21 ルフル・スルトのとある一日
五天様ー!!!!
人々の歓声が上がる中、威厳あるように歩く。
(私はこうあるべき……)
私はルフル・スルト、二代目五天でありスルト騎士団総団長である。
「おかえりなさいませ! 総団長!」
ルフルが城に着くと、大勢の騎士が膝をついて、声を揃えて言う。
ルフルは手を挙げてありがとうの気持ちを表す。
城に帰ると、いつもこんな風に大声で、変な挨拶で、騎士団に出迎えられる。
(なんどもやめてくださいって言ったのに……)
「おかえりなさいませ! 総団長!」
一人の大剣を背中にかけた大柄な男が近づいてきて、目の前で膝をつく。
彼はリーハス・ウェンヴァ、スルト騎士団第一騎士団団長である。
この変なあいさつを考えたこと以外は優秀な騎士だ。
「リーハス、もう一回騎士団に伝達しておいてください、あの出迎えはいらないと」
「出迎えはいらないと言ったのですが、騎士達がルフル様に喜んでいただきたいと自主的に集まってしまい……」
(絶対に嘘だ……リーハス、絶対に伝えていないでしょ)
「気持ちは嬉しいですが、騎士団にはもっ……」
「やはり嬉しいのですね! 騎士団のことはお気になさらず! これからも続けさせてもらいます!」
(え……あーもう、いいや)
「今、女王様は何をしていますか?」
「女王様は執務室で御休憩なさっています」
「ちょうど良いですね、あ、着いてこなくて大丈夫ですよ、お仕事に戻ってください」
「承知いたしました!」
リーハスは頭を下げると、仕事にもどっていった。
(はぁ……疲れる)
王の執務室の扉を叩く。
トントン。
「どうぞ」
「失礼します」
「ルフル総団長ですか」
部屋に入ると華やかな服を着た女王が姿勢を正して座っている。
だが、よく見るとおでこが少し赤くなっているのでさっきまで顔を机に伏せていたのだろう。
彼女は獣人の国スルトの女王フェッテ・パプス。
13代目のスルトの王である。
「御休憩中申し訳ありません」
「いえ大丈夫です、ルフルさんこそ、リベル周辺の調査ご苦労様でした」
「いえ、私が望んだことなので」
「どうでしたか、リベル周辺の様子は?」
「周辺を調査し、村々にも聞いてみたところ、やはり上級魔族の発生率がここ一、二ヶ月で大幅に上昇していることがわかりました」
「そうですか、魔人族については何かわかりましたか?」
「いえ、魔人族についての情報は何も得られませんでした、申し訳ございません」
ルフルは頭を下げる。
「頭を下げないでください! 五天様!」
とても焦る女王。
「なんども言っています、私は五天ではあるが、女王に従える身であると、地位で言うとあなたの方が上です」
「そ……そうですね、頭をあげてくださいルフル総団長」
ルフルは頭を上げる。
(すごい気まずい……五天様だけど、立場は私が上……いつまで経っても慣れない、なんか、なんかこの状況を変えれる話は……あっ! そういえば)
フェッテはなんとか空気を変えようと、軽い話題をだす。
「最近巷で、妙な噂が立っているのを知っていますか?」
「妙な噂ですか?」
「はい、最近リベル近郊の森で魔人族を見たという、根拠も何もない妙な噂ですけどね」
「それは見過ごせません! 私が今すぐ調査に行きます!」
そう言いながらルフルはやる気に満ちた目をフェッテに向ける。
(まずい! またルフル様が動いてしまう!!)
フェッテは机に身を乗り出してルフルを止める。
「ま、待ってください! こんな根拠も何もない噂にスルト騎士団総団長が動かないでください! スルトの最高戦力をリベルからこんなことで動かすわけにはいきません!」
「ですが、可能性がある以上見過ごすわけにはいけません!」
ルフルは拳を強く握り力強い声で言う。
「許可しません! ただでさえ今回の調査にあなたを行かせることに反対だったんですから、それをあなたのわがままを聞いて仕方なくだったんですからね!」
「では、個人的に調査を行います!」
「い、いや、許しません!」
「私の個人的なことです、口を出される覚えは……」
「分かりました! では第四騎士団に行ってもらうことにします」
フェッテは座り直し、小さくため息をつく。
「わかりました、それなら私も調査することは諦めるとします」
少し不満そうだが、納得したのであろうルフルは諦めた。
(空気を変えるつもりで出した話題がここまでになるとは……頑張るのは当然ですが、頑張りすぎです、軽い噂にまで騎士団総団長が動いてしまうのは……)
「はぁ……私から話したいことはもうありません」
「では失礼します」
ルフルは頭を下げると部屋から出ていった。
ルフルが出てすぐに扉を叩く音がする。
トントン
(え? また……少しは休憩を……って!?)
どうぞと言う前にキリッとした女性が部屋に入ってくる。
女性の手には大量の書類が……。
「失礼します女王様、休憩時間は終わりです」




