98 しょうがない
「帰ってきませんね」
「夜も明けた、おそらく追ってやつはルミに殺されたんだろう……逃げられたか……俺たちも行くぞ」
「はい!!」
ルミが逃げ、村全体に広がった火が落ち着くと、ルミを追いに追加で数人の村人が装備を整え、ルミの逃げ込んだ森に入っていく。
一方シャミは絶望の淵に立っていた。
ルミが降らした赤い雪が村と村人を焼き、シャミ自身は赤い雪が降らず助かったが、両親が焼き焦げていたからだ。
なんで……ルミ?
なんでこんなことしたの?
なんで私の村を焼いたの?
なんでおばちゃんを殺したの?
なんで――私のお父さんとお母さんを焼いたの?
なんで……。
私は赤い雪のせいで焼けたお父さんとお母さんを置いて、ルミへの思いを募らせながら、村の大人たちがルミを追って森へ入っていく後ろにこっそりとついて行こうとする。
「どこにいくのシャミちゃん?」
「そうだよ、危ないよ……」
そんな私をルミのお母さんが止めてくれた。
お父さんも私に危険だと教えてくれる。
ルミの、お父さんとお母さんが――。
「黙ってください、あなたたちのせいで!! 私のお父さんとお母さんが!!」
私は怒りのままルミのお父さんの肩を押す。
ルミのお父さんの肩は、私の魔術でパックリと縦に切り裂かれ傷ができた。
切り傷ができながらもラッカウは涙を流しながらルミを抱きしめる。
「ルミちゃん……本当に私の息子が取り返しのつかないことをした。息子の代わりに謝らせてください。ごめんなさい」
「ラッカウさん……」
いや……死ねよ。
「『木斬』」
シャミはラッカウの首に手を添えてそう唱えると、涙を流していたラッカウの首は、シャミを抱きしめている胴体だけを残し地面に落ちる。
「ラッカウ!! あぁぁぁぁぁぁ!!」
ルミのお母さんは泣きながら倒れるルミのお父さんの体を支える。
私はそんなお母さんの首に手を置いて同様に切断した。
みんな自分のことで手一杯、誰も見ていない事にはやったあとから気が付いた。
私は走ってルミを探しに森の中に入っていったみんなを追った。
追ったのはいいものの、ルミを探しに行ったみんなには追い付けず、私は森の中で迷子になる。
でも、そんなこと関係ない、ルミさえ見つけれればいい。
ルミを——殺す。
迷いながらも森の中を歩いていると、導きの神様が導いてくれたのか、偶然森の木のそばにもたれて呑気に寝ているルミを見つけた。
様子を見るからに疲れているみたい。
私はそっと起こさないように近づく。
「シャミ?」
バレた!?
私は走ってルミの首目掛けて手を伸ばす。
ルミは体を横に倒して倒れながら私の攻撃をかわし、狙ってはいなかったけど、そのまま伸ばした手はルミのもたれていた木に触れて、木を横に真っ二つに切断した。
切断された木は幸運にもルミの方に倒れ、ルミは木の下敷きになる。
「シャミ……なんで……」
「何を言ってるの?」
「僕、何もしてないよ。教えて、僕はなんで村のみんなに追われてるの? シャミ?」
私はそのとぼけた言葉に湧いた殺意のまま、木下敷きになっているルミの顔面に手を伸ばす。
「雪!?」
ルミは私の足元一面に赤い雪を出現させて、その雪を発火させる。
私は赤い雪がないところまでさがって距離をとる。
赤い雪はたちまち燃え広がり私の周りは火の雪原に変貌する。
私が炎で身動きが取れない間にルミは自分の上にのしかかる木を焼いて出てきた。
「話し合おうよシャミ。僕昨日の夜の記憶がないんだ、だからなんで僕が村のみんなから追われてるかわかんないんだ。特別な魔法もうまく使えるようになってるし……」
「本気でそんなこと言ってるの?」
「本気って?」
「ルミが……ルミが魔人だから!! ルミが村の人たちを魔術で焼き殺したから!! そして私のお父さんとお母さんを殺したから!! 今、私と村のみんなに追われてるんだよ!!!!」
その時、ルミの頭に昨晩の記憶が流れ込む。
「僕は……」
「思い出したルミ?」
「違う……体が勝手に……」
「魔人のいうことは違うね」
「ほんとに体が…………魔人? …………僕が魔人?」
幼いながらシャミはルミが戸惑いを見せた瞬間を見逃さず、炎の雪原の間を縫ってルミの懐に潜り手を伸ばす。
ルミはシャミから逃げるように距離を取ろうと体を後退させるが、シャミの指先が少しルミの脇腹を掠める。
「シャ……ミッ!!」
ルミの脇腹は掠めた先から少し裂け、そこからは一滴の血が――流れない。
「血が……」
「どう? ルミは人間じゃないんだよ? だって、血が流れてないから」
「違う!!」
「そういえばルミに一つ言っておくことがあった」
シャミは口角を上げ、にやけながらルミの目を見る。
「ルミのお父さんとお母さん――殺したから」
「な、なんで?」
「仕返しだよ。ルミが私のお父さんとお母さんを殺したんだから――しょうがないよね?」
しょうがない? しょうがない?
「シャミ!!!!」
ルミは力強くシャミの名前を呼ぶとそれと呼応したかのように赤い雪が吹雪く。
そして、シャミを覆えっていた足元の赤い雪も面積を増やし、燃えながら足元を覆う。
その光景にシャミは焦りを見せる。
シャミの魔術は近づいてものに手の一部が触れないと発動しないが、足元をひどく覆う雪で近づけそうにない、加えて吹雪いてくる赤い雪で体に火が付き始めている。
火だるまになるのも時間の問題。
このまま何もせず待っていれば当然、ルミの勝ちだ。
だが、魔人とてまだ五歳——そんな事を上手く進めれるわけもなく。
ルミは怒りのまま、自分の手で両親の仇をとろうと身動きの取れないシャミ近づき殴り掛かる。
シャミはその思わぬ好機に一発でも魔術を当てようと、復讐心に燃えながら、そして、体が燃えながらもルミの攻撃を避けようと全神経を集中させる。
しかし——シャミの無意識な思い込みは甘かった。
それは、ルミの身体能力がまだ魔人としての体が成っていない不完全な頃——ごく一般的な、一緒に遊んでいた頃の身体能力を想定したものだった。
ルミの拳はシャミの予想を裏切り、シャミの顔面に直撃する。
シャミは振りかざされた拳の勢いのまま地面に倒れる。
体も燃え、顔も陥没——そんな姿に変わり果てたシャミがルミの前に倒れる。
その村一番かわいかったはずのシャミの姿を見てルミはとどめを刺そうとする拳をおさめる。
「ごめんシャミ……全部……ぼくの……せいだ」
凄い勢いで降りしきる赤い雪を目印に遅れてルミを探しにでた村人たちの声がルミの耳に入る。
ルミは虫の息のシャミを見て何とも言えない気持ちになりながらも、その目に涙を浮かべながらその場所を去る。




