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罪には罰を  作者: 原滝飛沫
5章
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第146話 才覇との対面


 花宮先輩とは請希高校の校舎前で落ち合った。花宮先輩の案内を受けて土曜日の地面を踏み鳴らす。


「花宮って伏倉家の分家だったんですね」

「うん、私も知ったのは最近だけどね」

「両親から聞かされてなかったんですか?」

「うん。多分言う機会がなかったんだろうね。何の脈絡もなく名家の子女ですって言われても『は?』ってなるし。実際私困ったし」

「自分の家が名家と聞いたら普通嬉しいんじゃですか?」

「市ヶ谷さんは嬉しかったの?」

「俺は……」

 

 喜んだっけ? 身に覚えがない。


 俺が自身のルーツを知ったのは、父にアメリカの屋敷まで連行された時だ。それまでは父も母も一般家庭出身だと思い込んでいた。


 騒動を経てからも自分を御曹司と思ったことは一度もない。ブラックカードを受け取り拒否したし、代わりに差し出された七桁のお小遣いも断った。伏倉の長男が得るべき恩恵とは無縁な生活を送っている。


「名声はともかく、知らない家族がいたのは少し嬉しかったですね」

「そういうものなんだ。じゃ私と従兄妹だと知って嬉しかった?」

「それは、はい」

「こら、何で嬉しくなさそうなんだよ」


 花宮先輩の腕が伸びた。


 たわむれの攻撃を腕でブロックする。これから才覇さんの前に出るんだ。乱れた髪を見せようものなら鼻で笑われかねない。

  

 もみくちゃにされまいと努力していると前方に大きな建物が映った。庭にあるプールがいかにもリッチだけど想像していたよりは遥かに小さい。


 ちょっと意外だ。才覇さんなら見栄を張って豪邸をこさえると思っていた。何ならタワーマンションの最上階で高笑いするイメージがある。


「どうしたの? 行くよ」


 先輩の背中を追い掛けて玄関に歩み寄る。ドアロックの解除音に遅れてドアが開き、俺に玄関内部の光景を覗かせる。


「お邪魔します」

「ほーい」


 勧められたスリッパに足を差し入れて、履き物の裏で廊下の床を踏みしめる。


「何の用かは聞かないけどさ、私の父は結構気難しいよ? よその人には」

「倒置法で強調するほどですか」

「一度見た時のインパクトが忘れられなくてね。私達と会う時は優しい父親だから、しばらくは目にしたものを信じられなかったなぁ」


 外面は暴力的で、家族にだけは優しい。


 まるでマフィアのファミリーみたいだ。才覇さんに会うのが怖くなってきた。


「ここがリビングだよ」

 

 ドアの向こう側に才覇さんがいる。意識して意図せず息を呑む。


 花宮先輩がドアノブに腕を伸ばした。軽快な音に遅れてリビングの光景が露わになる。


 俳優然とした男性がソファーの上に座っていた。


「久しぶりだな沙織……何故貴様がここにいる」


 整った顔立ちから笑みが消えた。和やかになりかけた空気が一気に張り詰められる。


 おかしい。何かがおかしい。

 

 俺は口元に手を当ててささやいた。


「才覇さんに話を通してないんですか?」

「言ったら父が頷くわけないじゃん」


 確かに。


 納得してる場合じゃない! 明らかに警戒心を持たれた。交渉前に空気を悪くしてどうする。


 俺が口を開いても状況が好転するとは思えない。先輩に希望を込めた視線を送る。


 視界内に悪戯っぽい笑みが浮かんだ。二本の腕が俺の左腕に絡みつく。


「実はね、今日は私の彼氏紹介しようと思って!」

「はぁっ⁉」


 思わず声が張り上がった。


 この人一体何を言っているんだ⁉️ その驚愕に脳内を埋め尽くされる。


 リビングにもう一人いることを思い出して、とっさにソファーの上に視線を向ける。


 訝しむ視線に突き刺された。


「どういうことだ。貴様にはすでにパートナーがいると聞いていたが」

「誤解です! 花宮先輩とはただの先輩後輩の関係であって、そういう関係じゃありません!」


 左胸の奥がバクバクとうるさい。下手なホラーよりも心臓に悪い。


 こんなところで機嫌を損ねたら台無しだ。どうにかして誤解を解かないと!


 花宮先輩が体の前で両手をぱちんと鳴らした。


「ごめんごめん、付き合ってるっていうのは嘘。久しぶりにお父さんに会ったから驚かせたくてさ。驚いた?」


 沈黙。


 それは奇妙な間だった。呆れたような、応じたいけどやっぱり無理だすまんとも言いたげな表情。才覇さんもこんな顔するんだなぁと感慨に浸る。


 居心地の悪さを感じ始めた頃になって、才覇さんの嘆息がリビングの空気を揺らした。


「悪い冗談はやめろ。それで、本当の用事は何だ?」

「可愛い後輩がね、お父さんに用があるみたいなの。だから聞いてあげてよ」


 んじゃ。花宮先輩が言葉を残して身を翻した。


「しばらく一人で頑張ってね」

「え? それってどういう」


 問い掛けもむなしく、俺の視線はドアにブロックされた。


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