止まった彼と巡る季節
彼は死んだ
どうやら彼は温もりを保ったまま死ぬまで重く閉じた瞼を開けることはないらしい。
彼の母が投薬が始まったら渡すようにと彼から頼まれて私に手紙を渡してきた。
その手紙には
「寒がりのあなたのこと、どうぞお体には気をつけてください。…」
手紙には丸く伸びやかな字で文章だと変にかたくなる癖、そこには彼が冬に巻いてくれたマフラーから感じた温もりすら感じられた。中身は過剰なほどに普通でたわいの無い内容で埋められていて、この手紙を終わらせたくないという苦しさまで感じるほどだ。
彼と話しているようであっという間に読み終えてしまった手紙の最後
「今年は冷たくなった君をあたためてあげることはできない。ただ、そうなんだ。それがとても悲しくて
仕方がない。」
涙と嗚咽では吐き出し切れない悲しみは元から止まらずさらにとめどなく溢れていく。
彼が手紙を書いた日のあなたの横の窓から見える青々と生い茂っていた木々たちは医師から告げられた余命とともに残酷に現実を伝えていたのではと眠るように二度と目を覚さないあなたと奥の飛び出し防止の柵がついた窓の外の景色を見て思った。
彼が死んだ
棺桶に入ったあなたの顔は、ベットで寝ていたときとは違い、石膏像のように冷たく美しかった。
木々は枯れてはまたあの日のように青々と生い茂っていくのだろう、彼の温もりは決して戻ってこないというのに。
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ろぼつかより