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植物観察記録 薬草

「傷薬、無くなったから、アマリからもらってきてくれないか?」


「はい」


 ミネルさんに頼まれて僕は、アマリさんに傷薬をもらいに行くことになった。


「普通にお使いを頼まれる関係になってしまった」


 いきなり殺されかけてから、普通の関係になるってどうなんだろう。


 美味しいご飯は毎食出てくる。

 なぜか頭もよく撫でられるし、なんなら耳掃除とかまでしてくれる。

 ミネルさんは、口調が男勝りなだけで、基本世話焼きだ。

 一体、僕のことなんだと思っているのだろうか。


「あ、ペットか」


 完全に扱いが、ペットである。


 今日のおつかいだって、行ったことのあるアマリさんの家までだ。


 まるで、僕をこの世界に少しずつ慣らしてくれているようだ。


「感性はぶっとんでるけどね」


 多分、僕が人でなかったら、もっと出会った瞬間から優しかったのかもしれない。

 

◇ ◇ ◇ 


 アマリさんの家に着くと、僕は叫んだ。


「ごめんください」


「いらっしゃい、ペット君」


「ミネルさんから、傷薬もらうように言われてきました」


「ごめんなさい。ちょうどいま切らしてて」


「そうなんですか。どうしよう」


「薬草取ってきてくれないかしら、そしたらすぐ作れるわよ」


「僕でもできますか?」


「簡単よ。ハサミで葉っぱ切ってくるだけだから、場所もそんなに遠くないわよ」


「じゃあ、いってきますね」


 僕は、籠とハサミとクックラさんが描いたと思われる薬草のイラストを借りて、お散歩気分で出かけた。


 空は快晴。

 気分は快調。

 モンスターや凶悪な動物に出会ったら、何もせずに逃げよう。


 右手に生えている葉っぱとは、意思の疎通ができているわけではないが、ピンチになったら『脱兎のごとく』を発動させてくれる気がする。

 宿主である僕が死んでしまうのは、困るだろうから。


 ほどなくして、僕は薬草エリアに来た。


「うわぁ。いっぱい生えてる」


 イラスト通りの形をした草が沢山生えている。


 ギルドの依頼とかだと、初級任務でも苦戦するのではないだろうか。

 勝手なイメージだけど。

 ギルドなんていったことないし、なんなら、このあたりから出たこともない。


 世界はきっとそれなりに平和だ。

 そう思い込むことにしよう。


 僕が、薬草を一本取ると、


「お姉さん」


 急に、声をかけられた。


 振り返ると、重そうな装備を抱えた、傷だらけの男の子がいた。


 お姉さんって誰のことだろう。

 あ、僕か。


「君どうしてこんなところに」


 ここには、凶悪なエルフがいっぱいいるよ。

 とは、口が裂けても言えない。

 ミネルさんに聞かれたら、僕が駆除されてしまいそうだ。


「ここに、奇跡の万能薬が生えてるって聞いて」


 奇跡の万能薬?

 ぼくは自分の手に持っている薬草を見つめた。


「えっ、もしかして、この薬草のこと?」


「ああ、そうです。ようやく見つかった。噂で聞いた通りです」


 そんなすごいものが、家から五分のところに群生してるなんて。

 どれだけすごいんだよエルフは。


 バタン。


 男の子が唐突に倒れた。


「ちょっとどうしたの?」


「さっき、蜂にさされて」


「蜂?」


 男の子の体を見ると、あちこち腫れあがっている。

 どうみても、ミツバチ程度の蜂ではない。

 スズメバチなんかよりも、さらに大きい針で刺されているように思える。


「どうして、この世界の動物、モンスター並みに凶悪なんだよ」


「お、お母さんに持って帰らないと……」


「その前に君が……ミネルさんに見せれば治せるかも」


「ミネルさんって?」


「エルフだけど」


 僕がそういうと、男の子はガタガタと震えだした。


「エルフって、出会っただけで、命を奪われるという、悪魔のような種族のことですか」


「……」


 うん。

 なんにも間違ってない。

 やめよう、ミネルさんを頼るのは。


「あ、そうだ。この薬草を使えば」


 僕は試しに、手に持っている薬草を男の子にこすりつけてみた。

 男の子の腫れがみるみるうちに治っていく。


「さすが万能薬。すごい!」


 男の子はすっかり良くなった。


「ありがとうございます」

 

 男の子はお礼を言った。


「よかったよ」


「さあ、薬草をとって帰ろう」


 僕らは、何枚か葉っぱを切った。

 ただ、一番最初に切った葉はもうしおれてきている。


「君の家近く?」


「数日はかかります」


「そうだよね」


 僕は、歩いて五分だから、特に何の問題もないけど、男の子はそうはいかないだろう。

 しおれきったら、効果がないかもしれない。


「土ごと持って帰った方がいいかもね」


「そうします」


 事前に準備しておいたのだろう。

 スコップのようなもので、薬草を掘り起こすと手に大事そうに抱えた。


「お母さん治るといいね」


「はい!」


「この森にはエルフがいるから、近づかない方がいいよ」


「はい。お姉さんもお元気で」


 僕らは、そこで別れた。


 この世界でも、穏やかで、いい日というのは、あるものだ。


◇ ◇ ◇


 僕は、アマリさんの家に帰り着いた。


「ただいまかえりました」


「おそかったわね。薬草見つかった?」


「はい」


 僕は取ってきた、薬草をアマリさんに渡した。


「うんうん。ちゃんと根っこは持ってきてないわね」


「はい。うん? 根っこがどうかしたんですか?」


「薬草はね。別名、寄生草っていってね。葉っぱは万能薬なんだけど、根っこに触れると、巻き付かれてしまうのよ」


「そ、そんな」


「ああ、あなたは大丈夫よ。ウルラの子がついてるでしょう。アルラウネは薬草の寄生を抑制する臭いをだすから。だから、人間界にはほとんど、ってどこいくの」


 僕は、慌てて駆け出した。


 あなたは大丈夫。

 つまり、あの子は全然大丈夫じゃない。


 僕は、薬草の生えているエリアから、男の子が歩いて行った方に向かって走った。


 すぐに男の子は見つかった。


 薬草に巻き付かれて、絶命していた。


「そんな甘い世界じゃないよね。知ってたよ……」


 薬草は、大きく綺麗な赤い花を咲かせていた。

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