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50 知は天をも穿つ

あの魔人、魔術を使って最大まで身体能力を上げて戦った方がずっと強く、ずっと楽なはずだ。

だがそれをしないということは、それをできない理由がある。

さっきの攻撃、魔術を最大限に使ったであろう攻撃で自分の拳を破壊していた。

それが身体能力を最大限に向上させて戦わない理由、あいつの限界はおそらく身体強化・中とかいうダサい名前の段階までだ。

それともう一つ、あいつの魔術は一時的なもの、攻撃のたびに発動させてるのがいい証拠だ。

だが連続して使っていたからあまり弱点とは言えないか、それに弱点がわかったからといって何とかなるような問題でもない。

普通にやり合えば身体強化・中とかいう段階でも負ける、シュニパイノ(罪の重さ)を使ってやっと同格の力だ。

だが重すぎてシュ二パイノは振り下ろす時しか使えない。


「弱点があるからなんだというのだ!!」


オウヴェルディは半笑いで言う。


(その通りだな)


「『ポイスト(収納)』」


リーハスがそう唱えると魔法陣から10センチサイズの銀色の石が一つ出てくる。


生石(ショウセキ)かおもしろい!! だがお前ら人間の決まりで生石には殺傷性のある魔法は刻み込めないのではないのか?」


「教えてやるよ、それは一般的に売られている生石だ、騎士などの特別な職についているとはその限りではない」


リーハスは生石をオウヴェルディに向かって投げる。

オウヴェルディは魔力障壁を張るとリーハスの投げた生石は砕けて銀色に光りだす。


(なんだこれは、地面が、空が、世界が回って見える)


生石が光った次の瞬間オウヴェルディは思いっきり横に倒れてた。

その隙にリーハスは大剣をもって走り出す。


(立てない!! なんだ、この魔法!?)


「『シュ二パイノ(罪の重さ)』」


リーハスは倒れたオウヴェルディの首めがけて魔法を付与した大剣を振り下ろす。


「『身体強化・強』!!」


オウヴェルディはグニャグニャして見えるリーハスの大剣に向けて倒れながらも手を振りあげる。

オウヴェルディの手は大剣には当たらなかったが、ズタズタになりながらもものすごい風圧を生み出し、大剣を振り下ろすリーハスを吹き飛ばす。


(風圧が……どんな馬鹿力だ!!)


リーハスは魔法陣から再度生石を取り出す。


「なかなかやるではないか!! おまえのさっきの発言から攻撃系の魔法かと思わせておいて妨害の魔法とはな!!」


そう言いながらオウヴェルディは拳を振り上げリーハスのもとへ走り出す。 

リーハスはオウヴェルディに向かって魔法陣から取り出した生石を一つ投げる。

オウヴェルディはさっきのことが脳裏によぎり生石から目を逸らし魔力障壁を張る。

生石は銀色に光ると大量の白い煙を生み出す。


(今度は目眩しか……) 


オウヴェルディはどこからくるかわからないリーハスを警戒して守りの体勢をとるが、一向に攻めてこない。

煙が晴れるとリーハスはオウヴェルディとは少し離れた場所に立っていた。


(なんだあいつ? この間に何か罠でも仕掛けたのか?)


オウヴェルディは警戒して周りを見渡しても特に変わったところはない。

リーハスはもう一度一つ生石を投げ、生石はまたもや銀色に光ると多くの煙を出す。


(また目眩しか!! どうする、見た感じ罠はなかったが、さっきの間に何か仕掛けられていたら、ここで受ける構えをしてるのは得策ではないか……)


と考えているとき、リーハスが煙の中から大剣を振ってオウヴェルディの首めがけて斬り込んでくる。

オウヴェルディは咄嗟に避けて反撃の拳をお見舞いしようとするが、リーハスは『リオウスゲスリ(一縷の光)』の魔法陣が描かれた大剣の側面を見せる。


(!?)


「『身体強化・強』」


オウヴェルディが反射で目を瞑りながらも身体強化・強でリーハスに殴りかかるが、当たった感触はない。

目を開けると反動でズタズタになった腕と、殴った風圧で煙が晴れ、当たらなかったが吹き飛ばされ地面に膝をつくリーハスが目に映る。


(めんどくさいことされる前に潰す)


オウヴェルディはリーハスに向かって拳を振り上げながら走り出す。

リーハスは立ち上がりオウヴェルディに向かって三個の生石を投げる。


(今度は三つ……何かあるな)


「『魔力障壁』」


今度の投げられた生石は銀色に光り爆発する。

どうやら攻撃系の魔法だったらしい。

オウヴァルディは爆発を魔力障壁で防ぎリーハスに殴りかかる。


「『身体強化・強』」


オウヴェルディはリーハスを目の前にして拳を振り上げるとあることに気が付く。

自分の足元にリーハスの指から糸で繋がれた生石があることに。

リーハスは糸を引っ張ってオウヴェルディの足に当てる。


(これを狙ってたのか!?)


「『魔力障壁』」


オウヴェルディはさっきの爆発した魔法を恐れ足元に魔力障壁を張る。


「『カフィタカシ(猫の手)』」


足に当たった瞬間リーハスが唱えると生石は銀色に光りだしオウヴェルディは宙高く浮かび上がる。


(なんだこれは!? 空中じゃ身動きが取れん!!)


オウヴェルディが宙高く浮かび上がると、リーハスはとても複雑な魔法陣が描かれた手のひらをオウヴェルディに向ける。


「お前の最大の弱点は、魔術を直接的な防御に活かせれないところだ!! これで灰になれ魔人!! 『リーフラスティフィ(知は天をも穿つ)』」


そう唱えるとリーハスの手は青色にまばゆく光りだし、手のひらに描かれた魔法陣の先にはとてつもなく巨大で、青く光る魔力でできた槍が出現する。

その槍は直線状にいる宙で身動きが取れなくなっているオウヴェルディに放たれる。


「やるな!! 人間!!」


青く光る巨大な槍はオウヴェルディを貫き空高くに消えていく。


(魔力切れで体が動かない、右腕も大やけどで使い物にならない……第一騎士団は……魔族含め近くで戦ってたやつは生きてないか……もう体が)


リーハスは仰向きに倒れて空を見上げる。

空は街のいたるところから上がる砂ぼこりで暗くはなっているが隙間から微かに見える空は青い。


(申し訳ございませんルフル様……私はここまでのようです……)


「なかなかだったぞリーハス、魔力障壁を張っても体の欠損で相当な魔力がもってかれた、あの威力の物理攻撃なら死んでたな、だがどこまでいっても魔力攻撃、魔力障壁に全力を注げばなんとかなるな」


「そうか……」

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