22 噂はいずれ災となる
特訓開始から約三週間が経った。
エリア、ネス、シェニーは身体強化、強化付与の練度も上がり、どうやら新しい魔術の使い方も思いついたらしく、三人は着実に成長していた。
そんなある日の夕方、特訓が終わり三人の傷をノルダが治していたときのこと。
「ノルダ、なにかあっちの方……なにあれ?」
シェニーがリベル側の森の奥を目を凝らしてよく見て言う。
確かに森の奥に人影が見える。
その人影はよりくっきり見えるようになり、より数を増していく。
その異常さにエリアら四人は立ち上がる。
その影はやがて鎧を着たスルト騎士団に変わる。
「さて、騎士団がこんな森の奥になんのようかな? 散歩だとしたら暇な人たちだね」
二十数人の騎士団の先頭に立っている男が名乗りをあげる。
「私はヘルト騎士団第四騎士団団長ロスクン・ダミレ、スルト国女王フェッテ・パプスの名に従いこの森の調査に来た」
その名乗りに対してノルダは軽く挨拶をする。
「どうも、私はレヴィ・ノルダよろしく、申し訳ないがこの面は諸事情で外せないんだ、そこは礼儀を欠いてしまう、すまないね、」
「そちらの三人は?」
ロスクンはエリアたちに目を向ける。
「僕の弟子だよ、それで森には何の調査に来たんだい?」
「最近この森には魔人がいるという変な噂の調査です、なんかこの森ですごい音がしたらしくて変な噂が絶えないんですよ」
(やっべ! シェニーのあの巨人をちょっと本気出して切った時だ! そんな響いてたんだ)
「女王の命令で騎士団はそんなくだらない噂に振り回されてるのかい?」
ノルダは内心少し焦りつつ言う。
「まったくです、私も適当に調査して帰ろうと思ってたぐらいですから、ですが一応、体から血が出るかだけ確認させてくれますか? そこの三人もお願いします」
ノルダは自分の刀で指先を少しだけ切る。
エリアたちもそれを真似て自分の指先を少し切る。
ノルダは指から血が出てくるとその様子をロスクンに見せに行く。
後に続いてエリアたち三人も血が出ていることを見せに行く。
「血は確認できました、ありがとうございます、では帰りますと言いたいところですが……」
ロスクンは鋭い眼差しでノルダの泣いている狐の仮面を舐めるように見る。
「その泣いている狐の面、私覚えがあります、ここ六年間でスルトの村々から騎士団に報告されていた人物と同じです」
「へぇーそれがどうしたんだい?」
ノルダは意気揚々と鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で言う。
「確かにどうしたってことでもないです、騎士団も当時最初の報告が来た時も大したことではないと思って無視してたぐらいですし、僕もそう思ってました、ですが騎士団総団長ルフル・スルト様だけは違いました」
ノルダの雰囲気が変わる。
さっきまで余裕そうだったのに、ルフル・スルトの名前が出た途端余裕が消えたように見えた。
「ルフル・スルト様はこの件を重要なことだと考えたのか、この六年騎士として仕事をしている間ルフル・スルト様は、ずっと人々に聞き込みをしていたんです、なぜそこまでその人物を探すのかと聞いてみても、はっきりとした理由は教えてくれませんでしたが……」
ロスクンは手のひらに魔法陣を描き出す。
「私には探す理由はわかりませんが、ルフル・スルト様が探すということはそれほど重要な人物なのではないかと私は思います、少し待ってください、ちょっとこのことを総団長に連絡しますので……」
魔法陣が完成しようとした時ノルダは刀を鞘から抜かずに鞘でロスクンに殴りかかる。
ロスクンは魔法陣の展開をやめて、刀を抜いて受け止める。
「急にどうしたんですかノルダさん!?」
「連絡はやめてもらいたいかなってね?」
「別にあなたを捕まえるためとかそんな理由で連絡するんじゃないんですよ!? 総団長に連絡してなんの不都合があるんですか!!」
そう言いながらロスクンはノルダの剣を弾く。
ノルダの行動を受けロスクンの連れてきた騎士二十数人が剣を抜く。
「なにしてるんですか! ノルダさん!」
ノルダに向かって叫ぶエリア。
だがノルダはエリアの声を聞いていない。
「このまま大人しく帰ってもらおうか、それから連絡でもなんでもすればいい」
そう言いながら刀をロスクンに向けるノルダ。
「いいえこのままでは帰れなくなりました、あなたはスルト騎士団に刃を向けたんです、これは立派な犯罪です、ここで捕まえます」
ロスクンは後ろを振り向いて、後ろにいた騎士の一人に話しかける。
「すいませんが騎士団に連絡を……」
ロスクンが連絡を頼んだ騎士は次の瞬間ノルダに鞘で殴られ気絶する。
(な……今の一瞬でこの距離を……!?)
騎士が一人気絶させられたことで残り二十数人の騎士に火がつき一斉にノルダに襲いかかる。
「おい、なにがどうなってんだよこれ」
ネスがエリアとシェニーに話しかける。
「わかんないよ!」
「とりあえず見ていることしかできないよ」
そう三人が声を小さくして話している間にノルダはロスクン以外の騎士を全て気絶させる。
「そこまでして騎士団に知られたく……いや騎士団総団長ルフル・スルト様に知られたくないことがあるんですね?」
そう言いながら刀を構えるロスクン。
「今、知られたくないだけだよ、帰ってから伝えてくれたらよかった」
ノルダも刀を構える。
「とりあえずあなたをここで捕まえます」
そう言いロスクンはノルダに向かって走りだす。




