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罪には罰を  作者: 原滝飛沫
6章
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第168話 霞さんと女子グループ


 お土産を購入して水族館を後にした。


 霞さんとは途中で分かれた。


 俺達は彼女のずる休みを許可した訳じゃない。追い返すだけじゃ霞さんが可哀想だから、ひと時をともにしようと思っただけだ。


 どのみち明日からまたグループ行動だ。霞さんと肩を並べて歩くことはできない。きっちりと言い聞かせて、霞さんには一足先に東京へ戻ることを承諾させた。


 金瀬さん達と合流して、予定された宿泊先に足を運んだ。


 金瀬さんは微かにむくれていた。彼女は出発前の教室で、俺とのデートを所望していた。一度は皆と巡ると主張した奈霧がデートを実行したんだ。釈然としないのは無理もない。事情が事情だけに、奈霧も苦々しい笑みで愚痴を受け止めていた。


 自動ドアの隙間に靴先を入れて、奥行きのあるエントランスに靴音を響かせる。他のグループの到着を待つ間、アセロラジュースを口に含んで談笑する。レモンの約三十倍のビタミンCを含むアセロラ。甘酸っぱさが疲れた体にしみ渡る。


 全員集まって整列する。


 三度目になる入館式。ここまで来るともはや作業だ。ホテルマンとの顔合わせを済ませて、俺達に用意された部屋へと歩みを進める。


 廊下の床を踏み鳴らす内に、落書きが目に入って立ち止まる。


 白いボードに、蛍光色や赤色の線が無秩序に書き殴られている。俺でも知っている日本の人気キャラクターが面白可笑しく表現されている。


 旅行客が自由に来た証を残せるスペースらしい。例に倣って、俺達も空いているスペースに宿泊した証を残した。


 廊下と室内を隔てるドアを開けると、白をベースとした爽やかな内装が広がった。木材の色を組み合わせた色合いには温かみが感じられる。

 

 ベッドは二段ベッドが二台。ルームメイトとじゃんけんをして、見事上段のベッドを勝ち取った。


 入館式後に受け取ったノートパソコンを開く。


 五日目には発表会が行われる。各コースごとに、旅行中に得たものを発表し合うプログラムだ。出来が良かったコースは、お勧めの旅行プランとして公式サイトに載せるらしい。

 

 俺はルームメイトの三人と言葉を交わして、簡単に発表案をまとめる。海づくしコースの集合時間が近付いてソファーから腰を上げた。全員が集まると収拾が付かない。俺は代表者として部屋を後にする。


 廊下を曲がった先で、金色の髪を見た。周りには奈霧や金瀬さん達もいる。


 霞さんが俺に気付いて口角を上げる。


「ユウ、また会ったね!」

「何でいるの?」

 

 思わず問い掛けが口を突いた。


 時間を経て、漂白された頭に思考能力が戻る。


 俺と奈霧が言い聞かせたんだ。霞さんが軽い気持ちで約束を破るとは思えない。


 東京へ帰るには飛行機のチケットを取る必要がある。沖縄での一泊は避けられない。


 霞さんの目的は、俺や奈霧と修学旅行を体験することにある。俺達と同じホテルに宿泊する点は譲れなかったらしい。


 それにしたって、俺と奈霧が霞さんの存在を隠そうとした努力は無駄にしてほしくなかったけど。


 金瀬さんがパッと表情を輝かせる。


「市ヶ谷さん! 霞ちゃん来てたんだね!」

「ああ。お昼時に俺と奈霧がグループを抜けただろう? あれは霞さんを隠すためだったんだ」

「そうなの? おかしいと思ってたんだよねー。有紀羽がわたし達を放ってデートするなんて」

「あれ、ナナさっきまでむすっとしてなかったっけ?」


 いつの間にか奈霧も金瀬さんを相性で呼んでいる。


 井ノ原さんは奈霧を名前呼びしていた。別に驚きはしない。


 むしろ驚くべきは、金瀬さんが霞さんを後ろからハグしていることだ。霞さんのあどけない表情には少なからず緊張が見られるものの、明確な拒絶まではしていない。


 霞さんは他者に警戒心を向けていた。


 一悶着ひともんちゃくある前だったら、裏表のない金瀬さんにも体に触れさせなかったはずだ。


 奈霧との一件で、霞さんの価値観にも変化があったのだろうか。


「集まるのは班長と副班長だよな? どうして金瀬さんと井ノ原さんがここにいるんだ?」

「ここで霞さんと会ったからだよ」

「ずっとここで話していたと」

「うん。お洒落の話で盛り上がってた」

 

 服飾とコスメ。


 方向性は違えど同じお洒落のカテゴリーだ。意気投合してお洒落談議に花を咲かせていたということか。


 井ノ原さんが浮くことを危惧するものの、当人は朗らかに笑っている。


 他の三人と比べて専門的知識に欠けるだろうに、相づちと感嘆を使い分けて場を盛り上げている。あのマッチョな父親からコミュニケーションの術でも授けられたのだろうか。


 つまりこれが、筋肉の力。


 旅行のテンションで変なことを考えた。スマートフォンの画面にそっと視線を落とす。


「奈霧、先に行ってようか?」

「ううん、私も行くよ」


 奈霧が会話の輪から抜けて俺と肩を並べる。


 あらためて集会の場へと足を進める。


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