28 特訓の次は……
「ここで少し働かせてもらえませんか」
シェニーがゼパルにお願いする。
エリアとネスがシェニーに近づきエリアが小声で聞く。
「シェニーこれはどういうつもりなの?」
「いま私たちには魔人族とエリアの妹とノルダの情報がいるの、その情報が一番集まる場所がどこかわかる?」
そう言うとネスが答える。
「そりゃ、騎士団とかギムレとかだろ」
「そうだけど、今のわたしたちじゃそこに情報を集めに行くことなんてできないでしょ」
「ギムレはいけるだろ」
「ネス最初に言われたこと忘れたの? 討伐者が違法なことをしたら討伐者カードの剥奪と重度の犯罪ってギムレ本部が判断したら処罰のための刺客がおくられるんだよ、今回のことが騎士団からギムレに報告されたら絶対刺客おくってくるよ」
「そうだっけか……」
「だからギムレにも行けない、となると残る情報集めの場所は……酒場よ!!」
そう胸を張って言うシェニー。
「なぜ酒場……」
エリアが困惑したように言う。
「酒場には討伐者や騎士がたくさん集まる場所だよ! いろんな情報も集まるはずだよ」
「酔っ払いしかいないんじゃ……」
「シェニーそんなに酒場に行ってみたいのか……」
「べ、別に!? ここで働いてたら自然と酒屋に行けるかもなのよ、それにある程度のお金も稼げる、良いことばかりじゃない?」
コショコショ話をエリアたち三人が話している間、ゼパルは考えていた。
(お礼をするといったがまさか働かせてくださいとは、てっきりおいしい酒屋知ってますかとか、感情を味わえる調味料分けてくださいとかかと思ってたけど、この子たち騎士団に追われてたよね……雇ってもいいものか……雇ったとしても接客じゃすぐにバレるか、そうなればこの店は……出前とかしてもらう? いやそれも……そうだ! 最近酒屋界隈で少し問題になってることを調べてもらうか……それを仕事として……)
考えがまとまったゼパルが言う。
「よしでは君たちを雇おう」
「ありがとうございます」
シェニーが頭を下げ両脇にいたエリアとネスの頭を掴み下げさせる。
「では仕事内容について教えます」
「はい!」
「はい」
シェニーは元気よく返事をし、エリアとネスはあまり乗り気のない返事をする。
「仕事内容はここ最近酒屋業界で問題になっている事件の調査です」
「は……い?」
三人はそろえて声を上げる。
「仕事内容はここ最近酒屋業界で問題になっている事件の調査です」
「いや聞こえてますよ、なんですか事件の調査って! この店何の店でしたっけ?」
シェニーが聞き返す。
「酒屋事件専門店ですが?」
目をそらしてとぼけたように答える。
「違いますよね! 酒のつまみ専門店でしたよね! さっきまであんなに自分の魔術で感情を酒のつまみにできるんだよって誇らしげに教えてくれてたじゃないですか!」
「そうだったかな……というのは冗談で……実際君たちは騎士団に追われている身でしょ、接客なんかやらせたらすぐに捕まるだろうし、この店で接客以外のできることはないし、配達業をやってもらおうかとも思ったけど、バレたらやっぱりこの店に影響でそうだし、だからまぁ悪いとは思ってるけど最近界隈で問題になっていることの調査をしてもらおうかと、報酬はちゃんと出すし、ご飯だって出すよ」
(思ってたのとは全然違うけど悪い条件じゃないし……情報集めもできそうだし……)
「わかりました、二人ともいいよね?」
「俺はいいぞ」
「僕もいいよ」
「なら決定だね、では君たちに調べてもらう事件は名付けて【気づいたら宿屋に泊まっていた事件】です」
「なんですかその変な名前の事件は」
ジト目でゼパルを見つめるシェニー。
「説明しよう、この【気づいたら宿屋に泊っていた事件】とは、酔いつぶれた男が目を覚ますとなぜか記憶にない宿屋に泊っていて、宿屋には宿代払ってね! と書かれた紙だけが置かれているという事件だ」
「それはただの酔っぱらいすぎただけではないですか?」
「そうだ、事件でもなんでもねぇ」
「まぁ調査はしますが……」
三人はなんだこのくだらない事件はとため息をつく。
「確かにこの事件はただの酔っぱらいの日常に見えるけど違うんだよ、この事件の不思議なところはね、これが数カ月前隣の都市イェルフスでも起きてたんだよ、それに宿屋の店主や同じ酒屋で飲んでた人たちに聞いてみたところ実行犯は一人の女と少女の二人なんだ不思議でしょ?」
「確かに」
「不思議ですね」
「不思議だ」
「不思議ね」
「というわけでその調査をしてもらいます」
「調査ってその女の人と少女のことですよね? 調査ってその二人について行って怪しいところを見つけたら捕まえろってことですか?」
とシェニーが聞く。
「捕まえなくていいよ、怪しい現場を確認したら私に連絡してください、そしたら私が騎士団を呼ぶから、君たちは騎士団が来るまでに逃げてね、後でラルクを描いた紙を渡すから、今日の夜ご飯を食てからお仕事頑張ってください、じゃあ君たちの部屋に案内するね」
そう言うとゼパルはカウンターの奥の扉を開き部屋に案内する。
「泊まらせられる部屋あったかな……」




