60 感味
四人は朝早くからノルダの家を出てスルトを目指し、スルトには人々が仕事を始めるぐらいの時間帯についた。
侵攻を受けたスルトの街は前に来た時のように活気あふれた街ではなく、復興に努め、悲しみに包まれる街になっていた。
一周間ちょっとで侵攻当時の街から少しは良くなり目に見える場所では死体がそこらに転がっているということはない。
「ノルダさんちょっとだけ寄り道していいですか?」
「別にいいよ」
「ほ、ほんとに? 五天様に怒られたりしないよね?」
「大丈夫だよ、多分」
「では昨日少し話した感味という店に寄らせてください」
とエリアの要望で四人で路地にある感味に寄ることになった。
「あれ?」
エリアたちが感味があったはずの場所に着くとそこには店のようなものはなく、そもそも扉さえないただの路地の壁だった。
そういえばゼパルさんが僕たちを騎士団から匿ってくれた時も騎士団はなぜか扉に気が付かなかったっけ?
「ここに店があったんだよね?」
「はい、そのはずなんですけど……」
とエリアが答えるとノルダは扉があったであろう場所の壁に手を伸ばす。
すると、ノルダが手を伸ばした先の壁が青く光り始める。
「たしかにここの壁に魔法がかけられてるね」
(モルクか……)
とノルダが呟くと手を伸ばした先の壁が急に扉に変わりその扉がバッと開く。
「ちょっと、何をしてるんですか!!」
と大きな声で焦りながらゼパルが飛び出すように出てきた。
ゼパルは扉の先で立っている四人の顔を見るや否やホッとした表情に戻る。
「エリアくん達でしたか……そういえばこの店への入り方を教えていませんでしたね、どうぞ入ってください」
ゼパルは四人を店の中に招き入れるとここに座ってくださいと店の中では数少ない椅子を手で示し、四人が座った椅子の机にそそくさと飲み物を持ってくる。
「あ、ありがとうございます」
ゼパルは四人の前に飲み物を置くと椅子を引いて四人と一緒の机を囲む。
「今日はどうしたんですか?」
「あ、えーとあの侵攻後感味がどうなったのか気になって、それにあの時ドタバタしてまともにお礼を言えませんでしたし」
「そうでしたか、お店は大丈夫でしたよ、なんたってこんな路地の奥にあるのでね、エリアくんたちも無事でよかったです」
と低くも落ち着いた声で答えるとゼパルはノルダの方を見る。
「あのそちらのこの店に強行突破しようとしてきた人は誰ですか?」
「あ、失礼、自己紹介が遅れたね、僕はレヴィ・ノルダよろしくね」
とノルダは立ち上がりゼパルに握手を求める。
「あなたがノルダさんですか、噂は三人から聞いてますよ、私はゼパル・ホウクトゥス、ゼパルと呼んでください」
と言いながらゼパルはノルダと握手をする。
「まぁ、どんな噂かは聞かないようにしとくよ、それで無事も確認できたことだしそろそろ行くかい」
「そうですね、ゼパルさんあの時は騎士団から助けてくださりありがとうございました、それに魔人にやられそうになった時もほんとうに」
とエリアとネスとシェニーは立ち上がり頭を下げる。
「いえいえ、そもそも最初はわがままで君たちをこの店に招いたわけですし、こちらこそあの恐怖の感情をいただいていますし、ありがとうございました」
とゼパルは三人に手を伸ばし握手を求め、エリアたち三人は感謝の握手をする。
「それじゃ行くよ」
「あ、もう行かれるのですか?」
「用事があるからね」
とノルダはそんな光景を横目に扉の前で三人を待つ。
エリアたちはその声に誘われ急いで扉に行く。
「ありがとうございました!!」
と三人は声を大きくして感謝を述べると店の外に出る。
その三人に続いてノルダが店を出る時一言ゼパルに向かって言う。
「このお店のこと騎士団には言わないであげるよ」
「あ……ありがとうございます」
エリアたち四人はゼパルの店を出るとノルダを先頭に街の中心に聳え立つ城に歩き出す。
ノルダ以外の三人の足は重い。
三人は思い出したのだ、昨日のあまりにも衝撃的なノルダからの発表で気が回っていなかったが思い出したのだ。
忘れているかもしれないが、スルト第四騎士団を壊滅させた本人と騎士団から疑惑のかかっている三人だ。
侵攻前の前日は似顔絵で指名手配されていた身、今からその騎士団の本拠地、いや本拠地なんかじゃないそのトップの五天、騎士団総団長に会うのだ行く足が軽いわけがない。
そうトボトボと歩いていると城に着いてしまった。
ノルダはそんな三人の心境関係なしに城の城門の騎士に話しかけに行く。
三人は咄嗟に騎士と顔が合わないように下を向いてノルダが帰ってくるのを待つ。
ノルダは不思議な顔をして顔を下げている三人に話しかける。
「それじゃ話もついたし五天に会いに行くよ」




