41 安全な場所
場面は移り多くの人が不安な声をあげて密かに息を殺してるのは獣人の国スルトの首都リベルの避難所、本来は貴族の屋敷の庭だ。
「これからどうなるのかなお母さん?」
「大丈夫よ、リベルには強い騎士さんたちがたくさんいるからね魔族から絶対に守ってくれるはずだよ、いざとなったらお父さんだっているんだから」
「そうだお父さんに任せておきなさい!!」
避難所で平和そうに団欒をする家族たちがここにいる。
周りには、
絶望する人、変なオカルトを信じる人、楽観視する人、いざとなったらと意気込む人、なんとも思ってなさそうな無表情の人、そんないろんな人が今この避難所に集まっている。
その避難所でどこから出回ったのかわからないが不吉なうわさが流れ始める。
どうやらトッシュが滅びたらしいと……。
「ねぇあなた……さっきから周りで変なことが聞こえてこない?」
「やめろ気のせいだ、この子もいるんだあんまりそんn……………ん!!」
突然団欒していた家族の一人の男が苦しみ背中をおさえ始める。
「ねぇどうしたのあなた!? ねぇ!! ねぇ!!」
「お父さん!! お父さん!!」
「背中が……背中が……焼けるように痛い!!!!」
「ちょっと背中を見して!!」
女が苦しみもだえる男の服をめくって背中を見ると男の背中に大きな魔法陣が背中を焼きながらも銀青色に光り輝いていた。
女は驚きのあまり腰を抜かして地面に倒れ込む。
そしてその男の背中を周りの人々が見てざわつき始める。
「なんなんだよそいつ!? なんなんだよその魔法陣の色は!?」
「そいつ魔人族なんじゃないのか!?」
「おいなんかヤバくね?」
「ならあの二人も魔人族だろ」
「ねぇ誰か助けてあげたら?」
「どうやって助けるのよ」
男の背中の魔方陣はどんどんと強く光りはじめると、男の家族を中心にドーナッツ状の大きな円ができはじめる。
「誰か!! 誰か!! 夫を助けてください!! 誰か!!」
「お父さん!! お父さん!!」
「へぇ~そいつがお前のお父さんかガキ?」
必死助けを求める家族の背後から少し明るめな太い声が聞こえる。
「はい!! 助けて……」
「ならお前の父親はこの街にとっては大戦犯でろくでもねぇ奴だな!! ガッハッハッハッ」
父親に必死に呼びかける少年の背後にいたのは避難所に集まっている人たちの中から肩が出るほどの大柄な体格で少し顎にひげを生やした茶髪短髪の男だ。
「よお!! たまたまここにいた人間ども!!!!」
大柄の男は避難所の空気が揺れるほどの声で叫ぶ。
「俺の名はオウヴェルディ・バキバルダ!! このスルトを落とすためにきた!! お前らが俗に言う魔人だ!!!!!!」
その大きな一言で避難所は一瞬にしてパニック状態になり、急いで人々は避難所から出ようと出口に殺到する。
「ガッハッハッハ!! 哀れな奴らだな、見てみろ戦犯のガキ、お前と同じぐらいの女のガキがおんなじ人間に踏み潰されてるぞ!! ガッハッハッハ!! あ、ガキには見えないか」
「あぁ……あぁ……」
そう言いながらオウヴェルディは少年のの頭を片手で鷲掴みにして持ち上げてその光景を見せる。
「離して!! ペットゥを離して!!」
頭を鷲掴みにされる我が子を必死に離せと無力な拳をオウヴェルディの腰あたりにぶつけて抵抗する。
「うるせぇぞおんな」
そう言うとオウヴェルディは拳を薙ぐようにして女の顔面を殴って吹き飛ばす。
女は数十メートル吹き飛ばされ地面にぐったりとして横たわる。
「おまえペットゥって言うのか、おい、聞いてんのかぺットゥ」
ペットゥという少年は鷲掴みにされた頭から血を滴らし力の抜けたように体をぶらぶらと揺らしていた。
「ん? 強く握りすぎたか?」
オウヴェルディは少年を捨てて、逃げようと避難所の出口に集まって詰まっている人々の元へとゆっくり歩いて行く。
「どきなさいよ!!」
「なんで進まねんだよ!!」
「助けてくれ!!」
「おすなって!!」
「騎士団は何してるんだ!!」
と近づいてくるオウヴェルディを見て目の前の人を踏み潰してでも避難所から出ようと出口をさらに詰める。
オウヴェルディの後ろからは続々と下級から中級、上級の魔族が出てくる。
「さてと!! ゴミの詰まりを直さないとな!! 俺たちも出られないことはなんが邪魔だな、『身体強化・弱』!!」
オウヴェルディはすごい速さで走って勢いのまま出口で詰まっている人間たちを後ろから殴り飛ばす。
「よし、これで通れるようになったぞ!! ガッハッハッハ!! ほれ、後ろの魔族どもおまえらがこいつらを食え!! 行ってこい!!」
オウヴェルディが大きな声で告げると後ろにいた魔族たちが一斉に人々を襲いに走り出す。




