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輪廻伝記〜この世界を生きている〜  作者: 今日 虚無
獣人の国スルト編

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29 運が良いか悪いのか、それはその人次第

「おい、これ絶対に他の方法があっただろ」 

「引っ付かないで暑いでしょ!」

「テメェだけ風にあたりやがって」

「自分で魔法使えばいいでしょ!?」

「ネス、シェニー暴れないで、穴から様子が見えない、てか二人もちゃんと見てる?」


酒屋の人が怪しそうに何かを見ている。

今三人がいるのは酒屋の端に置かれた大きな樽の中。

普通なら、はたから見るとお酒が入っている樽だろうと思われ警戒されないだろうが、ガタガタ動くし変な音が聞こえるので皆怪しがり樽の近くの席には誰も座っていない。

なぜ今三人は樽の中にいるのだろうか。

遡ってざっくり言うと、酒場に来る女と少女を調査するようにゼパルから頼まれ引き受けたが、見た目が若い三人が酒場に普通にいると絶対に怪しまれるという考えになり、どうしようとゼパル含めた四人で考えた結果酒樽に化けて張り込めばいいんじゃないという結論に至った。

果たしてこの作戦が正解だったかどうかは誰にも分らない。


「エリア、こんな酒屋に女と少女が来るわけぇだろ?来たとて個の酒屋に来るとは限んねぇ、だから本気で見たってしょうがなぇよ、で、これいつまで続けるんだよ?」

「店が閉まるまでに決まってるでしょ? いまさらそんなこと言わないでよ」

「二人とも静かにしてくれる? 明らかに周りから人が離れてるんだよ」

「大丈夫だよエリア、魔法で遠くの声も聞こえるから、情報収集は任せて」

「そういう問題じゃ……」

「なんか暇つぶしになることあるか?」

「暇つぶしね〜」


あまりにも不自然に樽が鳴り動くので、気味悪く思い樽の近くの席だけでなく酒屋全体の客数も減っていく。

樽の中で見張ってもいいと許可を出した酒屋の店主が全体の客数が減るのをみて止めるよう言いに出ていくその時、樽の近くにおしゃれな服を着た黒髪で肩ぐらいの長さの少女と灰色の長い髪の女が立っていた。


「ねぇこれなんだと思う〜?」


と少女が言う。


「なんなのでしょうか?」


そう言うと女が樽の蓋を開け、女と少女二人で樽の中を覗く。


(あ…………)


蓋を開けると女と少女はエリアたちと目が合う。

女は気まずそうにしているが、少女はニコニコとしている。


「ね〜君たち何してるの〜?」  


(この人たちが例の女の人と少女じゃ……)


と少女がエリアたちに話しかける。

少女たちどう考えているかはわからないが、エリアたちは察していた、こいつらが調査対象だと。


エリアがどもりながらも答える。


「あ、え、えーと友達とかくれんぼしてたんですよ」、



夜の酒場の隅の樽の中に見た目年齢16あたりの人間が三人、この状況でごまかせそうな嘘をつけるわけもなく。

エリアの答えにネスとシェニーはエリアをバカが!! という目で睨む。

少女はその言葉を聞き少し笑いながら言う。


「そうなんだ~、友達ね~、じゃあ次は私たちと遊ぼうか?ほら友達も呼んできてさ」


エリアが少女の言葉への返答につまるとすかさずシェニーが助け舟を出す。


「ちょうど終わろうかと思って出ようとしてたんですよ、なので失礼しまーす」


あたかも夜の酒場でかくれんぼをしていたことが当然だったかのように振舞いながらシェニーは樽から出る。

その行動に女と少女、なんならエリアとネスさえもが困惑する。


(おまえらも早く樽から出んかい!!)


というような目線をエリアとネスに向ける。


「そんなのれないこと言わずに~、友達なんてほっといたらいいじゃん! 私たちの宿に連れて行ってあげる!」


そう言いながら少女はシェニーの肩に手を置く。

シェニーの助け舟、いや泥船はあっけなく沈没する。

その様子にエリアとネスの顔が引きつる。

なぜか少女と一緒にいた女の顔も引きつる。

凄い気まずい雰囲気が流れる、その時。


「そうですね! 友達なんてほっといて遊びましょう!!」


エリアはもう諦めたのか清々しい顔で樽の中から立ち上がり声をあげる。

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