表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪には罰を  作者: 原滝飛沫
5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

136/185

第136話 爆弾発言


 マンションに戻るなり霞さんの部屋を訪問した。彼女が気持ちの整理を付けるまで待つつもりだったけど、奈霧に危害が及んだなら話は別だ。


 炎上を止めるには、とにもかくにも信ぴょう性のある釈明が要る。


 SNSで問題になったのは霞さんのデザイン画。霞さんのアカウントで発信すれば炎上は鎮火する。愉快犯以外は引いてくれるはずだ。


 その狙いは上手く行かなかった。何度インターホンを鳴らしても霞さんからの応答はなかった。


 スマートフォン越しのコンタクトも叶わない。白鷺さんに仲介を依頼しても駄目。言伝を頼んでも返答がない。


 ならばと思って校舎内での接触を試みたものの、目が合うと背を向けられる。何を言ったのか、追いかけようとしたら事情を知らない下級生が立ち塞がった。


 霞さんは一年生の間で人気がある。


 一方で俺の名前には悪評が付きまとう。


 市ヶ谷と伏倉。俺と霞さんの容姿が似ていないこともあって、従兄妹だと説明しても信じてはもらえなかった。


 俺が手をこまねいている今も、奈霧は心ない人々の中傷に苦しんでいる。最悪服飾を嫌いになる可能性もある。


 そんなのは駄目だ。楽しそうに語っていたあの笑顔が失われるのは耐えられない。霞さんには悪いけど根競べさせてもらう。まずは方針を決めて、校門前で待ち伏せる計画を練った。


 聡さんからコールされたのはそんな時だった。顔を合わせて話したいことがあるとのことで、日時と待ち合わせ場所を指定された。


 迎えた土曜日。俺は銀座の地に靴裏を付けた。雨粒が傘を小突く音を耳にしつつ、流動する人混みに乗ってコンクリートの地面を踏み鳴らす。


 逃げ込むようにカフェ店内に踏み入った。店員に伏倉聡の名を出すと席に案内された。


 木材に彩られた落ち着きある空間。高級感に溶け込んだ店内で人影が腕を上げた。俺は口角を上げて会釈する。


 聡さんと円形のテーブルを挟む。


 メニューブックを差し出された。ページに記されたメニュー名に視線を走らせて目を見張る。


 高い。ほとんどのメニューが四桁だ。カフェオレでさえも千円を超えている。質の良い牛乳を使っているのだろうか。学校帰りに寄る感覚で通ったら財布が底を尽きそうだ。


「奢るよ。ここは高校生の財布じゃ辛いだろう。あ、でも秀正ならブラックカードを渡しててもおかしくないか」

「それは断りました。金銭感覚が狂いそうなので」

「賢明だね。じゃあここは私の奢りということで。あ、これはどうかな? 知り合いが美味しいと言っていたよ」


 聡さんがケーキの名前に人差し指の先端を置く。


 断り切れずにケーキも注文する羽目になった。奢られて得をするのは俺のはずなのに、何だか押し売りされた気分だ。


「体育祭の後はどんな感じ? 霞さんと仲良くやれてる?」

「はい。白鷺さんとの距離も縮められた気がします」


 出合った当初は、凍えるような眼差しを向けられた覚えがある。


 父は俺のことで自罰衝動を引きずっていた。その様子を近くで見てきた白鷺さんにとって、俺は父の気をわずらわせる嫌な奴に映っていたのだろう。


「二人を恨んではいないの?」


 問われて思わず目を瞬かせる。


「どうして俺が二人を恨むんですか?」

「優峯の子女だからね。思うところがあるんじゃないかと思ってさ」

「その人と二人は関係ないですし、そもそも顔すら知らない人ですからね。母の仇と言われても実感が湧きませんよ」


 何より仇を追い求めるのはもう止めた。罰は父が下したし、俺から言うことは特にない。


「そうか。それを聞いて安心したよ」


 談笑する内にカフェオレとケーキが到着した。食器が店員のお盆を離れて、カップと皿の底がテーブルの天板を鳴らす。


 いただきますを口にしてカフェオレを一口含む。


 濃厚な味わいが口内に広がった。スーパーで購入した物とは大違いだ。芳醇な旨みに混じったほろ苦さで次の一口へと誘われる。


 苦味には甘味。フォークを動かして切り分けたケーキを口に運ぶ。カレェオレのほろ苦さで味覚をリセットしつつ、ケーキの甘味で口元を緩ませる。


 聡さんが両肘をそっとテーブルに付けた。


「市ヶ谷さん、今日は来てくれてありがとう」

 

 和やかな微笑を前に気を引きしめる。


 スイーツを食べ終わってからの礼。本題に入る空気を感じてグラスを置いた。


「ご馳走になった身ですけど、俺にできることは限られてますよ?」

「大丈夫、君にもできることだ。単刀直入に言うよ。君が交際している女の子、奈霧有紀羽さんと別れてくれ」

「……え?」


 戸惑いが口を突く。


 俺の生活を一変させかねない爆弾発言。柔和な微笑から発せられたと理解するのに数秒を要した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ