41.5 モブ
僕はケル、リベルにたまたま立ち寄っていたグルースランクの討伐者。
どうやら僕は不幸にも最悪な時にリベルに立ち寄ってしまったらしい。
噂によるとリベルの隣都市トッシュが魔族の侵攻を受けているらしく今僕は多くの人々が集まる避難所にいる。
(この避難所は本来はお偉いさんの家の庭らしい、見た感じ広く二メートルちょいほどの壁で囲まれている、こんな状況で来たくなかっよ〜、あぁ〜こんなことなら今日の朝リベルを離れとくんだった……昨日あんなにお酒を飲んで今日潰れてなかったら今頃は……)
そんなことを呑気に考えながら上を見ていると隣にいた男性が急に背中を押さえてうずくまりうなり始めた。
男の周りにいる家族であろう二人が男を心配し始め女がうずくまった男の服をめくり背中を出すと男の背中には銀青色に光る大きな魔法陣が描かれていた。
(なんだあの魔法陣の色……おかしい……普通は青色の光を放つはずなのになんなんだあの色は……)
あれやあれやと周りの人間が家族を避けて家族中心の円が出来上がる。
(だれか助けてあげないのか? ほらあの人の背中、魔力で焼けて煙が出てる、ほら誰か……あの女の人も助けと求めてるよ……ほら……?)
他力本願で誰かが助けるのを待っていると、うずくまる男を心配する家族二人の後ろから大柄な男が突然なにもない空間から出てくる。
その男は僕の鼓膜を破るぐらいの大きな声で自分は魔人族だと語った。
その瞬間僕を含め避難所にいた人々は困っていた家族、いや自分以外の人間なんかほっておいて出口へと走り出す。
(まずい!! まずい!! まずい!!!! なんでこんなところに魔人がいるんだよ!!!!!! 死にたくない!! 死にたくない!!)
僕は無我夢中で出口へと走った、自分が討伐者だってことを忘れて……。
「おいなんで前に行かねんだよ!! 早く進めよ!! 何してんだよ!!」
後ろを振り向くと大勢の人がまだ僕の後ろにはいた。
足元にも人間がいた気がする。
だがそんなことは関係ない、そのさらに後ろにはあの大柄の魔人とさっきまでいなかった多くの魔族がいるのだから。
「早く!! 前に進めよゴミども!!」
また後ろを見ると大柄の魔人がこちらに向かって走ってくる。
(なんでだ!? 他の出口に行けよ!! なんでここなんだ!! こっちに来んなよ!!)
「いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ」
大柄の魔人は大きく拳を振りかざして僕含めた人ごみをぶん殴った。
もう殴られた時の記憶はない。
「いたい!! 誰か!! 誰か助けて!!」
(こんな状況で助けてくれる人なんているわけないだろ)
今は地面に転がって犬型の下級魔族バッドドックに食べられている瀕死の人間が目の前にいるだけだ。
どうやら僕は他の人がクッションになって壁にも激突せず、地面にも強く激突せずに助かったらしい、体の節々は痛いが。
周りを見回すことはできないが声を聴く限りまだ多少の人間が生きてるのがわかる、多分僕みたいに魔族は生きた人間しか食べないから死んだふりをして息を殺している人も何人かいるはずだろう。
(頼むこのまま見逃してくれ、気づくなよ……気づくなよ……)
トットット……。
(なんでこっちに来るんだよ、そういえば魔族には生きてるのか死んでるのか見分ける機能が付いてるとか聞いたことがあるな、そうなると……これは意味が……)
「いたい、いたい、誰か助けてくれ!!誰か!!おい死んだふりしてる奴いるだろ!!なあ!!おい誰か!!」




