4 旅立ち
―六年後―
エリアは16歳になっていた。
この六年間、剣を振い、魔法を学び、魔術を磨き、シャリアの酒場の手伝いもし、筋骨隆々のマッチョではないもののたくましく育っていた。
そしてこの六年でエリアだけでなくもちろん世界も変わっている。
六年前のクラージュ侵攻から世界各地では魔族だけでなく滅多に姿を現さなかった魔人族までもが姿を見せ始めた。
クラージュ侵攻が終わってすぐに各国は合同で調査員をブレン島に派遣した。
調査の結果、魔人王が眠っていたとされるところには何もなく、魔族の姿も一切見えないただの島になっていた。
この調査結果を受け、魔人王が復活したと推測し、各国はこの六年消えた魔人王の行方を探している。
それに伴い四年前、ギムレは所属していた討伐者から多くの魔族の討伐、依頼の達成をしていた上位五名を五大守護者として選出し、その五名に各国を自由に行き来できる権限を与え魔族、おもに魔人族の討伐、魔人王の捜索に力を入れている。
ここは人の国ヘイムダルの首都ヘルトから少し離れた小さな村、そして今日はエリアがテレサと仮面の魔人を探す旅に出る日だ。
「シャリアさん六年間ありがとうございました」
そう言いながらエリアは深々と頭を下げる。
「本当に行くんだね?」
「はい! 行ってきます!」
「ずっとここで酒場の手伝いをしてくれてもいいんだけど……」
とシャリアは小声で言う。
「なにか言いました?」
「なんでもない!」
シャリアはエリアの背負っている袋を指差していう。
「袋に食料とお金少しだけ入れておいたから」
「少しって12万ソイは少しじゃないですよ!!」
「いいのよ! きっと役に立つはずよ!」
「ありがとうございます!」
エリアはまた深々と頭を下げる。
「エリア、あなたの家はここなんだから絶対に帰ってきなさい!!」
「はい! 必ずまたここに帰ってきます!」
「じゃあ、いってらっしゃい!」
「はい! 行ってきます!」
エリアはヘルトへと歩き出す。
「あ! ちょっと!」
シャリアは何かを思い出しエリアを呼び止める。
「ボウクルに会ったら次ヘルトに行った時ときご飯奢ってって言っといてー!!」
そう言いながらシャリアは手を振る。
エリアも手を振りかえす。
「わ、わかりましたー!!」
―二日後―
エリアは首都ヘルトの騎士団本部に着いていた。
へルトの石造りの街中でも一際大きな建物だ。
その建物の門の前にエリアは立っている。
(まずはデュールさんに挨拶を)
エリアは騎士団本部の門の前にいた騎士に話しかける。
「すいません、デュールさんはいますか?」
「デュール隊長ですか?」
「はい!」
「どういったご用件でしょうか?」
「あ、え〜と、お礼を言いたくて……」
「申し訳ございませんが、デュール隊長はお忙しいのでそういったご用件には対応できません」
「そ、そうですか……」
(どうしようかな……デュールさんには会っておきたいけど、ここでまってみようかな……)
そんなことを考えているとき一人の見知った男が騎士団本部から出てくる。
「お! エリア君ではないか!」
手を振りながらデュールがこちらに歩いてくる。
「いや~、さっきシャリアからそろそろエリア君がヘルトにつく頃だと連絡がきてね! 門まで迎えに行こうとしてたんだよ!」
デュールは本部の前にいた騎士そっちのけで話し始める。
「いや~、少しエリア君のほうが早かったみたいだな!」
騎士が申し訳なさそうに尋ねる。
「あの~お仕事のほうは~」
「大丈夫だ!! 今は昼休憩だ!!」
「ではエリア君、お昼ご飯を食べに行こうか!」
「は、はい!!」
デュールの勢いに流されエリアはお昼を食べに行くことになった。
「ご注文は決まりましたか?」
ボウクルはメニューを見ながらこう言う。
「私はこの豚のステーキを」
(あ、え~と)
「僕も同じもので」
数分後料理が届き二人は話に花を咲かせながらお昼を食べる。
「そういえばデュールさん、シャリアさんが次ヘルトに行ったらご飯を奢ってと言ってました」
「そうか、いつも奢っているのだが、その時がきたら存分にご飯を奢らせてもらおう!!」
(そうなんだ……)
「お仕事大丈夫だったんですか?」
「大丈夫だよ!! 毎日泊まってるからねあまり仕事は溜まっていない、溜まっているのは色んなところで発生する魔族の討伐依頼と、魔人族の目撃情報があった場所の調査だな!!」
「そうですか、最近はやっぱり多いんですか?」
「多いぞ、色んなところで魔族が人を襲ってる、最近は一つの村が壊滅したという事件が起きたりとね」
そんな話をしているとあっという間に昼食を食べ終わる。
そして案外あっさりと別れの時が来る。
「ではここでお別れだエリアくん!! 私は仕事へと戻らせてもらおう!!」
「お昼ご飯ごちそうさまでした」
「ハッハッハッ気にするな!! それでこれからどこへ行くのだ?」
「まずはギムレで討伐者の登録をしようかと、旅先でもお金を稼ぐのに楽なのは討伐者になることかなと思いまして、そのあとは、一旦クラージュに行こうと思ってます」
「そうか、ではこれから先きみの旅が順調であることを祈ろう」
そう言いながらボウクルは騎士団本部へと帰っていく。
その背中にエリアは頭を下げる。
「ありがとうございました!!」
ボウクルは振り返らずに手を挙げる。
エリアはボウクルが見えなくなるまで頭を上げなかった。
そしてエリアはギムレの方へと歩き出す。
ギムレまで少し歩いていると市場に出る。
この市場は11年前、神誕祭の時に来た市場だ。
「このお肉安いよー!!!」
「これもう少し安くならない?」
「あのお菓子買って〜」
「最近神隠し事件が起きてるらしいぞ」
「討伐者になって無職を免れようか……」
「おいここにあった林檎が金になってるんだが?」
「こっちこっち〜」
市場は人で賑わっている。
(懐かしいなー、この市場)
少し歩くと市場にある広場が見えてくる。
その広場の真ん中には、剣を突き上げる女の人にその周りで屈んでいる五人の像がある。
(あの像! 懐かしいなー、お母さんが言ってたっけ、あの女の人は導きの神様だって)
そんなこと思いながら市場を抜けるとすぐにギムレが見えてきた。
エリアはギムレの受付に行き討伐者の登録をする。
「すいません、討伐者の登録をしたいのですが」
「ではここにお名前とご年齢、あと入会費をお願いします」
エリアに冷や汗が垂れる。
(入会費!! まずい考えていなかった!! 考えたらわかることなのに!! シャリアさんから貰った12万ソイで足りるか……足りても依頼を受けないとお金がすぐに無くなっちゃうな……)
「入会費は何ソイになりますか?」
「10万ソイです」
そう、エリアがギムレに入ると言っているのにお金を準備していないのを見てシャリアはお金を多く渡していたのだ。
(ありがとうございます、そしてごめんなさいシャリアさん!!)
「ではエリアさんのランクはリエラからになります、多くの依頼をこなせるよう応援しています、討伐者のランクはリエラ、スノウ、グルース、コバルト、ユビル、その上にユビルから選ばれた五代守護者となります、依頼のランクも同じです」
受付の人はそう言いながらカードをエリアに渡した。
エリアはなんとか無事にギムレに所属することができた。
「ではギムレの規則について説明します、今あなたに渡したそのカードは持っているだけで都市間の通行料は半額となります、ですが重大な犯罪行為が確認されましたら討伐者カードの剥奪、加えて重度の犯罪とギムレ本部が判断しますとギムレから犯罪者を処罰するための刺客が送られます、それから依頼については討伐者のランクごとに受けれる依頼にも制限があります、自分より高いランクの依頼を受けたいときはその受けたい依頼と同じランクの討伐者とチームを組むようにしてください、半年間一回も依頼をこなせない場合討伐者カードの効力は無くなります、依頼はギムレ内にある掲示板に紙が貼られています、受ける際は紙を剥がし受付まで持ってきてください、これで説明は以上となります」
「わかりました、ありがとうございます」
(次の旅先までにお金が持つかわからないしお金をここで稼がないと、リエラの依頼でも報酬が高い依頼ないかな?)
そんなことを考えながらエリアは掲示板へと向かう。
「うーん、なんとなくわかりました」
もう一人金髪短髪でエリアと同い年に見える男も説明を受け掲示場に向かう。
黒く長い髪、少し耳の長いエリアと同い年に見える女がギムレに入ってくる。
運命か偶然かその三人は並んで掲示板を見ることになる。
(よしこれにしよう)
(これがいいか)
(これにしようかな)
三人が一つの依頼書へと手を伸ばす。




