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動物神拳 蜘蛛

 僕の足元には、タランチュラがカサカサと歩いていた。


「ひぃ、ひぃ」


 僕は情けない声をあげながら、震えていた。


「ふむ。まあ、タランチュラぐらいがいいだろうな」


 ミネルさんは、平気そうに、タランチュラをなでている。


「よし! お前も撫でてみろ」


 断固拒否!


 しようとするものの、

 ミネルさんは僕の手をつかむと、無理やり僕の手で、タランチュラの体をなでた。


「ひぃいい。あれ?」


 毛皮のような体は触れると柔らかく、まるで暖かい布に包まれているような感覚が広がった。

 意外と普通にもふもふだ。


「猛毒持ってるんですよね?」


「まあな。だが俺の背中にいる毒蛇ほどではない。腫れて、そこそこ痛いぐらいだ。まず大人が死ぬことはない」


「そんなもんなんですか」


 それならいいか……。


 ってそんなわけあるかい!


 転生してから、ずっと死にかけている所為で、感性がおかしくなりつつある。


「ちなみに、ミネルさんの毒蛇に噛まれるとどのくらいいたいんですか」


「刃物で数ミリ単位で、ぐしゃぐしゃに切られるぐらい痛いな」


 そんな恐ろしい蛇が、常に背中に張り付いているんですか。

 そして、ミネルさんの傍にいるだけで、そんな危険にあう可能性が……。


 そう思うと、タランチュラが可愛く思えてきた。


「蜘蛛神拳はどうやって覚えるんですか?」


「いつもこの辺りに使い手の知り合いがいるはずなんだが」


 ミネルさんはあたりを見渡す。


「おお、いたいた」


 ミネルさんの、視線の先をみると、エルフの男がいた。


 森の色彩に溶け込むような茶色の髪。

 深い色合いをした瞳。

 ミネルさんと同じように尖った耳。


 女だったら惚れてしまいそうなぐらいカッコいい。


 あれ?

 じゃあ、今僕は惚れなければいけないのだろうか。


「コイツは、画家のクックラ。俺の幼馴染だ」


 それにしても、クックラ?

 変な名前だな。


「やあ、ミネルちゃん。この子はなんだい?」


「ペットのペットだ!」


「ははは、変な名前だなぁ」


 そうですよね。

 ぼくより変な名前の人なんて今は存在しなかった……。


「それにしても、ミネルちゃん、あんなに人間嫌いなのに、人間をペットとして飼いはじめたのかい?」


「でも、コイツは命以外はなんにもいらないって言う、面白い奴だからな!」


「なんにもいらないなんて言ってませんよ!?」


 クックラさんは、僕のツッコミにも、優しく微笑んでくれる。

 もしかしたらいい人なのかもしれない。


「それにしてもこの子、タランチュラが好きなんだね」


「そうだ。ペットは、動物の中で一番タランチュラが好きだそうだ」


「そんなことも僕は一言も言ってないよ!?」


 蛇よりはましぐらいだ。

 おとなしそうとはいえ、極悪な鋭い牙でかまれたら、きっとただでは済まないだろうが、ぺろりんちょされるよりは絶対いい。

 少なくとも、蛇神拳よりは蜘蛛神拳の方がいいかもしれない。


「よし、ペット、クックラに蜘蛛神拳を習うといい」 


「はい!」


「頼むぞ。クックラ!」


 ミネルさんが頼むと、クックラさんは頷いた。


「では、ちょっとやってみせよう」


「お願いします」


「では、ペット君、ちょっと後ろに下がってくれないか?」


「えっ。はい」


 僕は一歩下がる。


「もう少し」


「はい」


 僕はもう一歩下がった。


 ベチャ。


 背中に嫌な感触があった。


 振り向こうとしても、体かネバネバして、身動きとれない。


 これはまるで……。


「蜘蛛神拳は、こうやって、たくみに誘導して獲物を蜘蛛の巣にかけたら、終わりだよ」


 僕は蜘蛛の巣にとらわれていた。


「ていうか、僕に技をかけないでくださいよ」


 そのままクックラさんは、画材を取り出し、僕を描き始める。


「あのー助けてもらえないでしょうか?」


「ちょっと待ってね」


「僕なんて描いても、面白くないというか」


 僕がそういうと

「ああ、そんなことないよ」

 柔和な微笑みで否定する。


 まあ、絵に描かれるぐらいならいいか。


 ミネルさんは、絵を覗き込むように見ている。

 

 うーん。


 どう考えても、二人の方が絵になる美しさなんだけどなぁ。

 

 そう思っていると、

 カサカサカサと、タランチュラとは違う別の蜘蛛が、僕の手足に糸を吐いていく。


 なんだか背中が赤くて、タランチュラよりグロテスク。

 明らかに僕に対して敵意がある。


「ちょっと、なんですかこれ⁉」


「そうそう。その表情が見たかったんだ。もっと君の表情が恐怖に染まるのを見せてくれないかな?」


 僕の表情が恐怖に染まる?


「その蜘蛛たちは、君を保存食にしようとしてるんだよ」


「うわぁあああああああああ」


 暴れて逃げようとすると余計に蜘蛛の糸が余計に絡まっていく。


『脱兎のごとく』

 ほぼ確実に死にそうな時 スキル条件達成!


『脱兎のごとく』スキル発動!

 素早さ+100


 僕は逃げられない!


「なにこのスキル? 死刑宣告かな!?」


 ほぼ確実に死ぬ状態になってしまった。

 身動きできないので、今更素早さが上がったところでどうしようもない。


「ミネルさん!」


 僕は、助けを求めた。


「どうしたんだ?」


 なんでそんな不思議そうな顔をしてるんですか。


「助けてください! 約束したじゃないですか」


「そうだったな。忘れてた」


 忘れないで!

 僕の生命線なんだから。


「クックラ、そいつは俺のペットだ。命だけは助けてやってくれ」


 よかった。ちゃんと約束おぼえていてくれた。

 クックラさんは顎に手を当てて言う。


「つまり、手足は食べさせてもいいということかな?」


「いいぞ」


 ノータイムで承諾した!?


「いいわけないでしょ。体も助けてください!」


 もう一番大切な部分捧げたんだから勘弁してください!


「むっ。命は助けないといけないからな。飯を食べさせるのは面倒だ。手は残してくれ」


「わかったよ。食べさせるのは、足だけにしようか」


「そうしてくれ」


 値切り交渉みたいに話をすすめないでよ!


「足もです。歩けないと」


「足はいるか?」


 ミネルさんは悩んでいる。


「いるでしょう。どう考えても」


「手があれば、逆立ちであるけるだろう」


 そんなわけあるかい。


「なんでもやりますから!」


「なんでもだと? よしなら、クックラ足もやめてやれ」


「ミネルちゃんがそう言うなら、仕方ないな」


 クックラさんは、しぶしぶ蜘蛛たちに命令して、糸を巻き付けるのをやめてくれた。


 そのまま、絵を描き始める。

 絵のモデルぐらいで済むなら、もうなんでもいい……。


 そんなクックラさんのとなりで、ミネルさんは楽しそうにしている。


「さあ、なにさせよう?」


 ああ、完全に罰ゲームを考えているいじめっ子の顔をしている。


 ああああ、どうして僕はなんでもやるなんていったんだ。


「ふむ。体が無事ならいいんだよね。たまにはこの子、僕にもかしてもらえるかな?」


「もちろんだ。なんでもやるらしいしな!」


 ものすごい勢いで、悪魔に魂が売られていってる!?


「いいなぁ。ペット、僕もほしいよ」


「そうだろ。そうだろ」


 仲良さそうに、僕になにさせるか話し合う二人。

 

 だれだよ。優しいかもしれないって思った奴は……。

 クックラさんは間違いなくミネルさんの幼馴染だ……。


 邪悪なエルフ二人の笑みを見て、ますます僕の未来に暗雲がたちこめているのを感じるのだった。 

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