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輪廻伝記〜この世界を生きている〜  作者: 今日 虚無
防衛前線都市クラージュ編

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1 はじまる

これは人族、聖人族、獣人族、巨人族、竜人族の知性ある五つの種族が秩序をつくる世界。

魔族、魔人族と呼ばれるものたちが世界共通の敵として存在している世界。

魔術を使う者、神に力を与えられた者、魔法を極める者、武を極める者、平穏に生きる者、苦しくもがいて生きる者が存在している世界。




この物語はそんな世界で生きる一人の人間の人生の一部。




 始まりは、魔人族の王が眠っているブレン島から一番近くにある国、人族の国ヘイムダル。

大陸では西側に属しており、石レンガの建造物が特徴的だ。住む人間の多くは人族であるが交易が盛んな国でもあるので獣人族や聖人族の人間もいる。

大陸繋がりの隣国は獣人の国と聖人の国、海を挟んで竜人の国に接している。

そしてヘイムダルは唯一、神が創った国であり、国という概念を創った国。

そのヘイムダルの一都市、防衛前線と呼ばれる都市クラージュがこの物語の始まりの舞台だ。


クラージュは防衛前線都市と呼ばれている都市であり、大量の魔力残滓が集まり眠る魔人王を守るかのように際限なく魔族が生まれる島、ブレン島から一番近い都市である。

ブレン側には世界で一番高い城壁が建てられ今もなおこの街が防衛前線都市だと言うことを市民に言わしめている。

けれどもここ千年、魔人王との戦い以降は魔族、魔人族からの目立った攻撃もないのでクラージュの壁は観光スポットとしての一面も兼ねている。

街も戦うことを想定して作られているのできらびやかではなく、シンプルな造りと色合いで一層海側に聳え立つ城壁が目立って見える。

クラージュといえばこれ! というのは世界一の城壁ぐらいしかないが、ヘイムダルの首都ヘルトからは万が一の避難用、そして商業用の大きな一本道がひかれている。

 

そのクラージュ(防衛前線都市)の郊外の付近と比べれば少し大きな家の庭で二人の子どもが木刀で元気に戦っている。

一人は少し内気で優しい黒髪短髪の男の子、双子の兄エリア・ブラグル、もう一人は反対に明るく優しい肩までの長さのある茶髪の女の子、双子の妹テレサ・ブラグル。


カッカッ!!


二人の木刀が激しくぶつかり聞き心地の良い音をあげる。

そんな中、テレサはここと見たかいなや木刀を黒く光らせ、目一杯の力でエリアに向かって振り下ろす。


「ハァァァ!!」


上から振り下ろされる黒く光る木刀に対抗する様にエリアは木刀を淡い黄色に光らせながら振り上げる。


「オリャャャ!!」


激しくぶつかると振り下ろされたテレサの木刀にエリアの木刀は弾かれ、エリアは勢いよく背中から地面に倒れる。


「もう終わりにしないテレサ? もう疲れたしこれ以上テレサにボコボコにされるのは嫌だよ、あっちで一人で剣の練習していい?」


と地面に片手をつき、片手で庭の隅を指さし、萎えた状態でテレサに問いかける。


「嫌よ! 昨日思いついた必殺技まだできていないもの! まだやるわよ!」


とテレサは地面に倒れているエリアを物理的に見下しながら両手を腰において言う。

エリアは長考に長考を重ね、嫌々立ち上がりしぶしぶ木刀を構える。


「じゃあいくわよ!!!!」


テレサが木刀での剣の練習を再開しようとしたとき、エリア、テレサの母ジュリエが家の方からこちらを呼ぶ声が庭に響く。


「エリア、テレサこっちに来なさい〜、今日は基礎魔法についての授業をする約束よ〜」


家の玄関に立って手を振っている。

 彼女はジュリエ・ブラグル。

黒髪長髪でおっとりとした彼女はヘイムダルの主都ヘルトの魔法研究局の元局長である。

父との結婚と同時に退職をして今は父の勤め先のクラージュに引っ越している。


エリアとテレサは嫌々木刀を片付けて重い足取りで家に帰っていく。

家に帰るとここに座れと言わんばかりに椅子を出してジュリエが座って待っている。


「昨日約束したわよね〜、羊のステーキを作ってあげる代わりに明日は魔法の授業をしてあげるって〜」


ジュリエは手を合わせて頬に当てながらにこやかに言う。


「母さん、私たちは魔術を使えるんだから魔法なんていらないでしょ?」


とテレサはどうにかしてその授業を免れることはできないかと隙を探す。


「あなた達まだ身体強化しか使えないでしょ〜? 身体強化って言ってもそう呼べれるほどでもないし、剣ばっかり振ってても立派な騎士にはなれないわよ〜、魔法も使えないと」


「母さん、私たちは魔術を使えるんだから……」


と文句を言うテレサの言葉をジュリエはてきとうに流して二人を席に着かせ授業を始める。


「それでは授業を始めま〜す、まずは三つの基礎魔法、身体強化、魔力障壁、魔力弾から教えていくわよ〜」


そう言うと分厚く大きな本を二人に見えるように机の上に開く。

多分魔法研究局から持ってきた本だろう。


「じゃあ魔法も頑張るからさ、授業よりも実践で教えてよー、話聞くだけじゃ面白くないー」


とテレサは言いエリアもうんうんその通りだよ! と頷く。


「たしかに実践も大切だけど〜、授業も大切よ〜、それに授業は動かなくていいから楽じゃな〜い」


二人はジュリエのダメダメ感満載の返答にがっかりする。

どうやらもう退路は断たれたらしい。

これは授業コースだ。

そしてニッコニッコで授業を再開するジュリエ。


「ではまず基礎魔法で一番簡単な魔法、『身体強化』から教えま〜す」


(始まっちゃった……)


「身体強化は普通に生活していればある程度使えるようになる魔法で、身体能力を上げたり身体を頑丈にしたり、それに物に強化を付与して物の性能を上げたりできるのよ〜、身体強化というよりは自分や他のものを強化する強化付与と呼んだほうがいい魔法ね〜、この魔法が得意な種族が獣人族と竜人族、例えば獣人族の人は身体強化を超えた獣人化っていうのができるのよ〜」 


(ん…………)


「次は魔力障壁、魔力障壁は自分の魔力で魔法陣を描いて壁をつくり攻撃を防ぐことのできる魔法よ〜、この魔法わね、魔力で魔法陣を書いて自分の魔力を実体化させるという魔法陣の作り方と魔力の実体化の練習になるわ~、魔力障壁は物理には弱くて魔法には強いっていう特徴があるの〜、練習したらある程度は物理攻撃にも対抗ができるようにはなるわ〜、この魔力障壁を得意としているのが巨人族よ〜」


(…………)


「最後に魔力弾、基礎魔法で一番難しい魔法、一番難しい理由わね~魔力を魔力障壁のように魔法陣を使って魔力を実体化させてその魔力を遠くへ飛ばすっていうもう一つ過程が加わるから魔力障壁よりも難しいの~、魔力弾はね~威力を上げることも大事だけどより遠くまで飛ばすことが一番大事なの~、これはね遠くに行っても自分の魔力を途切れさせないっていう練習になるわ~、この魔法を得意としているのが聖人族だわ〜」


「この三つの魔法が基礎魔法よ〜」  


とジュリエは基礎魔法の授業を終え分厚い本を閉じる。


(………………)


一方エリアとテレサは情報過多により頭が爆発していた。


「どうする~? 基礎魔法の授業は終わったけどまだする~?」


「え……いや……」


そうエリアとテレサに意見を聞きながらも時間が余っていたのでジュリエは再度授業を始め本を開き何についての授業をしようかと探し始める。


「じゃ〜あ〜、エリアとテレサにとって身近な魔術についての授業にしようかな〜、エリアとテレサの持っている魔術は魔法では簡単にできないことを簡単にできてしまうものでね~、一定の魔力量を持った人がたま~にもっている才能みたいなものよ~」


(はじまった…………)


「その中でも使い方を理解していない人、そもそも自分の魔術に気づいていない人もいるし~、使い方を理解していてもその人の理解の仕方によって魔術の使い方も変わるわ~」


(…………)


「だから~まったく違う魔術だと思っても実は同じ魔術だったということがあるらしいわ~」


とジュリエが魔術の説明をしながらエリアとテレサの様子を確認すると二人は机に突っ伏して寝ていた。


(やっぱりちょっと難しかったかしら〜) 


と首を傾げ、寝ている二人を起こさないように本を閉じ席から立ち上がり、夕飯の準備を始める。

それから数時間後、エリアとテレサは玄関の扉が開く音で目を覚ます。 


(あれ? …………寝てた?)


エリアが目を開け音のした方を見ると仕事から帰ってきた父の姿があった。


父はスログ•ブラグル

 茶髪でやたらガタイのいい彼は防衛前線都市クラージュにヘルトから派遣された七つある騎士団の第三騎士団団長である。


「帰ったぞエリア、テレサ!!」


と家に帰り、椅子の上に隣り合わせで座っている二人を見つけるや否や大きな腕で二人を抱きしめ大きな声で褒める。


「離れてよ! お父さん!」


二人はうざったそうに言う。

そんな光景を横目にジュリエは夕飯の準備を済ませ一般的なご飯が机の上に並べられる。

エリアの家庭は夕食は家族全員でご飯を食べるように家族内で決めている。

ご飯を食べているとジュリエが思い出したかのようにあることを口にする。


「そういえば〜明日はヘルト(ヘイムダルの首都)神誕祭(シンタンサイ)が開かれる日よね〜」


「そういえばそうだったな! そうだ! せっかくだしエリア、テレサ行ってみるか神誕祭?」


「行きたい!!」


エリアとテレサはウキウキで両手を上げて元気にこたえるとジュリエとスログはその姿に微笑む。


「よし! じゃあ明日のために今日は早く寝るんだぞエリア、テレサ」


「わかった!!」


と言うとエリアとテレサは急いでごはんを口の中へかきこみ、歯磨きをして二回の子供部屋へと駆け込む。


「よし、じゃあ俺も明日のために早く寝ようかな」


とエリアとテレサが食卓からさった後、明日のことを思い浮かべながら満面の笑みで立ち上がるスログ。


「ダメですよ〜」


と微笑みながら寝室に行くスログを呼び止める。


「ん? なにジュリエ」


「明日は仕事でしょスログ? だからあなたは一緒にお祭りには行けませんよ〜」


「しごと?」



―次の日―


「エリア、テレサ起きなさ〜い、神誕祭行くんでしょ〜」 


「行くー!!!!」


二人は一階から聞こえてくるジュリエの声を聞き元気いっぱいにベットから飛び起きる。

出かける準備をして朝ごはんはお祭りでいっぱい食べたいからと言って二人とも食べずに家を出る。


二人はジュリエと手を繋いでクラージュへと歩いている。


「今日はヘルトに行くんでしょ? なんでクラージュに行ってるの?」


とテレサは言う。


「ヘルトまで送ってくる運び屋さんに会いにクラージュに行ってるのよ〜ここからクラージュまで歩いて向かったらお祭りが終わっちゃうわ〜」


「そういえばお父さんはどうしたの?」


とエリアは父がいない一緒に来ていない理由を尋ねる。


「お父さんは今日もクラージュを守るお仕事よ〜明日も仕事だ〜って、昨日の夜一緒に行けないのを残念がってたわよ〜」


それからクラージュでヘルトまで送ってくれる運び屋を拾い無事にヘルトに着いた。


エリアとテレサはクラージュよりも大きな街並みに目を輝かせる。

クラージュは一応防衛都市として機能をしているので煌びやかな街並みというよりは気の引き締まるような質素の街並みになっているが、それと比べ、ヘルトはヘイムダルの首都であり王がいる都であるので、高く大きな石レンガ造りの建物や、見た目がオシャレな石レンガ造りの建物が建てられていて東側には白く綺麗な城が建てられている。

そんなヘルトも年に一回のお祭りなので、より一層華やかな街になっている。

たくさんの屋台、建物から建物は繋がれている装飾品、道で芸をしている人々、それらは二人の子供のテンションを上げるには十分な材料だ。


「お母さんあそこみてみて!!!! ご飯屋さんがあるよ!!!! あそこにもある!!!! あそこにも!!」


テレサは美味しそうな匂いのする屋台に指を指して、早く! 早く行こう! とエリアは母の裾を引っ張る。


「では! ご飯屋さん巡りをしますか!」 


とジュリエは張り切って言うとエリアとテレサは手を突き上げる。


「おー!!!!!」




とルンルンに一通りの屋台を周った三人は市場にある広場で休憩していた。

エリアはその広場で気になるものを見つる。

それは剣を突き上げる女性に対して五人が膝をついている像だ。


「お母さんあの像はなに?」


「あの像はね〜、導きの神様と神様に力を貰った五天ゴテンって呼ばれる人たちの像よ〜」 


「導きの神様ってなんなの?」


と屋台で買ったご飯を口いっぱいに入れながらテレサは聞く。


「導きの神様はね、あの剣を上に挙げてる人、この人の国ヘイムダルを創った神様でね〜、魔人王を倒すために世界中の人々をまとめた凄い神様なのよ〜、ちなみにこの神誕祭はこの神様が生まれた記念すべき日なのよ〜」


続いてエリアも聞く。


「じゃあ五天はなに?」


「あの人たちは神様から力を分けてもらった五つの種族のリーダーさんたちよ〜、魔人王との戦いの時はとても活躍してくれたそうよ〜、それに今でも各国の王様は五天ゴテンって呼ばれる人たちなのよ〜」


そんなこんな話をして、そのあとは少し街を見て周りクラージュへと帰った。

帰る頃にはすっかり夜になっており、家に帰り玄関を開けると父が飛び出してきて二人をいつも通り強く抱きしめる。


「おかえりエリア、テレサ!! どうだった神誕祭!? 楽しかったか!?」


「楽しかったよ」


うざったそうに二人は言う。


「そうかそうか!! いやー俺も一緒に行けない分『トゥーミ』(盗聴魔法)でみんなの話を聞きたかったんだがな!! お母さんに昨日の夜相談してみたとこと止められた!! ハッハッハッ!」


「そんな気持ち悪いこと許すわけないでしょ~?」




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