46 小さな過去
「ここはどこ? 暗くて何も見えないよ、父さん母さんどこ?」
なにも見えない森の中を20年前僕は彷徨っていた。
父さんと母さんは行商人でスルトの都市や村々を転々としていた。
そんなある日リベルに向かう途中だった……。
「お父さんあとどれくらいでリベルに着くの?」
「そうだな〜俺の魔力次第だが日も暮れてきたしもう少し進んだら休憩して明日の早朝に出てお昼ぐらいには着くかな?」
「ならもう少し寝ておきなさい、晩御飯になったら起こしてあげるから」
と母さんは僕を父さんのエンブスで引っ張る荷車の中で寝かしつけた。
次に目を覚ました時目の前にあったのは母さんが必死になって僕を眠りから覚ます顔だった。
「どうしたのおかあ……さん、もう夜?」
グルルルルル……。
「あっちに走って」
と母さんは優しい口調でそう言いながら森を指さす。
「お父さんとお母さんは?」
「あとで追いつくから早く行きなさい」
その言葉通り僕は母さんの指の指した方へ無心で走った。
あの時は寝ぼけていたが森の中を走っているうちに不審な点に気が付いていく。
あの時エンブスの上に父さんがいなかったこと、荷車の荷がバラバラになってたこと、そして母さんが森の中に走れと命じたこと。
そしてあの時謎の声がしたこと。
(引き返さないと!!)
しかしその時には森深くまで逃げたことで僕は来た道もわからなくなっていた。
「お父さん? お母さん? 誰か、誰か、お父さん!! お母さん!!」
僕はそう叫びながら森の中をさまよい続けた。
だが日も暮れて何も見えない森の中、辺りから木のきしむ音鳥や動物の鳴き声、僕は恐怖で声も上げられなくなり木の根元でしゃがんで顔をうずめた。
(どうしよう、このまま誰にも見つけられずに僕死んじゃうのかな? いやお母さんは後で追いつくって言ってた、絶対に僕を見つけてくれる、でももし見つけてくれなかったら……)
そう考えて伏せていた時に声が聞こえた。
グルルルルル……。
僕が顔をあげるとそこには月光に黒く輝く魔族が目の前にいた。
(下級魔族のバッドドック!? まずい殺される)
僕は拳を黒い大型の犬の顔面に打ち付けて必死に森の中を走り回る。
「誰か助けて!! お父さんとお母さん!! 誰か助けて!!」
そう叫びながら森の中を走り回った。
後ろからバッドドックが追ってくる足音がする。
「誰か!! 誰か!!」
僕がバッドドックがどこまで迫ってきているのか確認するために振り返るとバッドドックは僕に飛びつく寸前の所だった。
そのまま仰向けになってバッドドックに押し倒される。
バッドドックは口を開き僕の顔めがけて噛みつこうとする。
僕は必死にバッドドックの口を両手で抑える。
「誰か助けて!! 誰か!! お父さん!! お母さん!!」
(怖くて目が開かない、涙が止まらない、もう手に力がはいらない、このままじゃ……)
そう思ったときバッドドックの口を押さえてた手が軽くなる。
「大丈夫ですか?」
僕が目を開けると白く先に行くほど黒くなるグラデーションのかかった長く美しい髪で、身長はそれほど高いわけではない女性が短刀を持って立っていた。
「あなたは……」
「私はスルト騎士団総団長ルフル・スルトでございます、おそらくあなたのご両親であろう方は二人とも私の率いていた騎士に保護されているので安心してください」
そう小さい頃の僕にも口調を変えずに言うとルフル様は地面に倒れていた僕の手を引っ張って起こし、そのまま手を引いて僕を父さんと母さんの所まで連れて行ってくれた。
そのあとは父さんと母さんはルフル様に何回もお辞儀をしてルフル様は何回も頭を上げてくれと手でジェスチャーを送っているような光景をバッドドックに壊された荷車の中で見ていた。
事が収まると後に父さんが今回の出来事について話してくれた。
どうやら今回の出来事は二体のバッドドックが荷車を襲ったことが発端だったらしい。
父は何とかして二体の相手をしていたが、僕が荷車から逃げたのを見てそのうちの一体が僕を追っていったらしい。
僕を襲ったのはその一体だろうと思われる。
それからちょっとして騎士団がたまたま通りかかり父と母を助けた後ルフル様が魔力を感知する魔法を使って飛び出して助けに行ってくれたらしい。
僕は父さんと母さんとルフル様の話が終ってエンブスに乗ってルフル様が帰ろうとするのを見ると荷車から飛び出してルフル様に話しかけに行った。
「あの!! あ、ありがとうございました!!」
ルフル様はこちらを振り返ると笑顔で手を振ってくれた。
「スルト様!! あの僕もあなたみたいな騎士になれるように頑張ります!!」
そう言うとルフル様はエンブスから降りて僕のもとに駆け寄ってきてこう言った。
「私の名前はルフル・スルト、ルフルと呼んでください、様はいりません、君の名前はなんですか?」
「あ、えーとリーハス・ウェンバです!!」
「リーハス・ウェンバですね、私が忘れる前に騎士になって騎士になったと私に報告してください、応援しています」
「忘れるまでって僕まだ十歳です!! 騎士になるには最低でも六年もかかります!!」
「たった六年で私は忘れません、頑張ってください」
そう言うとルフル様は僕の頭を撫でてそのままエンブスに乗ってリベルに帰って行ってしまった。




