動物神拳 植物
ようやく、蜘蛛の巣から解放してもらえた僕は、ふらふらになりながらミネルさんに聞いた。
「もっとおとなしい、動物神拳はないんですか?」
「おとなしいって、あんまり動かないってことか?」
「そうなりますかね」
ニュアンスが伝わっているか、すごく怪しい。
「なら次は、アマリに習ってみるか」
「アマリって誰ですか?」
「お前を手術してくれた命の恩人だろ」
「あの人ですか……なんの必要もない手術だったんですけど……」
ミネルさんに殺されなくなったという意味では恩人だけど。
自分を殺そうとした人と普通に話せるようになってきてるって、どんな状況なんだろう。
異世界怖すぎる。
……。
とにかく、動物に会う前に、先にどんな動物か確認しておこう。
「なんの動物の使い手なんですか?」
「植物だな」
全部を覆すような言葉が返ってきた。
「いや? 動物……神拳ですよね」
「植物だが、動くから動物だ」
「???」
何を言っているのかわからない。
「とりあえず、行ってみるか」
◇ ◇ ◇
僕らは、一戸建ての家の前にやってきた
「アマリ、いるか?」
「はぁい。どうしたの?」
僕を手術したエルフが出てきた。
名前は、アマリで間違いないようだ。
「こいつに、お前の動物神拳を教えてやってくれ」
「いいけど、その子、人間よね」
「ああ、そうだぞ」
「私の動物神拳でいいの?」
「もちろんだ」
「わかったわ」
僕の意思を確認せずに、勝手に承諾された。
うん。
嫌な予感しかしない。
「あのーすみません。アマリさんの動物神拳は、なんですか?」
「食人花よ」
「食人花⁉」
「アルラウネとも言うわ」
「アルラウネ?」
「ええ、出ておいでウルラ」
うわぁ。呼ばないでよ。
アマリさんの隣の地面が突然隆起すると、ツタのようなものが生えてきた、大きなつぼみが生まれて花が咲いた。
中から緑の体をした女性の形をしたものが出てきた。
質感は、植物なのに、造形は、人間の女性そのもの。
うん。すんごい美人で不気味。
植物の女性は僕ににっこり笑いかけてくれる。
意外とフレンドリー。
そして、植物の女性――ウルラは、アマリさんに耳打ちした。
頷くと、アマリさんは、僕に内容を教えてくれる。
「おいしそうだって」
「ですよね」
しってたよ。
事前に、食人花だって、説明あったし。
ウルラは、またアマリさんに耳打ちした。
「いただきます、だって」
「やめてー」
『脱兎のごとく』
ほぼ確実に死にそうな時 スキル条件達成!
『脱兎のごとく』スキル発動!
僕は、くるりと背を向け、走ろうとする。
ガシィ。
僕はミネルさんに捕まった。
僕は逃げられない!
「まあ、待ってくれ。ウルラ、今日はいつものように餌を連れてきたわけではない」
嫌な事実が提示された。
うん。いつもは餌を連れてきてるんですね。
食人花の餌ってなんだろうなぁ。
想像もつかないなぁ。
「こいつは、人だが、お前の動物神拳をどうしても学びたいそうだ」
僕、そんなこと一言も言ってないんですが⁉
毎回、恐ろしくねじ切れるぐらい曲解されるのどうにかしてほしい。
ウルラは、にっこりと僕に笑いかけてきた。
その笑顔は、うれしいの、僕を食べたいの、どっちなんだよ⁉
「動物神拳を使うのは、私なのよね。働いてもらうのはウルラだけど、とにかくやってみましょうか。その子の腕一本もらえるかしら?」
「よし、ペット、授業料、腕一本だそうだ」
「嫌に決まってるじゃないですか!」
「む? そうだったな。アマリ、これ以上は、こいつは体は失いたくないそうだ」
「そうなの? これ以上はうしないたくないのね」
そんなに何かを失ったことを強調しないでほしい。
「それなら、今日、人の代わりに上げる予定だった、鶏を代わりにやってみましょうか」
ああ、本来の餌がなにか確定してもらった。
「植物なら、光合成とかできるでしょう」
僕がそういうと、ウルラはアマリさんに耳打ちする。
「グルメだからだって」
「そうですよね。美味しいもの食べたいですよね……」
どうあがいても、僕はこの世界では、家畜以下の存在だった。
「さて、では、やって見せるわ」
アマリさんは、隣の小屋から、鶏を一匹連れてくる。
「じゃあ、あの鶏を、人間だと思ってね」
アマリさんは、突然よろよろと崩れ落ちると、
「きゃああああ、助けてぇ」
目に涙を浮かべながら、救助を求めた。
鶏が何事かと思い、アマリさんに近づいていく。
すると、鶏の後ろから、するするとツタが伸びて行って、鶏を捕獲。
根の部分が、膨らむとバカリと大きな口が開いた。
まるで蠅取り草の巨大版で、本物の歯がついているような。
鶏は、そのままその中に閉じ込められる。
バリボリバリボリグシャグシャグシャ。
恐ろしい音を立てて、鶏が食べられていく。
僕はもしかしたら自分が食べられていたかと思うと、顔が真っ青になった。
「いいわ。完璧な演技ね。その表情よ」
これ演技じゃなくて素の表情なんです。
「食人花神拳の神髄は、いかにしてか弱い女性を演じられるかなの。私達エルフは見た目は、人とそれほど変わりがないから、人間の特に男は欲情するらしいわ。紳士的な人間は、困っている私のことを助けようとするし、悪い人なら、私を捕らえて凌辱しようとするでしょう。その隙にウルラが捕らえて、食べてしまう。これが食人花神拳よ」
善意であっても、悪意であっても、まとめて、ぺろりんちょ。
凄惨すぎる。
「でも、僕は男なんですが」
「エルフ特性の女性ホルモンなら、すぐにどんな男も襲いたくなる、可愛い女の子になれるから安心して」
なんにも安心できない。
「よかったな。相性のいい動物神拳が見つかって」
相性はいいかもしれないけど覚えたくない。
「相手が女性だったらどうするんですか?」
「うーん。相手が女性だったら、どうせ強くないし、そのままウルラに食べさせればいいわよ」
ウルラが、微笑んみながら、アマリさんに耳打ちした。
「好き嫌いはないから、安心してだって」
だから、なんにも安心できない。
「男の人でも、欲情せずに襲ってくる人がいたらどうするんですか」
「その時は、ウルラの即効性の痺れ毒を浴びせるわ。武器を抜いたまま近づいてくる場合は、要注意よ」
抜かりがない。
「これは、覚えるしかないな」
自分をおいしそうだなと思っているモンスターと常に一緒にいたくない。
「やっぱり別の動物神拳お願いします」
そういうと、初めて悲しそうな顔をみせるウルラ。
そのまま、葉っぱをまき散らした。
僕は突然痛みを感じた。
「痛、なんだこれ」
痛みを感じたのは、手の甲。
見てみると、小さな葉っぱが一枚手の甲から生えている。
にっこり笑いかけてくるアルラウネのウルラ。
なんだか嫌な予感が……。
「うん? うん。そう。この子がね。動物神拳、覚えないなら繁殖させてだって」
「繁殖!?」
「苗床によさそうだって」
「苗床!?」
まさかと思って、手の甲をみると、葉っぱから僕に向かって根が生えている。
「苗床というのはね。この子植物だから、挿し木で増えることもできるのよ。すごいよね~」
「うわぁあああああ」
僕は食人花に寄生されました。