99 聞いた声
「これがこの子の記憶ね」
シェニーは傷だらけで倒れている男の子の記憶を魔法で読み取り語り終える。
「この一面の赤い雪……燃えるんですか……」
「この男の子が傷だらけなのはなんで?」
とエリアがシェニーに記憶を読み取った上では語られなかったことに聞く。
「気絶しててこの遺跡に入ってからの記憶が飛んでるんだよね。だからわからない」
「状況から見るに、生命力と魔力を消費して自害しようとしたのではないでしょうか? 身体中の傷もそれかと」
とクルックが状況から見る予測を話す。
「あと記憶を見た感じ、この子は魔人だけど、私たちの追ってる魔人王とその集団とは別ね」
「なら……」
とエリアはルミの残酷な過去を知って剣を握っていた手の力を緩める。
ルミは魔人王とその集団に関係していない、その点だけでは殺す理由がない。
「こいつは我の家を奪ってるのだ!! それに変わり無い!! こやつがどうだろうと、死ぬべきだ!!」
「すごいなおまえ……」
とエリアと反対に慈悲も何も無いディスネにドン引くネス。
「殺さなくても良いのでは無いでしょうか? この子はまだ魔人になったばかりですし、他の魔人と違い、人を殺さなくても生きていける方法があるかもしれません」
とコラスが言う。
「そんな方法ありますコラスさん?」
「今はないですが……魔族・魔人族研究部の人に聞いてみます」
「あの部の人たちは魔人族を救うために研究してるわけじゃないですよ?」
「そ、そうですね……」
「何を迷っているんだ!! 今が好機ではないか!! 早くやれ!!」
とクルックとコラスが問答を繰り返し、エリアたちが迷う中、ディスネが急かす。
「ならおまえがやれよ!!」
「我はやらん!!」
「なんでだよ!!」
「我には殺す技量がないからな!! だが我は本気だ。遺跡のことなど言ってはいるが、これはお前らのためだ。こいつが今起きて戦闘になったらどうする? なんの傷も負わず倒せるのか?」
「ここから離れてこいつが消滅するのを待てば良いんじゃねぇか? こいつ自害しようとしてたんだろ?」
「ネスの言う通りね」
「お前たちあの記憶を見てまだそんな甘いことを言っているのか? 今は気絶してるが、こいつは身の危険を感じると人を殺すんだぞ?」
ディスネの真っ当な意見が五人の殺さない雰囲気に待ったをかける。
ルミという魔人は確かに本能に抗ってはいたが、最後は本能に負けて村を焼き尽くした。
「ん……」
その時、ルミが目を覚ます。
六人は一斉にルミに最大限の注意を向け、エリア、シェニー、ネス、クルックは武器を構える。
ルミはこちらに気がつくと、意識が呆然としているのか虚な目をするが、意識が鮮明になるとエリアたちから距離を取る。
「僕に近づかないで!!」
そうルミの叫んだ声は震えていた。
まるで自分に怯えているように。
「僕は魔人なんです!! だから、早く!! 早く離れてください!! 今にもあなた達を殺してしまいそうです!!」
ルミのその声に、否、感情に反応し、床一面に広がる赤い雪の温度が上がる。
「僕はもう誰も殺したくない!! 早く!!」
エリアたちは急いで神座から出ようと、シェニーを先頭に赤い雪を風で吹き飛ばしながら向かう。
「おいおい、赤い雪が発火してきたぞ!!」
「だから早く殺せと我は言ったんだ!!」
「コラスさん後ろ!!」
クルックの言葉に最後尾を走っていたコラスが振り返る。
コラスの目に映ったのは傷だらけの体のルミが殴りかかっている姿だった。
「『刹那』」
「ありがとうございますエリアくん!!」
エリアが瞬間移動したかのようにコラスの前に現れ、殴りかかるルミを蹴り飛ばす。
「なぜ斬らん!! 相手は瀕死だぞ!!」
ディスネはエリアを難じる。
ディスネ言う通り、エリアはルミを斬ることができた。
今のエリアなら瀕死の、魔人になりたてのルミを殺すことは容易い。
しかし、選んだのは打撃だ。
やはりエリアは迷っていた。
ルミを殺して良いのかと……。
魔人は魔人だが、幸か不幸か、魔人になる生い立ちを知ってしまった。
「これは……私たちを本気で殺す気ね」
シェニーがそう呟く理由は出入り口が赤い雪で覆われ塞がっていたからだ。
「あいつ逃げたと言っていたくせに!! 本能に負けるな!!」
「これは私の魔法じゃ払えないよ!!」
「俺がなんとかする!!」
そう言いネスは持っていた剣を魔法陣にしまう。
「ネスさん? 大丈夫です、私の弓でなんとか!!」
となんとかすると言いながら武器をしまい、右手に電気を走らせ、冷や汗をかくネスの様子を見てクルックが心配をする。
「心配ねぇよ!!」
ドゴォン!!!!
だが、ネスが何かをすることなもなく、出入り口を塞いでいた赤い雪がエリアたちから見て外側から弾け飛び、赤い粉雪が空気中を舞う。
「ネスくんがやったのですか?」
「俺じゃねぇ……けど……」
「嫌な予感ね……」
「どうなってるんだ!!」
「まずいです!! 後ろから来ます!!」
「後ろは僕が」
とネスとシェニーとコラスが赤い雪が弾け飛んだ光景に唖然とする中、クルックとエリアは後ろを警戒する。
「まさか先客がいるとはな」
エリアはその声に振り返る。
「エリアさん?」
その声は子供の頃聞いたことのある声だった。




