54 それは眠る力
「本当に私でいいのですか?」
またあの声が聞こえる……なんだここ? 何も見えない真っ白な世界……声だけが聞こえる……なにを話してるんだろ……。
「私はあの方のようにできるのでしょうか?」
誰のことを言ってるんだ?
「知らん、だがおまえはやるしかない」
やるしかないって? 誰と話してるんだ? あれ? 体が揺れてる、誰かの背中……。
エリアが目を開けると誰かの背中の上に乗ってどこかに連れていかれている最中だった。
「ここは……」
「気が付きましたか!! 私はスルト騎士団の騎士です!! もう少しで病院に着きますので頑張ってください!!」
(病院? どういうこと? あの魔人と戦ってたはず……ネスとシェニーは? あの時、僕はあの魔人の攻撃をもろに受けて……そうだ!!)
とエリアは騎士の背中から飛び降り走り出す。
「ちょっと君!! その怪我じゃ…………? ……なぜ走れる……? 走れる体じゃなかったはず……ちょ……」
(あれから僕はどれだけ気を失ってたんだ……ネスとシェニーはどうなった……場所はわかる、城の正面、まだ遠くない………………)
とエリアはさっきまでネスとシェニーと戦っていたクレーターの場所まで走る。
多くの人は城壁の方へ避難し、魔族が増えた街の中を走る。
街中を走っていると戦っていたクレーターが見えてきた。
(あそこ……だ……)
だがそこで見たのは魔人と戦う二人の姿ではなく、地面に倒れる二人の姿とその側で突っ立っている魔人の姿だった。
その光景を見た次の瞬間、エリアは黄色く光る拳でオウヴェルディに殴りかかっていた。
オウヴェルディはエリアの拳を片腕で受け止める。
「……!? さっきの人間か!! 一足遅かったn…………」
と言いながら力でエリアの拳を押し返そうとした瞬間違和感を覚える。
(どういうことだ!? 俺の渾身の一撃を受けておきながら体に傷一つ見えない!! どういうことだ!? それにこいつ白目むいてるぞ、気絶してるのか?)
とオウヴェルディが考えた瞬間オウヴェルディとエリアの拳が互いに弾ける。
エリアは地面に着地するとすぐに倒れているネスとシェニーのもとに駆けつけると両の脇に抱えて走り出す。
(なんだその速さ!! 人間、おまえ今魔術を使ってないだろ? なぜその速さを出せる……それはただの身体強化だ、いきなり成長するものでもない)
二人を抱えてクレーターの上に上がろうと走るとエリアをオウヴェルディは走って追いかける。
「逃がすわけがないだろ人間!!」
エリアはネスを真上に放り投げ、空いた手に拾ったネスの剣をもってオウヴェルディに投げつける。
「ん!?」
オウヴェルディは咄嗟に腕を前に出し防ぐ。
投げられた剣はオウヴェルディの腕に突き刺さり、オウヴェルディは予期していなかった攻撃に足を止める。
その間にエリアは真上に投げたネスを回収し二人を抱えてクレーター上に上がり、少しは離れた誰かの家の中に二人を置くとエリアはすぐに家を飛び出しクレーターの場所まで戻る。
(なんだあの人間…………まぁいい、騎士団長とやらも倒したし、街にもいい感じに魔族を撒けただろ、あとは城を落とすだけ)
とオウヴェルディが城に歩もうとした時、クレーターの上に人影が現れる。
「逃げたと思ったぞ人間」
エリアはその問いかけに答えず、問答無用でオウヴェルディに向かって手を構える。
エリアの手から魔法陣が出現し銀色の魔力の塊がオウヴェルディに向かって放たれる。
「なんだその色!!」
オウヴェルディは手をかざして魔力障壁を手のひらから展開して魔力弾を防ごうとするがオウヴェルディの腕は魔力障壁を破壊した魔力弾によって弾け飛ぶ。
(なんだこの威力!?)
オウヴェルディが自分の腕が弾け飛んだことに気がいっている間に、エリアは地面に転がっている自分の剣を拾ってオウヴェルディに向かって走り出す。
(何がどうなったら、一瞬でこんなに強くなるんだ!!)
「『身体強化・強』!!」
エリアはぐっと踏み込むと次の瞬間、振りかざしたオウヴェルディの腕が振り下ろす前に斬れ落ちエリアはオウヴェルディの後ろに着地する。
(まずい!!)
「『身体強化・強』!!」
オウヴェルディはそう叫ぶと振り返り際に自身の足を破壊しながら地面をエリアに向けて蹴る。
エリアは飛んでくる大量の土の塊を避けるわけでもなく、すべて斬り伏せて対処しオウヴェルディに突っ込む。
オウヴェルディはその攻撃に対処をしたいが、斬り落ちて再生中の腕と自身で破壊した片足の影響で防御する余裕をなくす。
「人間おまえは何なんだ!!」
ブン!!!!!!




