20 首都リベル 週休一日
「はぁ……はぁ……疲れた……」
「早くご飯……あれ? ネスは……?」
「エリア、シェニー……ちょっと待て……」
ここは獣人の国スルトの首都リベルの城門。
エリアら三人はノルダに言われた通り、森から走ってリベルに向かって着いた後だ。
流石に30分の全力疾走に息が切れる三人。
三人の息がひとまず整ったら、エリアが口を開く。
「とりあえずリベルに入ろっか」
三人は城門の前を守る騎士のもとに行き、エリアが話しかける。
ヘルトの騎士とは違い、ゴツゴツとした鎧というよりは、最低限身を守れたら良いと言わんばかりの攻撃特化に見える鎧だ。
「すいません、リベルに入りたいんですが……」
「国民証明書、入都許可証、もしくは討伐者カードはお持ちでしょうか?」
「討伐者カードがあります」
三人は自分の討伐者カードを取り出す。
「はい、確認しました、では入都料をあちらで払ってください」
騎士が手で示した先に、城門の中に設けられた受付があった。
シェニーが討伐者カードを見せお金を渡すと受付の騎士はリベルに入る事を許可した。
それと入都許可証を貰った。
どうやら入都許可証を持っていると三ヶ月はスルトの都市を自由に出入りできるようになるらしい。
都市に入ると、人の国ヘイムダルの首都ヘルトとはまた変わった景色が広がっていた。
シェニーが言っていた通り木造の建築物が多く、人々の服もヘルトとはまた違うデザインだ。
スルトの王が住んであろう城は街の中央に建てられていて、どこからでも見えるデカさだ。
いや、城がデカいのではなく周りの建物が比較的に低く建てられている。
エリアとネスが街に見惚れているとシェニーが先に歩いてこちらを呼ぶ。
「なに突っ立ってるの? 早く行くよー」
「すごい平和な雰囲気だね」
「そうだな、そこらの森で上級魔族と出会える国とは思ねぇな」
「ほんとにね」
「そういえば、昔から思ってたんだけど、なんで獣人族って呼ばれてるの? 見た目は人族と見分けがつかないんだけど」
エリアがシェニーに素朴に不思議に思った質問する。
「外見じゃ人族と見分けはつかないよ、獣人族と呼ばれる理由は獣人化かができるから」
「獣人化? んだそりゃ?」
「昔、母から少しだけ聞いたことがある」
「獣人化はね、身体強化を獣人族だけが特有の魔法として昇華して使えること」
「めっちゃ良いじゃねぇか!!! 俺も使いてー」
「でも獣人族の人もそんな簡単に使える魔法じゃないんだって」
「ノルダさんも使えるのかな?」
「あんなに強いなら使えるだろ」
「どうだろ? 魔力の消費がすごいらしいし、それにああ見えて獣人族じゃなかったり?」
「あの空気の読めなさ、魔人族かもしんねぇな」
そんな和気藹々とした話をしながら歩いていると、屋根の上に設置された木の看板に大きな文字で(寿司寿司寿司)と書かれた店をネスが見つける。
「おい、あれ、飯屋じゃねぇか?」
「お寿司屋さんだね」
「美味しいのそれ?」
「さぁ? 私は好きだけど、人によるんじゃない? 生魚が嫌いならダメかも、少し早いけどお昼はお寿司にしようか」
「魚を生で食べるの!?」
「そうだよ、まぁスルト以外じゃあんまりみないね」
三人はお寿司屋で寿司を食べ街を観光することにした。
どうやらエリアには寿司は口に合わなかったらしく、唯一美味しかったのは焼かれたエビだと語った。
「とりあえずどこ行こうか?」
「そうだな、ただブラブラ歩いてるだけでも楽しいしな、別にどこに行きたいとかもねぇな、魔族の情報収集もかねてギムレに行ってみるか」
「そうしよう」
三人はリベルのギムレに行き、魔族、魔人族の情報を受付の人に聞いてみたところ、ここ最近、上級魔族があちらこちらで出現して危険な状態が続いているらしいとヘルトからリベルに向かうまでの道中の村で聞いた話と似たような情報だった。
だが新たにリベル付近の森で、ものすごい音が一週間前鳴り響いたらしく、その森には魔人族がいるという噂もあるらしいという情報を得た。
しかしその情報についてはなぜだか急に耳が痛くなり三人とも聞かなかった、聞こえなかったことにした。
結局肝心の仮面の魔人について、エリアの妹についての情報はなかった。
ギムレを出て、特にやることなくなったので、とりあえずブラブラしているとエリアが城を見て提案する。
「お城見に行かない? 遠くから見た感じヘルトとは外観も全然違うし面白そうだよ」
「いいね、じゃあ、目的地はお城!」
三人は街の中央にある城に向かうことにし、城に近づくにつれ街も活気に溢れ、人も増えていく。
「なんだあれ?」
ネスが指を指した先には城へと続く大通りだ。
その大通りに人が多く群がっており、気になって三人も人混みに入ってみる。
人々が群がっている先には大通りを歩く騎士団がいたが、別にただの騎士団だ、群がって見るほどのものじゃないと思った時、奥の方から人々の歓声が近づいてくる。
歓声に耳を傾けるとこう聞こえる。
「五天様ーー!!!!!」と……。
「ご、ご、ご、五天!?」
シェニーが驚愕の声をあげる。
エリアとネスは驚きのあまり声も出ない。
歓声がどんどん近づいてくる。
三人は人混みの中五天を見ようとピョンピョンと跳ねる。
とうとう目の前を五天が通る。
白く先に行くほど黒くなるグラデーションのかかった長く美しい髪で、身長はそれほど高いわけではないその姿は、優雅に、だが逞しい姿だった。
三人は五天の姿を見るに、あまりの迫力に声も出せなくなった。
五天がの姿が見えなくなったところで三人はぴったりくっついて興奮したように喋りだす。
「エリア、ネス! 見た?」
「見たに決まってんだろ! なんかわかんねぇけどすげぇな!」
「迫力がすごかった、あの人が今の五天様なんだね!」
「そう! ルフル・スルト様! 私も人生で初めて見た! この国だからこそ見れたのかも」
「これはノルダに自慢できるぞ!」
「そうじゃん! 早く帰ろ!」
興奮冷めやらぬ状態で三人はリベル近郊のノルダの家がある森へと帰る。
いつもノルダと戦っている家の下の広場に三人が着くと、ノルダが家の上から飛んで三人の目の前に降りてくる。
「おかえり、エリア、ネス、シェニー」
「帰りました!」
「うぃ」
「ただいまー!!!」
「様子を見る感じ……走って帰ってきてないね?」
ルンルンで帰ったのも束の間、その一言で空気が冷める。
あまりにもの嬉しさにそんなことすっかり忘れていた。
「まぁいいよ、で? なんでそんなに嬉しそうだったわけ?」
ノルダは特に咎めず嬉しそうにしてたわけを聞く。
シェニーが胸を張って答える。
「聞いて驚きなさい!! 私たち五天様に会ったんだよ!!」
「へぇー」
ノルダはそっぽを向きながら興味無さそうに返す。
思ったのと違うリアクションにイラッとするシェニー。
「何その興味なさそうな返事!! それでも獣人族なの?」
「別に興味ないことはないよ、獣人族だし、えーとじゃあ……どんな感じだった?」
「どんな感じだった? うーん……すごい威厳のある感じかな? あと凄い美人だった!」
「そうか」
「ノルダさんは五天様に会ったことがあるんですか?」
エリアが言う。
「昔、一回だけ会ったことがあるよ」
ノルダはそう返す。
何処か少し悲しそうな雰囲気を漂わして。
ノルダはサッと後ろを向きこう言う。
「そんなことより! 明日からまた特訓だよ! 早く寝るぞ!」
そう言うとノルダは自分の家へ戻るべく歩きだす。
そのノルダに駆け足でついていき、各々聞きたいことを喋り出す三人。
ノルダはめんどくさそうに返事をする。
「ノルダは獣人化できんのか? なぁ!」
「どうかな?」
「ノルダさんエビのお寿司食べたことあります?」
「そりゃ食べたことあるよ、エビ美味しいよね」
「なんかリベルで変な噂が立ってたんだけど……」
「気にしない、噂は噂だよ」
三人はノルダに話しかけながら、ノルダの家に帰っていく。




