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ミントブルーの純情  作者: 洋梨
第1章 チャコールグレイの不安
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1

朝の群青家はいつも慌ただしい。


「ちょっと! みつ、洗面使ってないで早くどいて!」

「はあ? うるせえ。こっちは忙しいんだよ」

「アンタはオトコでしょー?! わたしはオンナノコ! 寝癖直さなきゃ学校いけない!」

「寝癖なんか直さなくても変わんねーからそのままいけよ」


 必死に手櫛で髪を整えながら、堂々と洗面の前に立ちはだかるみつのことをこれでもかと睨みつける。けれど毎朝、この私の威嚇はなんの役にも立たない。


「コラ、みつ!あおちゃんのこといじめないの!」


 私たちの言い合いが聞こえたのか、キッチンから牛乳片手にやってきたお母さんが、パシッと一発みつの頭を叩いた。

 私がそれにクスッとわらうと、みつがうざったそうに私を睨む。お母さんは呆れて肩をすくめるし、後ろからお父さんまでやってきて、「ほんとに、高校生にもなって仲がいいんだか悪いんだか」なーんてため息をこぼす始末。

 私はそんな3人を洗面所の外へ追いやってやる。年頃の娘が毎朝髪型を気にするなんて当たり前。

 扉に向かって舌を出すと、それに気づいたみつがまた睨みをきかせてくる。なんて生意気な弟だ、ばあか!

 朝から心の中で「ばあか」なんて言ってしまったことに少々罪悪感を覚えつつ、みつのことは放っておいて、鏡の前ですばやく髪の毛をセットする。

 ストレートアイロンとコテの二本使い。高校生になったときから私の髪型はずっと変わらない、肩下ボブだ。コテでくるっと内巻きにして、前髪は眉より少し下、アイロンで整えるとちょうどいい。


「おい、あお。そんな色気付いてると遅刻すんぞ」


 今日の髪型の出来に自分で満足していたら、また後ろからみつが顔を出す。最後に軽くヘアオイルをつけたら完成だ。鏡に映ったみつの顔はやっぱり不機嫌そう。


「はいはい、私のお弁当持ってよねー」

「はあ? 自分で持てよそれくらい」

「なんでよー、みつは私の荷物持ちじゃん」

「悲しいもんだよな、華のセブンティーンにもなって荷物持ちになってくれる彼氏もいねえとか」

「うるっさいなー、そっちこそ彼女いないでしょ。お互い様」

「俺は作らないだけ。作れないあおとは違うっつの」


 鏡越しにみつを睨むと、してやったりな顔をして洗面所を去っていく。確かに、そう言われたら何も言い返せないんだけれど。

 もう、なんであんなに生意気なんだろう? 小さい頃は「あお」って無邪気な笑顔で私の名前を呼んで、いつも後ろに引っ付いていたっていうのに。


 みつは生意気だけれど、意外とかわいいところもある。

 全部支度を終えて急いで玄関を出ると、「おせーよ馬鹿」ってみつが私のカバンを持って待っている。もちろんお母さんが作ったお弁当もしっかり詰めて。これは毎朝恒例。みつって本当に素直じゃないなって思う。


「はいはい、ごめんねって」

「何笑ってんの」

「いやあ、毎日律儀に待っててくれるなあと思って」

「……当たり前だろ。俺がお前の荷物持ちなんだから」


 みつってこういう弟。

 隣を歩くみつをこっそり見ると、まっすぐ伸びた背中と端正な横顔が、我が弟ながら本当にカッコいい。

 小さい頃はあんなにかわいかったのに、いつの間にこんなに大きくなっちゃったんだろう。

 お義母さんとみつが元々住んでいたアパートへお父さんとふたりで訪れたとき、私は初めてみつと出会った。弟ができるんだって嬉しい反面、知らない誰かが家族になることに多少の不安はあったものだ。

 それに追い討ちをかけるように、みつってばお父さんを見るなり部屋にかけこんで大泣きするものだから、私は余計焦ったんだよね。

 あの時は、ひとつ年下とはいえ私よりも小さかったみつが、今はうんと高いところから私を見下ろしている。もう慣れてしまったけれど、みつに背を抜かれた時はビックリして信じられなかったなあ。

 私が165センチ。女子の中でも高いほうだっていうのに、みつは今178センチ。たぶんもっと伸びるんじゃないかな。いつも牛乳飲んでるし。

 そんなみつは、背が高いだけじゃなくて身体のバランスもいい。手足が長くて細身の色白。おまけに顔も相当に整っている。

 姉という贔屓目があるにしても、確かにみつはカッコいいと思う。

 それに、中学のころまで中の中だった成績を受験期に一気にあげて、私と同じ高校に進学しちゃうんだもん、みつって本当に隙が無い。

 ほんと、どうして彼女がいないのかって、みつに対する疑問と同情はそこだけだ。(ちなみに私が知る限りみつが彼女を作ったことはない)(さらに言うと私は元カレが1人。みつに自慢できるのはこれだけ)

 よく友達やみつの取り巻きに「みつくんと一緒に住んでるなんてうらやましい!」と言われるけれど、何が羨ましいのか私にはさっぱりだ。






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