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罪には罰を  作者: 原滝飛沫
4章
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第107話 僕のゴール


 周囲から羽交い絞めにされて、僕は振り払うのを諦めた。優峯の上からどくなり、父に優峯の処遇は任せると告げられた。


 憎たらしい態度から一転、愚弟ぐていは床に額を擦り付けた。伏倉家当主となった僕は特別な権限を行使できる。優峯は自身の末路を悟ったに違いない。

 

 誰かが固唾を呑んだ。


 僕は期待に沿って、当主の権限を活用した。


 やられたことはやり返す。父が築いた人脈を活かして、優峯の会社の取引先に片っ端から渡りを付けた。


 金を積んででも首を縦に振らせるつもりだったけど、取引相手は顔を合わせた先から僕になびいた。優峯は取引先からも嫌われていたようだ。ダムを決壊させた濁流が全てを呑み込むみたいに、優峯が積み上げたものは跡形もなくなった。


 伏倉の手が届く範囲では活動できないと悟ったのだろう、優峯が自ら行方をくらませた。空港での目撃証言が集まった辺り、大方行き先は海外だ。逃がしたようでしゃくだけど、僕の五感から消えてくれるならどうでもよかった。


 晴れて復讐は完了した。


 これで心持ちすっきり、とはいかなかった。


 当然だ。大馬鹿を僻地へきちに追いやったところで、鬼籍に入った百合江が生き返るわけじゃない。


 ズタズタにされた釉の心も、完全にえるまでには年月を要する。その間も同年代は前に進むんだ。これから先、釉には苦難が待ち受けている。

 

 息子への干渉は義父に禁じられている。僕は自分にできる贖罪しょくざいを考えて、優峯の長女とその侍従見習いを引き取った。


 親がどうあれ子供に罪はない。彼女らの父を追放した者として、残された二人の扶養義務を負った。


 恨まれる覚悟をしたものの、二人には笑顔を向けられた。優峯とその伴侶からネグレクトを受けていたらしく、逆に感謝される始末だった。


 霞とアンナはアメリカの学校に進んだ。僕は二人を父に任せて、一人日本に帰国した。


 心には、いまだぽっかりと穴が開いていた。


 僕は虚無感を埋めるべく仕事に励み、その裏で被災地への寄付など地域貢献に努めた。


 投資をする過程で、奈霧と名の付く会社を見つけた。


 取締役の名前は奈霧勲なきりいさお。もしやと思って調べてみると、彼には見覚えのある名前の娘さんがいた。


 勲さんの会社経営は傾いていた。色々な人に頭を下げてお金を集めているようだ。 


 僕は個人投資家として資金援助を申し出た。変装をして勲さんと会談し、一時期苦しんだ経験を活かしてアドバイスをした。


 こんなことで釉への贖罪になるとは思わない。それでも息子が好いていた女の子には、何不自由のない生活を送ってほしかった。


 奈霧さんの会社は立ち直った。


 付き合いで会食を重ねる内に、有紀羽さんが請希高校を志望しているむねを聞かされた。


 何の因果か、そこは釉が受験する予定の高校だった。


 義父に関わるなと告げられた身だけど、釉の近況は手紙を読んで知っている。共に受かれば彼らは邂逅を果たせる。影ながらに二人の受験成功を祈った。


 二人は合格した。


 耳にした時は目頭が熱くなった。有紀羽さんにはすでに彼氏がいるかもしれないけど、小学生時代に培った友情は消えない。釉の高校生活を彩ってくれるように祈った。


 それからしばらくして請希高校での事件を知った。釉が真実を突き止めて、小学生時代からの因縁を清算したらしい。


 僕は打ち震えた。


 一度は心の病気で塞ぎ込んだ息子が、国内有数の進学校に入学した。それだけでも大層感動したのに、自らをおとしめた仇に引導を渡してみせた。


 何という実行力。憎悪がもたらすエネルギーは、これほどまでに大きな成果をもたらすのか。まさに目から鱗が落ちた思いだった。

 

 僕はようやく人生の使い道を見つけた。すぐに請希高校を買収して、 釉を留学させる準備を進めた。

 

 伴侶と息子を放り出した僕に父親を名乗る資格はない。


 でも父だった者として意地だけは張らせてもらう。


 最後の復讐対象として釉の前に君臨し、憎悪のエネルギーで息子のスペックを引き上げる。才覇と聡の反対が予想されるけど僕がバックアップすれば問題ない。


 復讐された者の末路は地獄と決まっている。お金や名声に興味はないけど、積み上げた物が全て無くなるのは怖い。


 その喪失感こそが僕への罰に相応しい。他ならない息子の手で破滅できるなんて、僕には勿体ない終わりだ。何かあっても両親や義両親がいるし、有紀羽さんと幸せな家庭を築いてくれるだろう。


 そこが僕のゴール。父親もどきの僕に示せる、息子にささぐ愛だ。


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