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罪には罰を  作者: 原滝飛沫
6章
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第176話 娘をよろしく


 奈霧の誤解を解いて、当初の予定通りにマンション内を案内した。


 感触は良好。奈霧の満足気な表情は引っ越しを期待させるに足るものだった。 セキュリティ以外の設備も充実している。勲さんも首を縦に振ってくれるだろう。


 娘をよろしく。


 そんなチャットをもらって迎えた次の土曜日に、奈霧が隣の部屋に越してきた。


 俺は霞さんと白鷺さんを連れて奈霧の部屋にお邪魔した。引っ越し業者を見送って家具の配置に手を貸した。


 作業が終わった頃にはお昼時をむかえていた。


 マンション内のカフェに足を運んで三人ど同じテーブルを囲んだ。霞さんは華乃井さんにも声をかけたみたいだけど、やんわりとお断りされたらしい。


 男性の俺が原因なのは言うまでもない。


 でもこの前は面と向かって言葉を交わせた。自然に談笑する日もそう遠くないだろう。


 食事を終えて、霞さんと白鷺さんはそれぞれの部屋に戻った。

 

 俺は奈霧を部屋に招いた。リビングのテーブル越しに向かい合って互いに問題集とノートを開く。


 近くの部屋に住まう友人や恋人と勉強会をする。密かに憧れていたシチュエーションだ。


 黙々とノートの上でシャーペンの先端を走らせる。


 気付けば窓の向こう側が茜色を帯びていた。勉強道具を片づけて奈霧と夕食の準備に取りかかる。


 電子音が室内を駆けめぐった。まな板の上で包丁を握る奈霧をしり目に玄関へと足を運ぶ。


 霞さんと白鷺さんから差し入れを受け取ってダイニングキッチンに戻った。俺と奈霧が料理する間に、一年生組には食器を並べてもらった。


 各々パスタを前にしてダイニングテーブルをはさんだ。いただきますを口にしてフォークに腕を伸ばす。


 三又の先端で麺を巻き取って、一口サイズのそれを口に運ぶ。


 アルデンテ。程よい食感が歯を通して伝わる。あさりとトマトのさっぱりしたうま味で舌がうなりを上げる。


 パスタやスープの感想をさかなにお茶で喉を鳴らした。口内をクリアにして口を開く。


「俺、生徒会長を目指そうと思うんだ」


 三人の視線が集まった。


「いいんじゃない?」

「軽いな。生徒会長だぞ? もう少し驚いてもいいんじゃないか」

「多少は驚いたよ。でも釉くんは何度か人をまとめてきたでしょ? その経験を活かせばいい感じに運営できると思うな」

「体育祭でも応援団をまとめ上げてましたね」

「かっこよかったよね! お姉様も男装して踊ってる姿かっこよかったです。また見たいなぁ」

 

 霞さんの要望を前にして奈霧が苦々しく笑う。


 その時の写真が一部女子の間で出回っていることは内緒だ。


「推薦人は決めたの?」

「まだだ。この話をしたのは今日が初めてだからな」

「じゃあ私が推薦人やってあげるよ」

「いいのか? 奈霧はこれから勉強忙しくなるのに」


 受験勉強に絞ればいい俺と違って、奈霧は多角的な勉強をする必要がある。


 留学先の言語やリスニング、最低限のマナーに受験勉強。並行して服飾の勉強も進めなければならない。負担は他の同級生の比じゃないだろう。


「確かに忙しくはなるけど推薦人くらいは務められるよ。釉くんには色々と助けられたし、私も釉くんの役に立ちたいの。だめかな?」


 駄目なものか。むしろこっちからお願いしたいくらいだ。


 奈霧は学年問わず多くの生徒に好かれている。推薦人をやってくれるならこれ以上の人材はいない。


 視界で細い腕が上がる。


「私も! ユウに協力してあげる!」

「と言っても、一年の私達にできることは何もないと思いますけどね」

「どうして?」

「すでに知れ渡ってるからですよ。愛故に、でしたっけ」

「それは女子生徒だ。間違えるな」

「愛遊絵仁さんで騙されるのは郊外の人だけですよ。部活の上下つながりがありますから、同級生の大半は文化祭での公開告白を知っています」

「それはまたおしゃべりなことで」


 俺の愉快な友人達は、人が本気で嫌がるようなことはしない。広めたのは俺と交流のない同学年だろう。


 もう終わったことだから犯人の特定はしないけど。


「一年生にも広く知られているのは有利ですよ。奈霧さんが手掛けるなら問題はないでしょうし、公約や演説を突き詰めれば当選は間違いないでしょうね」

「そこまで断言されるとプレッシャーになるな」

「それだけ優位ってことです。選挙カーやCMと同じですよ。知らしめること行為には大金をはたく価値があります。事前にクリアできているのは大きいです」

「それはあるかもな」


 当然校内には俺のアンチもいる。


 球技大会で嫌がらせをしてきた三人だけじゃない。注目を浴びた俺を疎む人は多いし、奈霧にも同じことが言える。


 それでも母数は三桁だ。票数には期待できる。


「分かった。選挙は十二月だから気は早いけど、推薦人を選ぶ時は話を聞いてもらうよ。忙しかったら遠慮なく断ってくれていいからな?」

「大丈夫だよ。忙しくても時間は作るから」


 奈霧が微笑む。


 応援してくれるその姿勢が心底嬉しい。

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