57 老人の戦い
「レーヴァ・スルトね、久々にその名前で呼ばれたよグシオン・カルス、まぁ、お爺さん相手に正体を隠しながら勝てると思ってなかったけどね」
レーヴァは後ろをチラッと見て少女を確認する。
(後ろのあの子はこっちに来る様子はない、城にも行きそうにはないね、やっぱり嘘か)
「いやはや変わられましたなレーヴァさん、以前は無口で常に殺気立っているお人だったのに」
「そりゃそうだよ、千年もあったら変わる、変わらない方が不思議だよ」
「本当ですね、前よりも弱くなっておられる、剣技は変わっておられんが、全体的な動きが悪い、千年前が全盛期でしたか」
「言ってくれるね、安心しなよお爺さん、正体もバレたことだし、こっからは本気だよ」
「いやはや楽しみですな」
「まぁ、そんなことはどうでもいい、それで今回の侵攻の目的はなんだ?」
「いきなりそれを聞きますか、答えるとお思いですか?」
「なら答えなくてもいいよ、どうせ僕の生存確認ついでのうまくいったらスルトを乗っ取るっていう感じなんじゃない? 転送魔法なんか使うんなら一瞬でこの国なんか落とせるはずだ、いい感じに危機に直面したら僕が出てくる読みだったんだろ、で伝わってる史実通り死んでるのならこの国を乗っ取れるってわけだ」
「いやはやそうですね、それが正解です、あなたが生きているかどうかでこの国を落とせるかは決まりますからね、あなたが生きていた場合、本気でこの国を落としにかかればこっちも最大限の損害を受ける可能性がある、ならば生存確認だけを目標にして最低限城を落とせるだろう戦力で攻めるということです」
「それでそっちの魔人は何人いるの?」
「いやはや、言うわけないでしょう」
「それもそうだ、それじゃ戦いを再開する前に最後の質問、あの少女の名前はなんだ?」
「いやはや、なぜそのようなことを聞くのですか?」
「あれは魔人じゃないだろ?」
「そう見えますか、言いませんが」
「それが答えだ」
そう言うとレーヴァは少女に向かって走り出す。
「こっちに来なさい!! あなたの勝てる相手じゃありません!!」
少女はグシオンの言葉を聞きレーヴァの後ろにいるグシオンのもとに走り出す。
グシオンは斬撃四本を少女に向かっていくレーヴァに向かって放つ。
レーヴァは振り返り斬撃四本を刀でさばいて地面に着弾させると振り返って刀を持っていない手の平の上に魔法陣を描いて少女のもとへまた走り出す。
「リーブルを使いなさい!!」
とグシオンが叫ぶと慌てて少女は手の平から巨大な魔法陣を描き始める。
(逃げられる!!)
レーヴァはグッと地面を強く踏むと再度加速して展開した魔法陣に飲み込まれていく少女に魔法陣の描かれた手を伸ばすが、レーヴァの手は届かずに少女は魔法陣の中に消える。
「やっぱりそうかグシオン、あの子アフィクタで記憶を変えて操ってるんでしょ、ということは魔人王が復活してるのは確実だね、こんなことするのはあれぐらいだし、まぁ僕の生存を確認するあたりもあいつらしいけど」
「いやはや、それはどうでしょうか」
「嘘が下手だねグシオン、まぁこれで遠慮なく戦える、人を殺す趣味はないからね」
「いやはや」
レーヴァは屈むと地面に魔法陣を描きその魔法陣を発動させる。
「『モルク』」
レーヴァがそう唱えると魔法陣は青く光りだし半径百メートルちょっとを青いベールが覆う。
「この魔法陣を壊すような野暮なことはしないでよグシオン」
「周りからこの空間の中の存在を認識できなくしましたか、いいでしょう、『斬』」
そう言うとグシオンは刀をものすごい速度で振って四つの斬撃を放つ。
「久しぶりに戦いで魔術を使うかな、『炎死』」
そう言いながら飛んでくる四つの斬撃に向かって刀を振ると炎が発生し青く光る斬撃を灰にしてしまう。
「いやはやその殺意しかない魔術、あなたの魔術が一番厄介です」
「そんなことないでしょ、『炎衣』」
そう唱えるとレーヴァの体は見る影もなく炎に包まれる。
「いやはや、それはどういうことですか?」
グシオンは燃えるレーヴァを指差しながら問いかける。
「まぁまぁ、そんな慌てないのお爺さん『炎幕』」
そう唱えるとあたり一体が炎の海へと変貌する。
「なんだこれは……炎で何も見えない……」




