31 運
「はいそれでは注文通り苦し味ふつうと嬉し味強い二つの塩です」
そう言いながら袋に入った塩二つをお客に渡すゼパル。
「ありがとうございます」
「ではまたのお越しを」
ガチャン
お客は礼を言うとお店から出ていき、それと同時にゼパルのポケットに入っていたラルクの描かれた紙が半分青く光り出す。
(ん? 紙が、エリアくんたちか? まさか見つけたのか?)
ゼパルはすぐにポケットから紙を取りもう半分の光っていない魔法陣に魔力を流し連絡に答える。
「はい、こちらゼパルです」
「どうも酒屋の店主です」
「あ……はいどうされましたか?」
「いや〜、あの〜」
電話してきたのはエリアたちの調査に協力してくれた酒屋の店主だが、何か言いにくいことがあるのだろうか言葉を詰まらせている。
「どうされましたか?」
「あの〜樽に隠れて調査していた子たちが気がついたらいなくなってしまっていて」
「そうですか」
(怪しい人でも見つけたのかな?)
その時連絡中のラルクの紙が一瞬強く青く光る。
「はい、いなくなる前に灰色髪の背の高い女性と黒髪の少女があの子たちと一緒にいた気がするんですよ」
「そうですか、連絡ありがとうございます」
そう言うとゼパルは魔力を流すのをやめてラルクでの連絡を断つ。
(今さっきラルクが一瞬強く光った気がしたけどもしかしてエリア君たちからの連絡か? 折り返して、誰に連絡しようか?)
ゼパルは魔法陣の半分に魔力を流しエリア達へと連絡を試みる。
ー一方そのころエリアたちはー
(クソが!!)
「何をしようとしているんですか?」
灰色の長い髪の女がネスのラルクの魔方陣が描かれた紙を持っている手を持ち上げて言う。
ネスは振りほどこうとするがものすごい力で握られているので振りほどくことができない。
振りほどくことができないならばと持っている紙に魔力を流し連絡を試みる。
だが女もそれと同時にラルクの魔方陣が耐えられないほどの魔力を流し魔方陣の破壊を試みる。
魔方陣は一瞬青く光るが灰色髪の女が加えて魔力を流したことで紙が崩れてまう。
「そんな無駄なことをせずにおとなしくついてきてください」
そう言いながらネスの手首をガシッとつかみ宿に連れて行こうと歩き出す。
ネスは何も抵抗することはなく引っ張られるがままについていく。
シェニーは女がネスの手を掴んでいることを隙と見てラルクの描かれた魔方陣をポケットの中でバレないように魔力を流し連絡をする。
だがその些細で不審な動きを見逃さず灰色髪の女は余っているもう片方の手でポケットに入れているシェニーの手を握り魔力を流す。
灰色髪の女が流した魔力はシェニーの手を伝い魔方陣の描かれた紙を崩壊させた。
「さぁあなたも行きますよ」
そう言いもう片方の手でシェニーの手をガシッと掴み宿へと連れていく。
シェニーは抵抗するがその抵抗も空しく女に手を引っ張られる。
「着いたよ~、ここが私たちが泊ってる宿だよ、じゃあさっそく案内するね」
そう言いながらエリアの手を引いて宿に入ろうとする少女。
「あのちょっといいですか」
エリアが少女の引く手を止める。
「どうしたの~? わたしたちと遊ぶのが怖くなっちゃった?」
「いや、ちょっと握る力が強くて……離してもらえると嬉しいかなと」
「あっ、ごめんね~」
少女はそう言うと離すわけでもなくもう一度強くエリアの手を握る。
「あの……?」
「いいじゃんもうすぐなんだし」
エリアは頑張って抵抗するが握った手を簡単に振りほどけそうにない。
シェニーもエリアの様子を見て振りほどこうとするが女も力強く握っていて振りほどくことができない。
ネスはなぜか振りほどく素振りすらしない。
「ねぇ~ここまで来て帰るはなしだよ~」
エリアは少女に握られていない片方の手で魔法陣を作り出す。
(早く!!こんな時間稼ぎしかできない!!)
「こんな街中で魔法なんて使って大丈夫なの~?」
少女は余裕な笑顔を見せると少女が握っているエリアの手から黒い何かが出てくる。
「『スライワ……』」
「ちょっとすいませーん」
エリアが魔法を撃とうとした瞬間、誰かが遠くからこちらに話しかけながら走ってくる。
「あのーすいません、その子たちを返してもらうことはできませんか?」
大柄の男はエリアたちに近づいてくるなりそう言う。
「え~、おじさんはこの子たちのなんなの?」
少女は下から訪ねてきた男を覗き見るように言う。
「すいません自己紹介が遅れました、私はこの子たちの親ゼパル・ホウクトゥスと申します」
(ゼパルさん!!)
三人が歓喜のまなざしでゼパルの方を見つめる。
(なにこのおじさん?)
「へぇ~ほんとかな~君とこの三人に顔を見た感じ血のつながりなんかなさそうだし、ほら一人は聖人族だよ~?」
「私は育ての親でございまして」
「そうなんだ~、う〜ん、じゃあ返してあげる、ほらパイネその子たちも」
そう言い少女があっさりエリアの手を離そうとしたとき、引きつった笑顔の女が待ったをかける。
「ちょっと待ってください、あなたが親というならこの子たちの名前はなんですか?」
「そこの女の子が掴んでいるのがエリア・ブラグル、あなたが掴んでいる女の子がシェニー・タンタス男の子がネス・ウーピットです」
ゼパルは自信満々に答える。
「名前については嘘をついている感じではなさそうですね」
少女がパイネと呼んだ女はゼパルの顔をまじまじと見て言う。
「ではこうするのはどうでしょう、お父様も一緒に私たちの部屋に来るというのは」
「お~、名案だね~」
どう考えても名案ではないが、それほどまでしてエリアたちを手放したくはないのだろうか、女はゼパルまでも巻き込んで宿の自室に入れようとする。
「いえいえ結構でございます、夜も遅くなり子どもたちが心配になったから探しに来たのであってここで私も一緒にとなると本末転倒ですので」
ゼパルは丁寧なく口調で女の誘いを断る。
続けてゼパルはこう言う。
「そこまでして子どもたちを返そうとしないのならば騎士団を呼ばざるを得ませんがどうしますか?」
「そこまで言われてはしょうがないですね、私たちはただ遊ぼうとしていただけですが……」
パイネと呼ばれていた女はネスとシェニーを手離しゼパルの元へと背中を押す。
少女もそれを見て悲しそうにエリアの手を離しゼパルの元へとおくる。
「穏便に解決で聞いて本当に良かったです、では私たちはこれにて帰らせていただきます」
そうゼパルが言うとエリアたち三人の手を引いて少女と女に背を向けてその場を立ち去った。
エリアたちの背中を見ながら少女たちが話す。
「ねぇあの子たち私たちのこと知ってたよね?」
「そうですね」
「気づいてたんだ~」
「気づかない方がおかしいです、あの会った時の反応、道中の行動、あと気づいてると思ってたならなんで私の名前を呼んだんですか!!」
「あれは単純に私のミスだよ、ごめんね~」
「まぁそれはいいです、それでどうします? あの子たち逃がしちゃってよかったんですか? 今からでも追いかければ記憶を消すなり殺すなり何とでもなりますよ」
「う~ん、良くはなかったけどあれ以上話し合いが長くなるのはめんどくさかったし、なによりもう準備は終わってるしあの子たちが私たちの行動の真意に気づいたってもう遅いしね、明日にでも始めちゃってもいいくらいだよ」
「そうならなんで今日もこの準備やったんですか!」
「いやだって最後まで私を選んでくれる人がいないなんて悲しいじゃん、だから私を選んでくれる人が出てくるまで続けようかなって」
「そんな理由で……」
「そんな理由?」
「い……いえ!! 違いますよ!! えっと、あのー、違いますよ!!」
「まぁいいよ必要なかったこととは認めるよ、じゃあ明日のお昼にでも決行しよっかな~」
「そうですね」
「じゃあさっそくここから離れよっか!! 多分あの子たち騎士団を呼んでるはずだから」
そう言うと少女は走って人のいない暗い路地裏に入っていく。
「ちょっと!!」




