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輪廻伝記〜この世界を生きている〜  作者: 今日 虚無
獣人の国スルト編

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58 炎の中

(熱くない炎……目眩しですか、いやはや、これは困りましたな、炎で何も見えませぬ、自身の体を燃やしていたのはこの炎にまぎれるため)


「『パーセムセロ(感覚強化)』」


そう唱えながらグシオンは手のひらの上に魔法陣を描き銀青色に光らせる。


(いやはや、この炎が魔力からできている以上、この炎の中からレーヴァさんだけを感知することはできませんな、そうなると……)


グシオンは上を見上げるとその時、首元に妙な感覚が走る。

グシオンは咄嗟に痛みが走った首元とは反対の方向に下がる。


(いやはや、いきなり首を落としに来ましたか……上は炎が届いてないので少し高いところへ逃げようと思いましたが……そんな隙はなさそうですね)


と考えてるさなかも炎の中から見えない炎の斬撃がグシオンを襲う。

グシオンは一瞬の炎の揺れを見て何とか斬撃を防ぐが、それでも防ぎきれない斬撃がグシオンの体に刻み込まれる。


(致命傷を避けれてはいるが、このままではじり貧でこちらの魔力が尽きてしまう、隙が無いなら作らねば)


グシオンは致命傷となる傷を避けながらひたすら隙を作る機会をうかがう。

一撃の致命傷を避けられたとて自身の体に傷が付き、魔力がどんどんと減っていく、時間は限られている。


(今!!)


グシオンは目の前の炎が揺れる瞬間を待っていた。

レーヴァの攻撃よりも速く動けるように、その一点だけを集中して待っていた。

グシオンは目の前の炎が揺れると刀を持っていない手で瞬時に魔法陣を描き、揺れている炎に放つ。


「『イスク(手の上の風)』」


すると魔法陣から強烈な風が揺れている炎に向かって放たれ、炎を全身に纏いグシオンに向かって刀を振るうレーヴァの姿がほんの一瞬あらわになる。

その一瞬を見逃さず、グシオンはレーヴァの刀を避けるために後ろに下がりながら刀を空振る。

空振られた刀からはレーヴァに向かって一直線に斬撃が飛ばされる。


(おぉ)


レーヴァはグシオンに向かって振っていた刀を即座に防御にまわし危なげなく斬撃を防ぐが、あまりの威力に大きく後退しグシオンとの距離が離れる。

そのうちにグシオンは炎の届いてない家の上に上がり炎幕から逃れる。

レーヴァは家の上に上がり炎幕からグシオンが逃れたことを確認すると即座に魔術を解除する。


「いやはや、やっと見晴らしがよくなりました」


「うまく逃れたからといって、もう魔力もあんまり残ってないでしょ?」


「いやはや、そうでございますな、私もここらで帰らせてもらうとしましょうか」


「二回上手くいくと思うなよ?」


「そうでございますね、ではあなたもとっておきの魔術を見せてくれたように、私もとっておきの魔術をあなたにお返ししましょう」


そう言うとグシオンはグッと腰を低くし刀を鞘に入れて、いつでも抜刀できる構えを取る。


「この早業見えますかな?『斬死首貫(ザンシシュカン)』」


ブオン!!


その瞬間、空間が悲鳴を上げるようなものすごい音が響き渡る、すると数で言うと二十余りの斬撃がグシオンの鞘に収まっている刀から一斉にレーヴァに向かって放たれる。


「これは……」


「今回は私の負けですが、またどこかで手合わせできたら嬉しく思います、わたしもその日までにもっと腕を磨くとしましょう」


そう言うと手のひらから大きな魔法陣を展開しグシオンはその魔法陣に飲み込まれながら消えていく。


「負けね……こんなえげつない魔術を隠していながら……」


レーヴァは魔法陣に消えゆくグシオンを横目に飛んでくる二十余りの斬撃に構える。


「『獣人化(ジュウジンカ)』」



場面は移り、オウヴェルディ(魔人)の攻撃をもろに受け地面に倒れるエリアに拳をふるう瞬間へと。


「じゃあな人間」


「まだ……なにか」


その瞬間、なんとタイミングの良いことか、オウヴェルディの振り下ろされた腕は宙を舞い、オウヴェルディの体は大きく吹き飛ばされる。


「また邪魔か……今日はどれだけ運がないんだ……」


オウヴェルディが顔をあげ、エリアの方に目をやると、そこにはオウヴェルディにとっては訳のわからない光景があった。


「なぜだ、なぜ五天(神の選びし五つの天)がここにいる」


そう、そこには息を絶え絶えにした獣人族の五天、ルフル・スルトが立っていた。

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