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輪廻伝記〜この世界を生きている〜  作者: 今日 虚無
獣人の国スルト編

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27 感情は一番のスパイス

「ちょっと!! そこの三人止まりなさい!!」


今エリア、ネス、シェニーは路地裏を追いかけてくる騎士から逃げるため走っている。

騎士の声を聞き三人は一瞬、あっ止まって話し合えるかもなと思い振り返ると、騎士が片手で『ラルク(繋いだ手)』で騎士団本部と通信しているのが見えた。

その時三人の脳裏にあの光景がよぎる。

そう、昨晩一人の騎士が連絡すると空から五天が降ってきたあの光景、その時に見た五天のあの冷たい目。

三人はこれは、ダメだと思い、走りから全力疾走コースに変更する。


「あっちょっと!! 足速いな!!」


走っていると路地裏にあった扉が突然と開き、扉から出てきた手が三人を扉の奥へと引き摺り込む。


「お、おいあの三人はどこに行った」


扉の向こうで騎士が僕たちを探す声がする。

この扉は見えていないのであろうか?

騎士は扉に気づく気配もなくどこかに行ってしまった。


「あ、あのありがとうございます」


エリアがそう言い後ろを振り返ると大柄でダンディな男性が立っていた。


「いえいえ礼は結構です、壁の向こうから香ばしい感情の匂いが漂ってきましたのでついお店に入れてしまったのです」


そう太く低い声で言う。


「自己紹介をしていませんでしたね、私はこの酒のつまみ専門店()()の店主ゼパル・ホウクトゥス、ゼパルちゃんと呼んでください」


「え……あ……はい」


三人は唐突に突き出されたゼパルの圧倒的個性に声が出なかった。


「あなたたち名前はなんていうんですか?」


「僕はエリア・ブラグルと申します」

「私はシェニー・タンタスです」

「俺はネス・ウーピットだ」


「みんなよろしく、それではさっそく、なぜキミたちは騎士団に追われてたのかな?」


両手をにぎにぎしてにこやかにゼパルは聞いてくる。

エリアたち三人は顔を互いに合わせる。


「あ、大丈夫! 誰にも言わないから!」


「本当ですよね?」


シェニーが威圧感を出しつつ言う。


「本当だよ」


疑いつつも、もういいかとなりシェニーが全て話した。


「〜があって今騎士団に追われてるんです」


話を聞いたゼパルは興奮冷めやらぬ状態になっていた。


「あぁ、あぁ、実にいい! 特に五天ルフル・スルトから受けた恐怖の感情!!!! それがこの香ばしい匂いの原因ですか、実に、実にいい酒のつまみになる!!!!」


「え?」


三人は揃って声をあげる。


「あぁ、説明していなかったね、私の魔術で文字通り感情を酒のつまみにするんだよ」


「え?」


やっぱり理解ができない。


「じゃあ〜、ネスくんこっちにおいで」


ゼパルが不敵な笑みを浮かべながら手招きをする。


「俺かよ!? エリア、シェニー? 変わってくれなっ」


エリアとシェニーはネスから目を逸らす。

ネスはため息をつきながらゼパルの元へ行く。


「じゃあちょっと失礼」


そう言うとゼパルはネスの頭に手を添える。


「『探索』」  


ゼパルは目を閉じてネスの頭の中にある何かを探しているようだった。

その間ネスは真顔でゼパルの顔を見つめていた。


「うん、うん、昨日のことですから〜、見つけました、鮮明でとても味わい深そうな感情です」


ゼパルはそう呟くとネスの頭から青く光る何かを抜き出す。

ネスは自分の頭から何かが抜けた感覚に驚き倒れ込こむ。


「ネス!!」


そう言いながらネスの元へ駆け寄るエリアとシェニー。


「大丈夫ですよ、少し昨日感じた感情を抜いただけですよ」


「感情を抜いた?」


エリアが聞き返す。


「そうです、試しにエリアくん、昨日五天ルフル・スルトにあってどう感じたか聞いてみてください」


「ネス昨日五天様にあってどう感じた?」


「ん? あーえーと、別にどうっていわれてもな」


(本当に忘れてるの?)


そんな会話を横目にゼパルは作業を進める。


「それでこの感情に調味料を漬け込んで」


ゼパルは青く光る抜き取られた感情に塩や砂糖といった調味料を漬ける。

そしてゼパルは手をかざして「『転写』」そう唱えると作業を終えたのか、青く光った感情から調味料を取り出す。


「これで作業は終わりました、この感情はお返しします」


そう言うと青く光るネスの感情を頭の中に戻そうとする。


「おい、そんな調味料を漬けた後の感情なんか俺の中に入れるな」


そう言いながら後ずさるネス。


「そう言わずに、これはもともとあなたの感情なのですよ」

「やめろぉぉぉぉ」

そう言うと後ずさるネスの肩をガシッとつかみ無理やり頭の中に戻す。

そう叫んだあとネスはルフルにあったときのことを思い出したのか、静かになる。


「様子を見る感じ感情は戻ったようですね、ではエリアくん、シェニ-くん、この塩を少し舐めてみますか? あ、砂糖でもいいですよ」


エリアとシェニーは警戒しつつも手を出す。

ゼパルはその手に少し塩をふりかけ、エリアとシェニーは塩をなめる。


「ん!?」


なめた瞬間背筋がぞくりとする。


「どうですか? 恐怖を感じましたか? これがいい酒のつまみになるということです」


そう嬉しそうに言うゼパル。

確かにあの時、五天ルフル・スルトにあった時に感じた恐怖の感情をこの塩を感じたが、それの何が酒のつまみになるのかわからないエリアとシェニー。


「え、はい」


「ではあなたたち二人の感情も頂戴したいのですが……もちろん私もできる限りの礼をしますから」


エリアとシェニーは承諾し、ゼパルは同じ作業をして調味料に感情の味付けを完了させる。

 

「ありがとうございます、これでいい味の調味料ができました、では早速お礼をしたいのですが、何にがいいか……」

 

シェニーが手を挙げる。


「ここで少し働かせてもらえませんか?」

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