目にも鮮やかな、一枚の…パンツ。
……パンツが、落ちている。
道のど真ん中に、パンツが落ちている。
ごく普通のアスファルトの上に、パンツが落ちている。
やけに艶めかしい、サーモンピンクの、サテン地の、レースとリボンがあしらわれた、御婦人向けの……パンツ。
アスファルトの上に、ふさわしくない物体だ。
のどかな町並みに、溶け込めない物体だ。
おそらく…使い古されている、やや色のあせたパンツ。
……なぜこんなところに?
どうして……こんな場所に?
明らかに場違いな空気を漂わせている。
明らかに見てはいけないオーラが漂っている。
明らかに目立ち過ぎている。
……なぜ、こんなところに。
視線を向けずにはいられない。
見つめずにはいられない。
色々と考えてしまわざるを得ない。
誰かが…落とした?
こんなところで、こんな見やすい形に。
誰かが…わざと置いた?
動画でも撮っているのだろうか。
…あたりに人影はない。
どこかから飛んできた?
疑わしいマンションが…1棟、2棟。
この近辺に、こんなに派手なパンツを履くものがいるというのか。
この近辺に、己のパンツをさらしていることに気が付かない人がいるというのか。
このパンツは…通学団の小学生たちも見たのだろうか?
このパンツは…登校する中学生たちも見たのだろうか?
このパンツは…自転車で走り抜ける高校生たちも見たのだろうか?
このパンツは…駅に向かうサラリーマンたちも見たのだろうか?
このド派手なパンツを見て、全員…スルーしたのだろうか?
パンツは、ただただ…落ち続けている。
このパンツを、一体どうするべきだろうか?
誰のものか分からないパンツに触れるのは、勇気が必要だ。
完全に目の毒となっているのに放置するのは、気が引ける。
どうにかするべきだろうが、私には…どうすることもできない。
……パンツの横を通りすぎることしか、できない。
私はいつものように、自販機の横を曲がり。
親の住むマンションのエレベーターに…、乗り込んだのだった。