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罪には罰を  作者: 原滝飛沫
5章
122/184

第122話 新しい教室


「金瀬さん?」


 この明るい声色は聞き間違いようがない。人目を惹く容姿の近くには例の二人もいる。


 見慣れない人影も混じっていた。ショートカットの女子が目を見張る。


「愛故にじゃん! ナナ達って愛故にと友達だったの?」


 懐かしい響きだ。まだ残ってたのかその異名。


 金瀬さんが目を丸くする。


「あれ、言わなかったっけ?」

「聞いてない聞いてない! どういう流れでそうなったの? 教えてよ」

「んーどうしよっかな~~」


 金瀬さんが人差し指を口元に当てて首を傾げる。スタイルの良い体に、小悪魔の翼と尻尾を幻視した。


 俺は男友達にそっと歩み寄る。


「尾形さん、あの人見たことないけど知り合いか?」

「ああ。市ヶ谷がナナを庇った時あったろ? あの後で仲直りした元友達」

「なるほど」


 全校放送の件で、尾形さん達のグループは孤立した。察するに、見知らぬ少女はそうならなかったのだろう。周囲からグループの一員と認識される前に、離脱して事なきを得たと言ったところか。

 

 ショートカットの女子が迫り、びしっと手刀を眉の上に添える。


「初めまして、井ノ原さやかです! 愛故にさん、お噂は兼々」

「はて、誰のことだろう。俺にはさっぱり分からないな」

「またまたー! あれだけ有名になっておいてそれは通らんでしょ」

「いや通る。誤解なんだ」

「誤解?」


 少女がきょとんとする。


 この反応、いける。


「そう。実は愛遊絵仁っていう女子がいて、皆その人とごっちゃにしてるだけなんだ」

「そうなの?」


 井ノ原さんが顔の側面を向ける。


 俺はとっさに腕を伸ばした。純粋すぎる金瀬さんはもちろん、佐田さんや尾形さんも悪ノリするに決まってる。彼らに話題を振らせたら俺の負けだ。


「ぎゃっ⁉」


 両手で挟んだ顔がぴくっと跳ねた。


「な、なに!?」

「井ノ原さん。他の誰でもない、俺を見るんだ」


 愉快な三人に問わせはしない。これ以上愛を語る者は増えなくていい。


「ゆーうーくん」


 冷たい声で背筋が伸びた。俺は反射的に腕を引いて、紅潮した顔を視界から外す。


 恋人がぎこちない笑みを浮かべていた。


「違うんだ」

「何が?」

「だからその、いるんだよ。愛遊絵仁って女子が」


 最近「違うんだ」を告げてばかりだ。何で弁解を繰り返しているんだろう。俺は悪くないのに。


「あはははっ! 愛遊絵仁って、それ一発ネタじゃなかったのかよ!」


 バッと振り向く。

 大爆笑する男子と目が合った。


「芳樹、何でここに?」

「何でって、三組所属になったからに決まってんだろ」


 胸の奥でほかほかと温かいものが込み上げる。


 特別親しい同級生が、全員この教室に属している。


 何という偶然。振り分けに関わったであろう教師に心の内で感謝を捧げる。


「愛遊さんって釉くんの異名とは違うの?」

「ああ。全然違う」

「芳樹、余計なこと言わなくていい」

「実は文化祭の日にな」

「俺言わなくていいって言ったよな?」


 陽気な笑い声が室内に伝播した。四方八方から視線が集まり、耳たぶがお風呂でのぼせたように熱を持つ。


 芳樹がしみじみと腕を組む。


「まさかこの面子が揃うとはなぁ。仲の良い生徒を集めるって話は本当だったのかね」

「別の説もあるよな。問題児を一か所に集めて、生徒のコントロールに長けた教師が一括管理するってやつ」

「誰だ問題児って」

「お前じゃい」


 失礼な。俺はプリン頭から足を洗ったんだ。幾多ものボランティア経験を有する優等生を名乗っていい、と思う。


 室内と廊下を隔てる板がスライドした。同級生が自身の席へと踏み出す。


 尾形さんは生徒のコントロールに長けた教師と告げていた。となれば担任になる教師は相当厳格な手練れのはず。


 俺は席に腰を下ろして担任の面を拝む。

 

 知っている顔だった。だるそうな雰囲気は相変わらずな一方で、顎から伸びていた毛は剃られてツルッツル。室内で驚きの声が上がる。


 浅田先生だ。俺は内心ほっと胸を撫で下ろす。


 俺は問題児扱いされていない。その確信を得て担任の話に耳を傾けた。

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