の改良版ね、いいじゃん)
ノルダは箱森を力で振りほどく。
「うそでしょ!? あの魔人でもちょっとは止めれたのに」
ノルダが箱森を振りほどくと辺りはシェニーが地面からはやした巨大なツタだらけになっていた。
(エリアとネスの姿が見えない……)
エリアの姿はシェニーが辺り一面な生やしたツタのせいで見えなくなっていた。
すると後ろのツタが急に道を開けるように開ける。
「そりゃ後ろだろうね」
ノルダは予測通りの攻撃に刀を構える。
しかし振り返って見た光景はノルダの心を踊らせた。
(エリア……そこまで……まさか本当にあの……)
ゴーン!!
エリアの剣が黄色く光り輝くと同時に大きな音が鳴り響き、振り下ろす剣の軌道に光る歯車が出現するその光景に心を踊らせた。
「あれが……」
「すげぇじゃねぇかエリア!!」
―ノルダとの戦闘が始まる前―
エリアとネス、シェニー三人は集まりどうノルダを倒すか作戦を考える。
「作戦っつてもなんもなくねぇか?」
「いやそうだけど、ほら最初の行動ぐらいは」
「ネス、シェニー、二人に言いたいことがあるんだ」
「なにエリア?」
「僕の魔術についてなんだけど」
―ノルダとの戦闘―
「『輪廻』!!」
ノルダは微笑みながらエリアの剣を受け止める。
「それが本当の魔術なんだねエリア」
「そうです!!」
振り下ろされたエリアの剣を受け止めたノルダの刀は最初は押し返していたが次第に押し負けていく。
「すげぇ、ノルダに押し勝ってんのか?」
「あれがノルダの魔術の力?」
剣の通った軌道上に出現した歯車はゆっくりと回転しノルダを弾き飛ばす。
はじめてできたノルダの隙らしき隙にエリアとネスとシェニーが走り出す。
目の前が一瞬赤く光る。
「あっつ!!」
一瞬だが全身が焼けるような熱がエリアたち三人を襲う。
身体は反射的に熱から守るために体を縮め目をつぶる。
次に目を開けるとノルダは刀を鞘に納めていた。
「はい、おしまい!!」
三人はその言葉に武器を下げる。
「君たちの力はよくわかった、よくここまで強くなったね」
「な、なんか締まり悪いわね……」
「いいでしょ、怪我せずに終われるんだから、キミたちは明日フレイヤに行くんだよ? ボロボロの状態で行きたいの?」
「いや、まぁそうだけど、最初もあっただろ? 最後の特訓だぜ、なんかねぇのか?」
「なんかって……別になにもないけど、キミたちは僕が最初に挙げた欠点を克服したんだ、それを今の戦いで教えてもらった、たったそれだけ、最後の特訓としては百点でしょ、それじゃ明日までゆっくりしてなー」
とノルダはエリアたちに手を振りながら木の上の自分の家に戻っていく。
最後が故の言葉はなくノルダはいつも通りの態度を示しエリアたちはがっかりでもないが、なにか拍子の抜けた顔をする。
その日の夜ノルダの家で寝ていたエリアは扉の開く音で目を覚ます。
「ん…………」
目を擦って周りを見てみるとネスは隣で、シェニーは少し離れた場所で寝ている。
(ノルダさんがいない……)
ネスとシェニーを起こさないようにそっと立ち上がりエリアは外に出るとノルダが家の建っている木に寄りかかり星を見ているのを見つける。
それは物思いにふけているのか、喜んでいるのか、悲しんでいるのかわからない。
エリアはそっと地面に降りてノルダのそばに近づき話しかける。
「あの〜ノルダさん?」
「ごめんね、起こしちゃったかな?」




