59 スルト侵攻決着
「五天様……?」
エリアが力を振り絞って顔をあげると、そこには、短刀を片手に持ち四肢を青く光らせ、息の絶え絶えな五天、ルフル・スルトが立っていた。
「君はあの森にいた子ですよね、私が手配書を描いて探すように言ってたけど、まさかこんなところで会うとは、聞きたいことはありますが、また後にしましょう」
そう言いながらエリアを抱えてクレーター状になっている地形の端にエリアをそっと置いてオウヴェルディに向き直り短刀を構える。
「君がここまでこの魔人と戦ってくれたのですね、感謝します」
「いや……あの……」
そう言い残すとルフルはすぐにオウヴェルディに向かって走り出す。
(イェリスは何をしていたんだ、トッシュで殺さなかったのか? なぜだ? リベルを落とすには五天を殺しておくことが手っ取り早いという話だったじゃないのか? なぜ生かしている?)
オウヴェルディは一抹の不安を抱えながら向かってくるルフルに殴りかかる。
ルフルは一瞬で殴り掛かってきたオウヴェルディの腕を短刀で斬り落とす。
(思い返せばまだおかしいことがある、リベル侵攻に参加している魔族の数だ、当初計画していた数より少ない、それに俺がここで時間を食ってしまっているとはいえ、城が落ちるのがいくらなんでも遅すぎる、なぜだ? この侵攻の目的はスルトを滅ぼして乗っ取ることではないのか?)
ルフルはオウヴェルディの腕を切り落とすと次の攻撃に移り、オウヴェルディの首めがけて斬りかかる。
オウヴェルディは不安感で判断が鈍るも後ろに下がり攻撃をかわしながら距離を取り、冷静さを取り戻すため一呼吸置く。
(落ち着け、まずは目の前のことを考えるんだ、様子を見る限り残り魔力は少なそうだ、トッシュから獣人化を使って走ってきたのか? それならまだ勝算はある、俺の魔力も少ないがまだ余裕はある、時間をかければ俺の方が魔力量で上回れるはずだ)
(様子を見る感じあっちも相当魔力を消費している、だけど私の魔力はもうない、短期決戦で終わらせないと)
ルフルは再度距離を取ったオウヴェルディに物凄い速度で近づく。
オウヴェルディは近づいてくるルフルに対して拳をふるうがルフルは華麗に避けてオウヴェルディの周りを離れずに一定の距離感を取る。
(何かを狙っているのか?)
オウヴェルディはルフルの行動を不審に思いながらも近くでウロウロするルフルに対して拳をふるう。
だがその拳は当たることはなく、オウヴェルディを焦らせる。
(攻撃が当たらない、的が小さく、動きが速すぎる……身体強化・強で周りを吹き飛ばしたいが、魔力が……)
とその時オウヴェルディは不安感から集中力の欠如からか、致命的な、次の攻撃につなげられない避けられ方をされてしまう。
ルフルはその隙を見逃さずに、オウヴェルディの後ろに回り込むと、片目に天の文字を浮かべ、短刀の先端を銀色に光らせる。
「『絵空事』」
そう呟き、ルフルは短刀の先端で空間に銀色に輝かく文字を書く。
『黒象』
書いた文字からは黒い何かがオウヴェルディの背中めがけて伸びる。
(これはイェリスの魔術!! なぜ!?)
黒い何かを避けるためにオウヴェルディは身体をひねらせる。
しかし、即死級の一撃は避けることができたが、黒い何かはオウヴェルディの脇腹を大きく貫く。
(これが本当にイェリスの魔術ならこれで詰みだ、でもこれはあくまであの五天の魔術)
オウヴェルディは自分を貫いた黒い何かを力強く殴り、貫いた根元部分をへし折ると回復のために一旦距離を取ろうとする。
ルフルはオウヴェルディが黒い何かをへし折って距離を取ることを読んでいたのであろうか、貫かれ一時的に動きを止めたオウヴェルディの首、真人の心臓部を破壊しに行かずに低い位置に『黒象・薙』と再度書き記していた。
空間に描かれた『黒象・薙』から黒い何かがオウヴェルディの両足めがけて薙ぎ払われる。
オウヴェルディの両足は黒い何かに切断されオウヴェルディは地面に膝をつく。
ルフルはこの絶対的な、不確定ではない、絶対的な隙を待っていた。
ルフルは好機と踏んでめいっぱいに地面を踏みこむ。
一方オウヴェルディは地面に膝をつきながら地面の一点を見つめている。
なにか最後の抵抗をするわけでもなくただ一点を、するとオウヴェルディは両手を強く握り振り上げる。
(こっちに攻撃を示すわけでもなく、なにを!?)
とルフルは踏み込みながらも戸惑っていると違和感に気が付く。
(力がはいらない……魔力切れ……)
と強く踏み込んだは良いものの、その場に膝から崩れ落ちる。
オウヴェルディはその様子に気が付くことはなくこう呟く。
「『身体強化・極』」
(まずい……間に合わない)
その場にいる動けないエリアとルフルはその光景を見守るしかない。
そうしてオウヴェルディが両の手で作った握りこぶしを地面に振り下ろそうとした瞬間、オウヴェルディは背中から地面に倒される。
「いやー、良い時に来たみたいだね」
とそこに立っていたのは、オウヴェルディの両の手で作った拳をもって地面に押し倒した一人の男の姿だった。
(だれ?)
と壁にもたれながら困惑の表情をするエリアに対して、五天ルフルは感極まった表情を表す。
そんな二人を放っておきながら男は目の前の、地面に押し倒してた大男に話しかける。
「君が魔人だね、結構苦戦してるみたいだね」
「また邪魔か……人間、誰だおまえは……」
「それはね」
と男は周りを見渡した後にこう言う。
「まぁ、そんなことはいいでしょ、それで今から君は死ぬんだけど、その感じ、よっぽどかわいそうなことがあったんだろうね、最後に言い残すことぐらいは聞いてあげるよ?」
「最後に言い残すことか、いいのかそんな聞く余裕が人間にはあるのか?」
「あるよ、僕は強いからね、君がどんだけ抵抗しようと一瞬で、隙も与えずに殺す」
「そうか……言い残すことはない人間」




