97 本能
僕はシャミに言われた通りに家で傷口を洗い、その後少しして晩御飯を食べて気分が悪くなったのでお父さんとお母さんを置いて先に眠りについた。
苦しい、殺さないと、殺せ、消える、殺せ。
頭の中がうるさい。
僕はいつにもまして頭の中に強く訴えかけてくる声に負けないように意味はないが布団にくるまり耳をふさぎ耐える。
体中が疼く。
体から力を抜いたら……今にも隣の部屋にいるお父さんとお母さんを殺しに行ってしまいそう。
それほどまでに僕はなにかの危機感に襲われている。
多分僕はお父さんでもお母さんでも、別の村の人でも、誰かを殺さないと――死ぬ。
この声は僕の本能だ。
ダメだ、あらがえない。
暗い部屋の中、隣の部屋で和気藹々と話あうお父さんとお母さんがいる部屋へ続く扉に震える指をかける。
この扉を開けたら……僕は……終わってしまう。
終わってしまう。あらがえない。終わってしまう。終わってしまう。あらがわないと。我慢。ダメだ。ダメだ。ダメだ。耐えろ。死んじゃう。
ガタン!!
「何の音だ?」
「ルミ大丈夫? 返事がないわね、寝てるのかしら?」
「ルミ大丈夫か? ん……ルミ? お母さん、ルミがいない」
ラッカウが心配して開けた寝室は布団が散らばり、窓が開いて部屋に風が吹き込むだけだった。
トントン。
「珍しいね、夜にお客さんとは、はーい」
「こんばんはおばちゃん……」
「どうしたんだいルミちゃん? なにか私に用か……」
ドゴン!!
おばちゃんが僕に話しかけた時――すでに、おばちゃんは僕の拳によって顔面を砕かれ地面にめり込んで息を引き取っていた。
「ごめんな……さい」
僕は泣きながらおばちゃんから生きるために何かを吸い取った。
わざとこけた時の傷はすぐに治癒した。
「なんの音だ?」
音を聞いた隣の家のおじさんが窓を開けてこちらに目を向ける。
ダメだ……目が……合っちゃった……。
僕は窓を開けたおじさんに突っ込み、そのまま顔面をおばちゃん同様に叩き潰す。
おじさんは結婚してた。
「なんの音? あなた? いやぁぁぁぁ!!」
だから三人目は……しょうがない。
しょうがない。
おじさんもしょうがない、バレたんだから。
おばちゃんも……しょうがない。
家がちょうどいい距離にあったんだから。
だから――しょうがない。
次々と村の人たちがおじさんの家に集まってくる。
あと……何人?
「なんの騒ぎだ?」
「悲鳴が聞こえて……」
「おい隣の家のナタナさんが!!」
「これは酷い……」
「大丈夫ですかモーモルさん!! レベダリさん!!」
誰かがおじさんとおばさんの名前を叫んで扉を叩いてる。
僕は外から叩かれる扉を開ける。
「ルミ……くん? なんでここに……」
「ねえ!! ルミくんの手!! 血だらけよ!!」
「おい、中でルーペ夫妻が死んでるぞ!!」
みんな不思議なことに気がつき僕から離れていく。
そして、いつのまにか、みんなは僕を取り囲んで恐怖の目を向ける。
みんな知ってる人たち、みんな優しい、友達もいる。
村で戦える人が僕に武器を構えている。
「ルミそんなところで何してる!!」
「こっちに来るのよ!! そこは危ないわ!!」
お父さんとお母さんが僕を心配してくれてる。
ありがとう。
「スミョール夫妻、あれはあの子がやったことだ」
「ふざけたことを言うな!! あの子が人を殺せるように見えるか!! まだ五歳だ!!」
「あの子は人間じゃない!!」
「ふざけたことを言わないで!! あの子は私が産んだ子、人間よ!!」
「そうだ!! ルミは私たちの子だ!!」
そうだよお父さん、お母さん、僕は人間だよ。
「違う、あの子は――魔人だ」
違うよ……僕は魔人じゃないよ。
だってお父さんとお母さんの子供だよ?
なんで、僕が魔人なの?
お父さん、お母さん、泣かないでよ……。
それじゃ本当に僕が魔人みたいじゃないか……。
「今から魔人を討伐する!! あれはルミではない、魔人だ!! 躊躇でもしようものなら死ぬぞ!!」
僕が魔人? 違うよ……間違ってるよ……みんな。
いつもみんな僕と遊んでくれたじゃん。
なんでみんな僕を殺そうとしてるの?
「おばちゃん!! おばちゃん!! あぁぁぁぁぁぁ!!」
あ、シャミ……なんで、おばちゃんのそばで泣いてるの?
おばちゃんとシャミは仲良かったっけ……。
あぁ……僕がやったんだ……。
おかしいな、おかしいな、あんなに殺したかったのに、もうそんな考えが頭の中から消えてる。
本能に勝ったんだ……。
「みんな、僕は魔人じゃないよ。だって誰も殺したくないんだから」
「なにを言ってるんだ!!」
伝わってない?
「だから僕は魔人じゃ……」
村で戦える人たちは僕が話そうとした時、同時に四方から襲いかかってきた。
「話を……」
僕はそう言いながら必死に振るわれる剣を交わす。
剣は無慈悲にも僕の体に傷をつける。
傷ができると同時に僕の中の何かがすり減っていく。
だから殺さないと。
でも、こんな複数人相手、絶対に勝てない。
今なら、僕の役に立たない魔術だって、もっと良く使える気がする。
「『赤い雪』」
そう言うと僕の思った通りに周囲に赤い雪が降る。
「なんだ? 赤い……雪?」
「気をつけろ、ルミの魔術だ」
「だけど、少しだけ熱を持った雪だろ?」
「ルミは人間じゃないんだぞ!! 油断、するな!! 戦える者以外はこの雪の範囲から出ろ!!」
「雪の範囲から出ろって、村全体がこの赤い雪に覆われてるぞ!!」
もっと熱を、雪の熱を上げる、僕にはできる。
「『もっと熱く』」
「あっち!! なんだこの雪!!」
赤い雪は今までになかったほどに熱を持ちだす。
それは服を貫通して肌に熱を伝え、条件反射で手が動くほどに。
そしてその雪は必然的に――。
「『燃えろ』」
「がぁぁぁぁ」
「この雪に触れるな!! 燃やされるぞ!!」
「熱い!! 熱い!!」
「だれか水関係の魔法を!!」
「『サーデリギニング』」
「おい!! シャミのところとスミョール夫妻のところだけ雪が降ってないぞ!!」
僕が作った赤い雪が燃えたことで、僕に剣を向ける何人かは燃えて、さらに数人、僕への注意が逸れた。
今なら逃げれる。
「早く殺せ!! おい!!」
「無理だ!! こっちは魔力障壁でこの赤い雪を防ぐので手一杯だ!!」
「逃げるぞ!! 追えるやつは追え!!」
振り返ると二、三人が僕のことを追って来ていた。
僕の大好きな村は僕の特別な魔法で燃えていた。
「待てルミ!!」
「ルミ!!」
村から逃げて森に入るとき、微かにお父さんとお母さんが僕を呼ぶ声が聞こえた。
森の中で追ってきた人を燃やして殺した。
だって、追ってきたから、僕の中の何かが減っていたから。
だって、しょうがない……僕は……魔人だから。




