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罪には罰を  作者: 原滝飛沫
4章
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第71話 君達には勿体ない


 そこから先も嫌がらせは続いた。


 事故に見せかけた攻撃。同じやり方を繰り返すと怪しまれると思ったのか、やり口は存外に多種多様だ。バスケは体全体で行うスポーツ。手法なんて数多ある。


 足、肘、背中。明らかなファールが混じってイエローカードが上げられた。


 一回だけなら退場にはならない。加減した辺り、試合に勝つ気自体はあるらしい。点数差があってもまくれると踏んでいるのだろう。舐められたものだ。


「まだやるの? 怪我した振りして途中退場した方がいいんじゃない?」

「よくやるよなお前も。俺がキレて音声暴露するとか思わないのか?」

「お人好しの君にそれできないでしょ?」

「随分買いかぶられたもんだな。そんなことしたって、奈霧はお前達なんて相手にしないぞ?」

「こっちだって、あんな女相手にする気ないっつーの。こっちの目的はあくまでお前に恥をかかせることさ。君がずったんばったんしたせいで結構失点したし、彼女さんに幻滅されないといいねぇ」


 ニヤついた笑みが視界を濁す。


 風間さんは卑劣にして下劣だけど、やり口としては間違っていない。栄えある決勝戦でずっこけまくる男子なんて、女子からすればドン引きものだろう。


 球技大会前の俺なら、今頃奈霧の目が気になって試合どころじゃなかったはずだ。負傷した振りをして保健室に逃げていたかもしれない。


 可笑しさが込み上げて吹き出す。


「今なんか可笑しなことあった?」

「いや、見損なわれたもんだと思ってな」

「見損なう要素しかないっしょお前なんて」

「俺じゃない、奈霧のことさ。やっぱり公開告白して正解だったよ。あんな良い女、君達には勿体ない」


 風間さんの眉根が寄る。

 俺は足を前に出した。ボールをキャッチしてゴールへと走る。


「どうやらまーた痛い目に遭いたいようだねぇ」


 別のバスケ部員が視界に飛び込む。口元には、風間さんの表情に似たニヤ付きがある。


 いっそ清々《すがすが》しいくらいにやる気満々だ。足を開き気味にした体勢からして、今度は膝で来るだろうか。


「風通し良さそうだな」


 俺は足を止めてボールを押し出す。股下でバウンドして背中側に抜けた。


「ナイス市ヶ谷!」


 頼りがいのある仲間がボールを拾い上げた。


「やべえ芳樹だ! 下がれ!」

「これ以上点をやるな!」

 

 相手チームが慌てて下がる。


 その努力もむなしく、芳樹がボールを手に跳んだ。ボールが放物線を描いてゴールネットを揺らす。


 風間さん達の目的は俺への嫌がらせ。その終着点は、俺がミスを連発したせいで負けたという事実を作ることだ。


 その手法は、物理的接触を繰り返すことと非常に相性が悪い。


 俺をいたぶるにも周りの目がある。レッドカードを食らわないためには、仕方ない接触だったと誤認させるシチュエーションが要る。


 そんな状況、狙っても中々作り出せない。場の調整には時間が掛かる。


 それは勝ちの目を削る行為に等しい。


 嫌がらせに時間を注ぐほど、得点稼ぎに使える時間は短くなる。立ち位置は常に俺依存。芳樹を止められずに点差が開き、逆転に必要な時間も肥大する。


「君が言うように無様を晒したけどさ、俺としては終わり良ければ全て良しなんだ。ありがとう、俺に夢中になってくれて。おかげで奈霧に白星をプレゼントできそうだ」


 舌を打つ音が鳴り響く。


「お前ら! こっからは全力だ! いいな!?」


 二つの首が縦に揺れる。


 今さらやる気になっても遅い。俺はチームメイトに耳打ちして下がり気味でパスを回す。相手選手の立ち位置に気を付けつつ、安全を確保している時はたっぷりと時間を使う。


 もちろんボールは取られた。シュートも入れられた。


 それで良い。逃げ切れるだけの点数差は芳樹が作ってくれた。時間を稼げば俺達の勝ちだ。


「ずるいぞお前ら! 正々堂々戦いやがれ!」

「その言葉そっくり返してやる。それより良いのか? 俺なんかに意識を割いて。君達じゃ二人掛かりじゃないと芳樹を止められないのにさ。ほら、芳樹が走るぞ」


 俺は視線を振る。


 これ以上点差が開くと、いよいよ本格的に間に合わない。俺達のチームで一番厄介なのは芳樹だ。同じ部に所属する彼らは、その脅威を俺よりも思い知っている。


 風間さんが横目を振るのは必然だった。俺は風間さんの背後に抜けてゴールへと走る。


「芳樹!」

「任せろ!」


 たくましい腕が引かれる。野球ボールを投げるフォームでバスケットボールが投げ放たれた。


 そのボールをキャッチしてドリブルに移行。相手のゴールに肉薄する。


「行け! 釉くーんッ!」


 聞き覚えのある声を聞いて口角を上げる。散々格好悪いところを見せたし、最後くらいは格好付けても罰は当たらないだろう。

 

 助走のままに床を蹴る。


「おおおオオオオオオッ!」


 ゴールリングにボールを叩き付ける。


 ブザーが鳴り響いて、俺達は歓喜の声を上げた。



お読みいただきありがとうございました。


次は22時辺りに投稿します。

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