2 すべてが変わる日
平和な日が続いて五年、この五年いや二年で世界は悪い方向へと変わっていっている。
二年前までブレン島は謎の原理で世界から多くの魔力残滓が集められ、そこで眠る魔人王を守るかのように、ブレン島に多くの魔族が発生するようになっていた。
しかし、何かをきっかけに二年前から魔力残滓がブレン島に集まらなくなった。
この事象の調査に人の国ヘイムダルと竜人の国アングルボザが合同で調査団をブレン島に送ったが、一つの情報も帰ってくることはなかった。
これを受け各国が魔人王が復活したのではないかとブレン島を警戒していたがこの二年何も起きていない。
何も起きていないとはいえブレン島に残滓が集まらなくなった影響は大きい。
ブレン島に残滓が集まらなくなったことにより、世界各地で魔族が以前より多く発生するようになったからだ。
残滓は魔力を使うと出る灰のようなもので、魔族が発生する素。
それから一年後、魔族の発生増加に伴い竜人の国アングルボザで国家間の戦争に利用しないことを条約にギムレが作られ世界各国に設置されるようになった。
ギムレに所属すると討伐者と呼ばれるようになり、魔族関係の依頼、もしくはその他の依頼をこなしお金を稼ぐ新たな職業が生まれた。
もちろんクラージュにもギムレが作られた。
各国も緊張感が高まり武力に力を入れている。
この防衛前線都市クラージュも街中に騎士が以前より増え騒々しくなっている。
そんな世の中、クラージュの郊外にある家の庭で、今日もエリアとテレサは度々黄色く、黒く光る木刀で戦っている。
カッカッ!!
二人の木刀が激しく何度もぶつかる。
カッ!!!!
大きな音が鳴ると同時にエリアの木刀が宙を舞い、エリアは地面に倒れ込む。
テレサは木刀を倒れたエリアに向ける。
「まだまだねエリア!!」
「たまたま勝っただけでしょ、だからもう一戦!!」
そう言いエリアは立ち上がる。
「ハッハッハッ!! その調子だエリア!!」
スログは腕を組んで笑いながら二人を見守っている。
「みんな〜帰って来なさ〜い、夕食の準備ができましたよ〜」
もう一戦エリアとテレサがやろうとした時、玄関からジュリエの呼ぶ声が庭に響く。
「よしご飯だ!! エリア、テレサ今日はここまで、おしまい!!」
「はい……」
エリアはしょぼくれてトボトボ歩いて家に向かう。
そんなエリアの肩をトントンと後ろからテレサが叩く。
「今日は私の勝ちね!!」
「明日は僕が勝つよ!!」
「それはどうかな!?」
そんな言い合いをしながら食卓につき夕食を食べ始める。
「いや〜エリアも惜しかったぞ!!」
「昨日は勝ったんだよお父さん!」
「なっ!? 昨日勝ったのは10回やって最後の一回だけね!?」
「う……」
テレサの痛すぎる言葉にエリアは言い返せない。
ジュリエはその光景を見ながら微笑んでいる。
「本当に元気ね〜、ほぼ毎日私が魔法を教えた後に二人で戦ってるんだから〜」
「そうだな、まぁ、元気なのはいいことだ!!」
夕食を食べながらも言い合いをする様子を二人は微笑ましく見守る。
「そういえば二人ともここ最近また魔族が増えてきたらしいからな、それにいつ魔人族が攻めてくるかわからないからな、警戒して生活するんだぞ」
「わかってるよお父さん、ここ数ヶ月ずっとその話で疲れたよ、それに攻めてきてもギムレっていうのもできたし、騎士団の騎士も増えたし大丈夫だよ!!」
とテレサは呆れたように言う。
「テレサ~、お父さんはあなたが心配なのよ~、そんなこと言わないで~」
「いや、ま~、こ~う、常に警戒して生きていないとお父さんみたいな立派な騎士になることができないぞっ!! ということだ、あと何かあったらお前たちがお母さんを守るんだぞ」
と照れながらも威厳ある感じでスログは言う。
そんな中エリアは黙々とご飯を食べている。
―エリアたちが夕食を食べると同時刻―
場所は移りヘルト王城内、その玉座に多くの人間が集まりざわついている。
「報告です! ブレン島から膨大な魔力反応が確認されました!」
「報告です! 今クラージュの壁に多数の魔族が確認されました!」
「どこからそんな大量の魔族が現れたのだ!! 城壁を守っている騎士は何をしている!!!」
「これは本当に魔人王が復活したのでは……」
その玉座に座っている者が立ち上がり威厳ある声で話す。
「皆の者聞け!! 今魔人王が復活したと思い動け!! このヘルトまで魔族が侵略してきてはヘイムダル滅亡の危機だ、だが二年前のことからクラージュには第五騎士団を送っている、それに常備守らせていた第三騎士団がクラージュにはいる!! そう簡単にはクラージュは落ちない!! おそらくこれから多くの避難民がこちらに来るだろう!! その護衛として今から第二、第四騎士団には避難民防衛にあたってもら!! 第一、第六、第七騎士団はヘルトの防衛にあたれ!! そこのお前!! ヘイムダル各都市に援軍の要請を送っておけ!! では皆のもの動け!!」
その言葉を聞き王城内の人々は機敏に動き出す。
―場面は戻り数分後―
スログの持っていた紙が青く光り『ログラルク(通信魔法)』でヘルトからブレン島で膨大な魔力反応が確認され、城壁に多数の魔族が集まっていると連絡がくる。
すぐさま食卓から立ち上がりスログはこう言う。
「二人とも母さんと一緒にヘルトのほうへ逃げるんだ、今ヘルトから連絡がきた、クラージュの城壁に魔族の大群が来ているらしい、私は騎士としての仕事をしてくる」
「わかったわ~」
みんな立ち上がり家を出る準備をする。
普段からスログが口酸っぱく言っていたので準備は速かった。
玄関で準備を整えたエリアは心配そうな顔でこう言う。
「お父さんヘルトでまた会えるよね?」
「ハッハッハ!! また会えるに決まってるだろ!! お父さんは強いからな!! 心配するな!! お母さんとお父さんを見てみろ心配そうな顔しているか!!」
「そうよ~、そんなに心配しないの~、お父さんは強いんだから〜」
そう言う二人の顔は笑っていた。
スログは大きな腕でエリアとテレサをいつもより強く抱きしめる。
鎧を着たスラグの腕はいつもより冷たいが暖かい。
「では行ってくる!! またヘルトで合おう!! エリア、テレサ」
そしてジュリエの顔を見て
「行ってくる」
そう言うと鎧を着た父はエンブスに乗ってクラージュに向かった。
エンブスとは運転手の魔力を消費し動く乗り物であり多くの人には高価な物、いやそもそもそこまで遠出しない限り必要ない。
「じゃあ〜、わたしたちもヘルトに向かうわよ~」
と表面上のんきそうにだが内心はやはり心配してそうなジュリエはエリアとテレサの手を引いて歩き出す。
―同時刻クラージュ壁付近―
「なんだあいつ...…」
クラージュの城壁を守っている一人の騎士が魔族の大群の中に立っている人間? に気がつく。
全身黒ずくめでフードのついている服を着ている黒髪で肩ぐらいの髪の長さで背丈は150ぐらいの少女が立っていた。
城壁の前に立っている少女は黒い腕を振り上げると瞬く間にそのは手は巨大な悪魔の手のようになる。
「なんだこれは……」
「逃げろー!!」
「うわぁぁぁ!!!!」
「退避!!!!」
城壁の上にいた騎士たちは一目散にその巨大な悪魔の手から逃れようと走り出す。
その大きな手は無慈悲にクラージュの象徴の城壁へと振り下ろされる。
ドゴオオオオン!!!!!!!
轟音を立てながらクラージュの城壁はものの見事に崩壊する。
「う〜ん、この大きな壁もっと硬いと思った、ちょっとざんね〜ん、って私の魔術じゃ当然か~、みんな〜ほら攻めちゃってーって、行っちゃった.…..」
その女の合図と関係なく魔族の大群がクラージュへと侵攻を開始する。
「魔人王様大丈夫かな〜、言われた通りあの一本道に『リーブル』(転移魔法)設置してきたけど」
―同時刻へルトからクラージュへの道―
灰色と黒色が混ざった髪で目のところに穴が空いた真っ白な仮面をつけている男が道の真ん中に立っていた。
「待ってるぞ人間ども、少し俺の実験台となってもらおう」
―それから数十分後クラージュ―
クラージュではスログ含む第三、第五騎士団、ギムレの討伐者が魔族と戦っていた。
たしかに大群ではあったが多くは中級、下級魔族で構成され戦況は明らかに騎士団、討伐者側が優勢であった。
「みんな!!!! 頑張るんだ!!!!」
スログはみんなを奮い立たせる大きな声で言う。
(壁は崩壊したが、この調子でいけばクラージュを守りきれる!!)
スログがそう思ったとき少し遠くにいた騎士が瞬きをした瞬間真っ二つになった。
「いやはやいやはや、久々に暴れるのは気分がいいものですな」
そこには立派な刀を持ち真っ二つになった死体のもとで手をかざす白髪で七三わけの老人がいた。
その異様な光景にその場にいた騎士や討伐者は逃げ出した。
(魔人族か!? この魔族の侵攻に魔人族がいない方が不思議か……くそ……!!)
魔人族とは人族、聖人族、獣人族、巨人族、竜人族から稀に生まれてくるエラーのような存在。
胎児の時に魔力残滓が多く集まることで生まれるらしいとされているが詳しい原理は不明だ。
身体は上級魔族と同様魔力でできており、高い魔力量と身体能力、魔法を使うセンスそして必ずと言っていいほど魔術を使える。
存在を維持する方法も魔族と同様とされている。
「おや……」
老人がスログに気が付いた。
逃げた人々とは違いスログは刀を構え老人に向かって走り出す。
老人も刀を構えるそしてまだ10m程の距離があるにも関わらず剣を振る。
(おかしいまだこの距離だぞ!?)
「『斬』」
老人が刀を振った瞬間、銀青色の斬撃がスログに向かって放たれる。
スログは反射的に斬撃に反応し防御することができた。
しかし斬撃を受け止めた反動でスログは吹っ飛ばされ地面に倒れる。
(なんだ今の? 魔力弾か? いや、魔方陣が見えなかった、いや魔方陣を使わずに魔力弾を出すことはできる、でも威力がおかしい、ましてや刀なんか振る必要はない、それにいくら受ける構えができていなかったとはいえ、いや、なにごちゃごちゃごちゃ考えてる!! 全部魔術で説明がつくではないか!!)
「いやはやいやはや初見で斬撃を受け止めれるとは見事ですな」
老人は刀を構え佇んでいる。
スログはわかっていたが逃げる選択肢はなかった。
スログは立ち上がると再度剣を構え走りだす。
(エリア、テレサ、そしてジュリエ、すまない……約束は守れそうにない……)
「どうりぁぁぁ!!!」
スログは自分を奮い立たせるように大きな声をあげ走る。
「いやはや勇敢ですな、ですが勇敢なだけでは勝てません…………『斬』」
老人が刀を振ると一筋の斬撃が飛んでくる。
さすがに二度目の同じ攻撃、スログはこの斬撃を体を横にそらし完璧に避ける。
「気を付けてくださいその斬撃は」
(この斬撃、威力はすごいが来るとわかっていれば避けることはできる!!)
「曲がりますぞ」
斬撃をスログが避けた瞬間斬撃はスログのほうへと曲がりスログを切り裂いた。
スログの体は二つに分かれ上半身は仰向けに地面に転がった。
(ま……だ……だ…………)
体は分断されたが痛みは感じなかった。
スログの手のひらにはまだ剣がある。
その剣に家族との今まで過ごした日常をスログは見る。
スログは最後の力で剣を握る。
「いやはやいやはや死ぬとわかっていてこちらに向かってくる、久々にここまでの人間を見ることができましたな、敬意を表し神力と魔力はもらわずに行きます」
そう言いスログを置いて老人はクラージュの街中を歩いていく。
そして場面は切り替わりスログの戦いから一時間後ヘルトに向かっているエリア、テレサ、ジュリエへと…………。




