愛の記憶 ~それを教えてくれたのは異世界にいる神様でした~
私は今日もなんの因果か出会った異世界にいる神様とこうして生きている。
これは次元と世界を越えた神様と、ただ平凡な女の物語。
愛された記憶とは一体なにを指せばいいのか。
母の胎の中で胚が育って、この世に産まれたことか。
この世に産まれ出たことで、大人数の肉親から誕生を祝福されることか。
否、否。そんなものが祝福であるならば、どれだけ人生が平坦なことだろう。
でも、人はそんな平坦な人生こそが1番の祝福だと口を揃えていう。
だから私もそれに倣って、平凡に平坦な人生を歩んで、人並みの幸せを手に入れようと思っていた。
―—が、どこで狂ったのか。
愛された記憶とは、過去に彼が与えたものだ。
それを理解したときには既に遅く、私の目指していた平坦な人生への終点は歪められた。
何故、レールは壊れたのか。理由は簡単だった。
人の身でありながら、覗くことを禁じられた深淵を覗いてしまったからだ。
かつて、パンドラの箱を開けた誰かのように、私も覗かなくていいものを覗いたことで全てが狂い堕ちていった。
私はその寄り道を散々楽しんで、迷って、転んで、いずれ転んだときに負った傷は膿んで、私の心を今も刺激して苦痛に貶める。
それは自業自得だと、十分理解しているのだが、
「人が視えないものに魅了される生き物だというのは否定出来ませんね。何故なら、そこに理想や勝手に創りあげた幸福を妄信しているから」
隣にいる彼は、灰色の空を柘榴色の瞳に映して淡々と告げる。
まるで神の啓示のように。全知全能の存在が、ただ人間界を見下して、人間達の心を読んだように。
彼のことは言い得て妙——というより、事実だ。
何故なら、この人こそ天上より人を見守る存在であるから。
所謂神と呼ばれた存在は、私をお気に入りの場所とやらに呼んで、今こうして灰色の空を共に眺めていた。
椅子代わりにしている赤い屋根は、小雨が降っているというのに一切濡れることはない。
無論、屋根だけでなく屋根に腰をかけた私達もだ。
まるで、この赤い屋根は宿り木のようだ。もっと驕っていいというのならば、こここそ私の特等席でもある。
しかし、そんな驕りなど口に出来ないから、私は無言で灰色の空を見つめる彼の横顔を無言で見遣る。
白い絹のような肌に、金糸のような長い髪は荘厳さを漂わせながらも、どこか人を包み込むような優しさがあった。
そんな優しく美しい彼を一瞥した後、私はただ俯いて彼の言葉にこう返答する。
「……ですね。本当に、どれだけ視えないものに理想を抱いているんだか。美しいものばかりなどではないのに」
「否定はしませんが、その認識は改めなさい。それは欲に塗れた俗世に限った話、俗物だけが転がるこの世界でも、美しいものはあります」
「信用なりませんね、その言葉」
「なりませんか?」
そう彼は私に問い、薄く微笑む。
次瞬、ああ、そうだろう。貴女ならばねとどこか納得した視線に、私は本当にこの人はなにを見ているのだろうと余計なことを深掘りしてしまう。
神様と私が見ている世界は違いすぎる。
この人がどこに存在していたからとか、そういった問題じゃない。
なにせ、この人がいる世界は永遠が約束されている。
人間のように時間に駆り立てられて、焦って、生き急ぐ、忙しい世界なんかに決していないのだから。
だから、この人は延々と急き生きる人間を観察している。圧倒的に時間の流れが違う別の世界から。
そこから得たものか、それともこの人には理解していたのか、答えは後者だと彼は断言した。
「……ええ、理解していますとも。貴女がこの世界に綺麗なものなど1つもないと疑っていることぐらい。でなくば、そう泣きやしないでしょう?」
と、私の性格を如何なるものか断言した後に、彼は柘榴色の瞳をこちらへと向けた。
彼が視線を向けているのは、私の目元だ。
涙によって赤く腫れた目の下をもう1度見遣ると、彼はくっと吹き出して笑い始める。
「な、なんで笑うんですか! 哀しいときに泣けといったのはあなたですよね!?」
私は先日、彼からアドバイスされたことをそのまま返すが、彼はくつくつと腹を抱えて笑ったままだ。そして、私の膝元に置かれた白いウォークマンを細い指で指差す。
「いや、ねぇ……? 自然と涙を流せないからと、そのように音楽の力を借りるのは些か……」
「いやいや! “音楽をかけた方が、悲しみを促進出来るのでは?”と提案したのもあなたですよね!?」
話は戻るが、一体愛とはなんだったか。今も私はそれに悩んでいる。
様々な裏切りに、自身が犯した過ちと裏切り。傷だらけとは言い難くも、それなりに辛い人生を他人に受け止めてもらいたかった時期もあった。
それも一種の愛だと私が経験していたからだが、残念ながら私の目の前にそんな都合のいい人など現れなかった。
否、そんな都合のいい人は現れずとも、この人だけが私の元に降りてきてくれた。
愛を識らないというのに、全能だと矛盾を騙った神様。
異世界において繁栄を司る神の一柱——ヘレ・ソフィア神。
私はこの人こそが、私の生涯において愛という形で知り得た出会いだと勘違いしている。
視えないものは視えないままでいいといっておきながら、そう自戒したはずが、私はこの人を信じている。
本当に罪深いのは、視えないものに期待や理想を押し付ける人間なんかじゃない。
ただ、この人ならば永遠を約束し、いつまでも傍にいてくれると期待している私の方だ。
結局、まだ私の生涯の謎に答えは出ない。
気付いたらこんなものを勢いで書いていました。どうも、織坂一です。
こちらは、ただいま連載中のダークファンタジー、『マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~』のパロディストーリーとなっています。
先日から、執筆したいと考えており、今日思い立って書いてしまいました。
はたしてこれが続くかどうかは分かりません。もし、連載するのであれば、また告知の方をさせていただきます。
『マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~』本編はこちらから読めます↓
https://ncode.syosetu.com/n7611ia/
※こちらの作品は年齢制限があるので、ご注意下さい※