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「すいません、そのお肉何円ですか?」
「この肉は400円だよ、こっちはどうだい? 今朝とれた羊の肉だ! いつもは800円だが今日は特別に500円だ!」
「うーん、買います!」
「まいど!」
「お母さんあっちのお店行ってみよ!」
「はいはいわかりましたよー」
「特別に今日は安くするよ!」
「あそこのお店美味しいらしいよ」
「あの噂きいたか?」
と色々な声が聞こえてくるのは、どこかの市場。
今いる市場は、現代のこの世界かもしれないし、現代のもしもの世界かもしれないし、そもそも世界の常識さえ違う世界かもしれない。
(そういえば今日はお祭りだったけ? いや〜それにしてもお肉買っちゃった〜、美味しそうだったら買っちゃうよね〜、夜楽しみ〜)
そんなことを考え一人ニヤニヤしながら家に帰ろうと市場の大通りから外れ路地に入ると壁に不自然に設置された扉に看板で本屋と最低限の情報を書いてあるいつも通る道に見覚えのない不思議? 雑な本屋を見つける。
(そういえばこんなところに本屋なんかあったっけ? なんか壁に無理矢理置いたみたいな扉、これ、中どうなってるんだろ?)
人間はその本屋に興味をそそられ入ってみることにする。
「すみませ〜ん」
人間はそーと扉を開ける。
人間が気になり入った本屋は独特な雰囲気を漂わせる内装の本屋だった。
中は外観からすると広いが普通に建物としては狭い。
(にしても変な本屋だな〜、表紙が見えるように本棚に本が置かれてるよ、しかも一冊ずつ全部の本が……これ全部一品限りの貴重な本だったりするのかな? 見た感じ客もいないし、店の人だって見えない)
「すみませーん誰かいますかー?」
と呼びかけてみても本屋の中には自分の声の反響以外は帰ってこない。
もう一度いるかもわからない人に呼びかけようとしたとき。
『なんじゃ……? 誰か来ておるのか……?』
眠そうな声からして幼い返事が返ってき、カウンターの奥の扉から髪も目も服も全て真っ白な幼女が眠そうに目を擦り足を引き摺りながら出てくる。
(なにこの真っ白な子!? かわいい……ってあの外観でこの奥にも部屋があるの? どうなってるのこの本屋……)
そのあまりにも白く美しくかわいい少女に一目目を奪われるが、その次の瞬間には純粋にこの本屋の構造に疑問がいく。
「すみません、ここのお店の人知らない?」
『私がこの店の店主ですけど』
(ん? この子が店主っていった? 店員でもなくて店主? ん?)
「ここのお店の人知らない?」
『私がこの店の店主だ!!』
聞き間違いではなく、本当に店主だったらしい。
何か事情があるのだろうか、そもそも、この子はこの見た目で大人なのだろうか。
「ごめんなさい、失礼なことを聞いてしまいました」
『別に良いぞ、ですよ』
そう言いながら店主と名乗る少女はカウンターに立つ。
(カウンターの奥から眠そうに出てきたから今日は休みだったのかな? でも店の扉は開いてたしやってたのかな?)
「今日お店お休みでしたか?」
『いや、やっておるぞ、じゃなくて、やってますよ』
(なんか今変な語尾が、いやさっきから変だったか)
「これ、なんでぜんぶ表紙が見えるように本棚に置いてるんですか?」
『本が少ないから多く見せようとしてるんです』
(へ〜、そんな理由なんだ、まぁ、少なくはみえないか、っていや全然すっからかんに見えるけど!?)
とあたりを見渡していると本棚とは別にカウンターの奥に三冊の本が飾られているのに目がいく。
「そこのカウンターにある三冊の本は本棚に置いてないってことは売ってないんですか?」
と三冊の本に指を差して言う。
『そうです、この本は売ってないんです、これはワタシが趣味で書いた本で売るようなものではなくて……』
「少しだけ見せてくれたりしません?」
と軽い気持ちで聞いてみると店主を名乗る少女はうーんと少しだけ考える。
(あんまり見られたくないやつだったかな?)
『ワタシも久々に読みたいので、一緒に読みましょ!』
(え? なんで? いっしょに見るの? これまあまあ分厚いよ? 早く帰ってご飯食べたいんだけど……まぁいいか)
「じゃ、じゃあ、一緒に読みますか」
『えーとじゃあこれにしようかな』
と少女は三冊のうち一冊を手に取って人間の手に渡すとカウンターの中に呼び込んで椅子に座らせる。
(タイトルは? あれ? どこにも書いてない、本の表紙にも背にも)
『『輪廻伝記』ですよ』
「え?」
人間はあなた自身です。




