動物神拳 河馬
僕らは、近くの川が流れているところまでやってきた。
現場に着くと、核の壊されたスライムが、何匹も殺されていた。
「許すまじ転生者」
拳を握りしめて、ミネルさんが怒りで震えている。
「まだ近くにいるはずだ」
ミネルさんの目が蛇のように、縦に瞳孔がとじる。
まるで僕が大蛇ににらまれた時のように、
赤外線センサーで温度を感じているようだった。
「いた。お前はここに隠れていろ」
ふっ、とミネルさんの気配が消えた。
ミネルさんは、身を低くするとまるで、蛇のようにするすると移動していく。
滑るように移動するため音が一切しない。
転生者の後ろに回り込むと突然立ち上がり、攻撃を繰り出した。
「必殺、スネークパンチ!」
絶対はずさないというところで、ミネルさんは、スネークパンチを放った。
転生者は突然の不意打ちで吹き飛ばされた。
転生者は、ごろごろと転がっていく。
「いてぇな。なにしやがる?」
「む?」
転生者は、何事もなかったかのように立ち上がった。
どうやら、蛇の毒も届いていない様子。
僕は転生者のステータス画面を表示してみた。
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LV8
攻撃力+14
防御力+53
素早さ+18
スキル
『鋼質化』
スキル詳細肌が鋼よりも硬質化する。
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すでにレベルがあがっている。
しかも防御よりになっている。
スキルも、防御特化のスキルだ。
岩をも砕く、ミネルさんの蛇も鋼鉄の肌までは、貫けなかったということだろう。
「俺のスキルは防御力アップの『鋼質化』。現世では、トラックにひかれて死んでしまったが、並みの攻撃では、痛くも痒くもない。死ぬとしたら、こっちの世界でも、トラックに牽かれるぐらいだ」
この世界には、トラックはいる気はしない。
なら、もう無敵じゃないか。
「トラック? 転生者は、訳の分からないことばかり言うからな。そんなものなくても、俺がお前を駆除してやんよ」
大きな声で宣言すると、ポケットから何かを取り出した。
「みせてやる。俺の動物神拳『河馬』」
ミネルさんは、大きく腕を動かしながら構えを取って、転生者に投げつけた。
転生者にあたると、赤い粉がまき散らされる。
「なんだこれ」
転生者が、煙幕に驚いている隙に、
「とう!」
ミネルさんは、蛇をバネのように使いその場から離脱して、僕の方に走ってくる。
「うわぁ。どうしたんですか」
てっきり相手の隙をついて、戦うのかと思っていたので予想していなかった。
「逃げるが勝ちだ」
僕もあわてて、ミネルさんを追う。
「えええ、転生者は皆殺しじゃないんですか?」
何がなんでも、転生者は駆除するもんだとおもっていた。
撤退という選択肢があったなんて。
ミネルさんが僕に言った。
「だれが、転生者からにげるといった。俺が逃げてるのは『カバ』だ!」
「えっ?」
カバから逃げる?
「ぎゃああああああ」
後方から悲鳴が上がっていた。
僕は転生者を振り返ると、
恐ろしい速さで突っ込んできたカバの群れに、ぐしゃぐしゃに『轢かれていた』。
ひぃ。
何度も何度も執拗に、カバに攻撃されている転生者。
鋼鉄化もなんの意味もないぐらいに。
体が、折れ曲がっている。
それどころか、防御力が高い所為でうまく死にきれないでいる。
完全に安全なところまできてから、振り返ると、
転生者は、数頭のカバに踏みつけにされているところだった。
「さっきあいつは、俺の攻撃に『痛い』といっていたからな。威力が足らないだけだという予想は当たったようだな」
転生者は、頭を完全に踏み抜かれて、絶命していた。
「何がなんだか、どうしてカバが……」
「あれはカバの興奮剤だ!」
「あの転生者はどうしてカバに当たっただけであんなことに……」
「カバは、山から転がり落ちる岩石ほどの速度で、体当たりできる」
つまり、車並みの速度がでるということ。
見た目どうみても数トンは重さがありそう。
つまり、トラックに牽かれたようなものじゃないか……。
「これで駆除完了だ! はっはっは」
ミネルさんの高笑いが空に響いていた。