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罪には罰を  作者: 原滝飛沫
6章
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第180話 ファッションショー見学


 後日華乃井さん達と服飾専門学校の校舎に足を運んだ。


 ショーで披露されるのは学生が手掛けた衣装だ。ランウェイは設けられている一方で、モデルや運営などは全て生徒が担当するらしい。


 学園祭のような賑わいを突っ切って会場に踏み入った。ずらりと並ぶチェアに腰掛けて周囲の談笑に混じる。


 時刻になって会場が薄暗さを帯びた。関係者のあいさつを経てT字の花道がライトアップされる。


 イメージ映像を映すスクリーンとミュージックをバックに、モデルを務める生徒がランウェイを踏み鳴らす。


 そでを透けさせたスーツ。


 色とりどりなステッカーを張りめぐらせたドレス。


 円を描いたさくがスカートの縁を彩るゴシックロリータ。どこかしら奇抜な衣服の数々がランウェイの上を飾る。

 

 モデルの表情は真顔。格好良く決まってはいるものの、衣服がアグレッシブでファンキーだからどことなくシュールだ。中には水色のペンキを塗りたくった作業着もあった。


 水玉模様の衣服をよく見る。


 今回のモチーフは梅雨なのだろう。吸い切れていないペンキがポタポタとランウェイに水玉模様を付加する。


 こんな服飾もあるんだなぁ。


 そう思っていたら男子二人がランウェイにおどり出た。ペンキしたたる男を拘束して部屋の外に消える。


 作業着男はエントリーしていない生徒だったらしい。祭の熱に浮かれて、学生ならではのノリがそうさせたのだろうか。


 奈霧いわく、プロ集うファッションショーでも乱入の事例があるらしい。雨具を着込んだその男性は、関係者に連行されるまで真ランウェイの床を踏み鳴らしたという。観客は他のモデルを見るように見入っていたのだとか。


 ファッションショーで披露される衣服はアバンギャルドな様相で有名だけど、ただの雨具が短時間とはいえ素通りされたのは何ともはやだ。


 授賞式を経てカフェに足を運んだ。


 看板娘や店員、おそらくはカフェの運営も学生が行っているのだろう。オリジナルの燕尾服やメイド服を身にまとった男女が店内の床を踏み鳴らす。


 口調もそれっぽく飾る徹底具合。今日という日に向けた意気込みがうかがえる。


 俺は連れと同じテーブルを囲んでメニューブックを開く。


「観客女性ばかりだったな」

「男性で服飾に興味を示す方は少ないですからね。市ヶ谷さんは見ていてどうでした?」

「面白かったかと問われると難しいな」

「ただランウェイを歩くだけだからね」

「奈霧は楽しくなかったのか?」

「衣装になされていた工夫を見るのは楽しかったよ。でも造詣ぞうけいのある人じゃないとそういうの分からないし、大半の人はウォーキングを眺めるだけでしょ? エンタメとしては物足りないよね」

「エンタメと言えば、どうしてファッションショーの服はいつも奇抜なんだ?」

「しいて言うなら、今日(ゆう)くんが見て思ったことが全てだと思うな」

「もったいぶるなぁ」

 

 おどけたような笑みを前に苦笑する。


 披露された衣装はいずれも常用に向かないものばかり。街を出歩けば否応なしに視線を集める。


 だったら理由はそこにある。


「新商品を売り出すための宣伝ってところか」


 普段使いができなくとも話のネタにはなる。現に俺達が今そうしている。


 話のネタになれば宣伝になる。いわば口コミだ。SNSが主流となっても口コミの効果はあなどれない。


「そうだね。服の宣伝はもちろんあるけど、ブランドが方向性を示す意味でも大切な場なの。次からこんなスタイルで行きますって感じで」

「普通の衣服だと印象が薄くなっちゃいますからね。ランウェイを歩ける時間はすごく短いですし、強烈なインパクトを残せないと忘れられちゃうんです」

 

 その理屈はよく分かる。


 ファッションショーを眺めていた時は色々思った一方で、じゃあどの服が一番だった? と問われると真っ先に浮かぶのはペンキポタポタ作業着だ。


 一回のランウェイウォークは長くても一分。その間にライバルよりも観客の記憶に残らなければならない。

 

 それを成すにはとがった特徴が欠かせない。考えてみれば道理だ。


 霞さんと白鷺さんが席を立つ。


 お花を摘みに行った二つの背中を見送って、俺は奈霧と華乃井さんの服飾談議に耳を傾ける。


「おい割り込むすんなよ!」


 廊下の方から怒鳴り声が響き渡った。

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