51 ロスクンは結構不幸
リーハスが必死に魔人と戦っているころ、スルト騎士団第四騎士団団長ロスクン・ダミレは城の裏側で魔族を倒しながら市民の避難を助けていた。
(各避難所にはもう騎士団と討伐者が向かっているし、城の守りも万全、第四騎士団は街に漏れ出ている魔族の討伐、市民の避難誘導に専念しよう)
そう考え第四騎士団はロスクンの考えのもと街中に散らばり魔族の討伐と市民の避難誘導をしている。
その時ロスクンは城門には向かわずに城に向かう白髪の老人と茶髪長髪の女を見つける。
(なんだあの人たち?どっちに避難したらいいのかわからなくなってるのかな?)
ロスクンは急いで白髪の老人と茶髪長髪の女のもとに駆け付けて話しかける。
「すみません、こっちは危ないので早く城門に避難してください、城門はあちらにあるので」
「いやはやいやはや、ご親切にどうもありがとうございます」
そう言いながら老人はさりげなく自分の腰につけている刀に手をかける。
カチャ! シュ!
(……!?)
「ちょっとおじいさん、親切にしてくれた騎士さんにそれは酷くないかい?」
「そちらこそ初対面の老人の首元に刃を向けるのはどうなのかと」
「じゃあそっちのお連れの女の子も初対面のお兄さんの首に刃を向けるのはどうなの?」
(これはどういう状況なの!? なんで僕はこのおじいさんに刀を向けられてるの!! それで、なんでノルダさんがこんなところにいるの!? でなんでおじいさんに刀を向けてるの!? でなんでノルダさんもあの女の子に剣を向けられてるの!? ほんとに今の一瞬でなんでこうなったの!?)
そう今の状況はロスクンの首元にはおじいさんの刀、おじいさんの首元にはノルダの刀、ノルダの首元には女の剣と結構めんどくさい状況だ。
「刀をおろしてみてはどうだいおじいさん?」
「いやはやいやはや、そちらはそれを言えるような立場ではないと思いますが」
「そんなことはないよ、僕なら自分の首が落ちると同時にキミたち二人の首を落とせるよ、だからやめといた方がいいと思うけどね、四人全滅で共倒れだ」
「ノルダさんそれ僕は死ぬってことですよね!?」
「そうだよ、刀抜かれたのに刀も抜けなかった奴が口答えすんじゃないよ」
「そ、そうですね」
「そうだ」
「威勢のいいことですね、では試してみましょうか……」
「試すのやめましょ!! 話し合いましょ!!」
ロスクンの言葉も空しく白髪の老人は躊躇なくロスクンの首めがけて斬りかかる。
それと同時にノルダにも少女の剣が首めがけて襲いかかる。
ノルダはギリギリで少女の剣をロスクンの方へ体を傾けてよけながら首を斬られる寸前のロスクンの腹を刀の柄で殴り飛ばす。
白髪の老人はロスクンを助けるために不安定な体勢になったノルダの背中に向かって刀を振り下ろす。
ノルダは腰から鞘を抜いて何とかその攻撃を防ぐ。
(あの体勢から攻撃を防ぎますか、器用ですね)
「危なかったー」
「ノルダさん……力強すぎです……意識が飛びそう」
ロスクンは腹を抑えてフラフラしながら起き上がる。
「力の加減なんかできるわけないだろ、生きてるんだから感謝しなさい!!」
そう冗談交じりに言っているノルダの首から血が滴る。
「ノルダさん!! 首から血が!!」
「大丈夫、大丈夫、これくらい身体強化で治せるから」
そう言うと遅くはあるが徐々に傷口が閉じていく。
「すごいですね……」
「そんなことより城に行って女王様を安全な場所に逃がしてきなよ、じゃないと万が一があったら最悪なことになるよ」
「ご心配及びません、城は第二騎士団含む多くの騎士が守ってるので!!」
「そんなことはいいから、早く逃がしてきなよ、じゃないと僕が女王を殺しに行く」
と物凄く殺気のある声と目でロスクンに訴えるとロスクンは無言で城まで走り出す。
「いや~、待ってくれてありがとね、案外優しんだね、魔人さん」
「いやはやいやはや、何を仰るのですか、あんなに警戒しておきながら、それにしてもすごいですね、人間の身でありながら自身の身体強化で傷を治せるとは」
「褒めすぎだよ、擦り傷ぐらいなら頑張ればだれでも治せるよ」
「そうですか、それであなた一人になってよかったのですか? まだ二人の方が勝ち目はあったように見えますが」
「無駄な命を賭けさせる趣味はないよ、じゃあさっさと倒してリベルから出て行ってもらおうかな、あと刀使うのやめてくれるかい? 獣人族の印象が悪くなる」
「口は達者ですね、それに私の故郷の武器を否定されるのは悲しいものですね」
「おっと、スルト出身の魔人だったか、なら、なおさら責任をもって殺してあげるよ」




