38 違和感について
場面はエリアたちから移り、一人でトッシュへとエンブスを限界を超えた速度で走らせて向かう五天でありスルト騎士団総団長ルフル・スルトに変わる。
ルフルはエンブスを走らせながら今回の侵攻の不審な点について考えていた。
(気になることにトッシュまでの道にある村々は見た感じ一切の魔族と魔人族の侵攻を受けていなかった、良かったことではあるが少し不気味だ、リベルに攻める気がないのか? それともまだトッシュに魔族たちがいるのか? それならばトッシュの騎士たちが頑張ってくれているのだろうが、そもそもどこから魔族と魔人族が来たんだ? どうやったって都市に近づく前に城壁を守る騎士たちが気づくはずだ、なぜ都市の中に入ってからリベルに連絡が来た? いくらなんでも遅すぎる。まるで都市の中に急に出現したようにしか……)
時を少し戻してリベルでも女王フェッテ・パプスもお偉方が口論をする中机の上に肘を置き同じことを考えていた。
(どうやって魔族たちはトッシュに入れたのでしょうか? トッシュ周辺の村々からの連絡はなかったですし、何よりトッシュに入られてからリベルに連絡がきたのが奇妙すぎます。まさかトッシュの中に魔人族に肩入れする裏切り者でもいるのでしょうか? いや、それにしても多くの魔族を気付かれずにトッシュに入れるには無理があります。この問題を解かないと次はリベルの……)
「パプス様!!」
「わかっています!! 城壁は……!?」
そしてまた時を戻し現在エンブスに乗ってトッシュに向かっているルフルへと場面は移る。
ガタ、ガタガタガタ。
そう音を鳴らすのはルフルが絶賛限界を超えたスピードで運転をしているエンブスだ。
エンブスは運転者の魔力を一定量消費して少し中に浮いて走り出す乗り物。
魔力の消費量によってスピードは変わるが、もちろん許容量というものはあり、許容量を超えた魔力を流すとエンブス内部に描かれた魔法陣が徐々に熱を持ち崩壊していき最後には魔法陣が焼き切れて崩れてしまう。
魔法陣が描かれているのが一般的な紙ではなく、加工された金属なのである程度の許容量超えには耐えるが……やはり限度はある。
「あと少しなのでもうちょっと頑張ってください!!」
そう一人呟きながら限界を超えたスピードで走っているとトッシュの城壁が見えてくる。
ルフルが見た感じ、城壁が破られたような場所は無く、ますますどうやって魔族、魔人族の侵入を許したのかの疑問を深めた。
ルフルは急いでルフルの城門へとエンブスを走らせる。
ガタ、ガタガタガタガタ!!!!
どうやらもうエンブスは限界を超えた限界らしい。
宙に少し浮いていたエンブスは徐々に地面に近づきやがて金属部分が地面を擦り始める。
ルフルはすぐにエンブスを止めて城門へと走り出す。
「ありがとうございました!!」
ルフルが城門に着いて城門の様子を見てみてもやはり外観は傷一つついていない石の積み上げられたいつも通りのトッシュの城門だ。
だが城門を守っているであろう騎士が一人もいないどころか、逃げてくる市民さえ見えない。
振り返って思い出してみても、エンブスで向かう途中の道でリベルに逃げている市民を一人も見ていない。
ここまでくると本当にトッシュは魔族、魔人族からの侵攻を受けているのかと疑いたくもなるほどだったが城門をくぐり街の景色を見るとその疑いは一気に晴れる。
トッシュの街は見るも無惨な状態になっていた。
家々は燃えて朽ち、地面はえぐれ、ところどころには死体が転がっている。
「嘘でしょ?」
ルフルは目の前の地獄のような光景に一言呟く。
そんな街並みに目につくものを見つける。
高台があっただろう瓦礫の積み上げられた山に足をバタバタさせながら首をキョロキョロとして何かを探している人影だ。
その人影はこちらを見るや否な瓦礫の山から飛び降りこちらに歩いてくる。
ルフルは直感で感じた、あれは人間ではないと。
人影は近づくにつれ黒い何かを見に纏った黒髪の少女に変わる。
少女は声の届く範囲に入るとルフルに声をかける。
「こんにちは〜」




