私の話に入ってくるなこの部外者が
王道話としいうか程よく読者が読み込めてキャラクターの配置を把握しやすく且つアレンジしやすい題材というものがある。
強くてニューゲームな転生ファンタジーであったり、婚約破棄のどんでん返しであったり、捨て子や無能力者という立場からの復讐劇であったり。
丸パクリは良くないがそれでも素人としても挑みやすいのはやはり魅力的だろう。
私もこのシナリオを片手間に描いている。本業の合間にね。
ゲームのシナリオライター。元々は同人からの引き抜き……ではないか。まぁ、個人サークルでやってたのをスカウトされたような感じ。あまり大手でもないしブラックに片脚突っ込んでるからそんなにいいもんでもないけど。
当初…は自分を認められたような歓喜と拾ってもらったという事でテンションがおかしいため、ブラックに気づく余裕もない。しかし働くうちにそのフィルターも次第にとれる。
そして疲れてるとジャンクものがめちゃめちゃ欲しくなる。
仕事でダメ出しされまくって情けなくなり自分の心の平穏を守るための世界。褒められなくてもいい。何故なら自己満足の品だから。
飾らなくっていい。上の機嫌伺わなくていい。そんな些細なことがこの上なく素晴らしい。
だから私はやたらめったらに作品を作りまくった。
そしてたまに黒歴史のようなそれをちらっと読み返したり自分なりに簡単なゲームとして完成させていった。
今日も今日とてバグがないかと確認しつつボイスもないただの選択、パズル、謎解きゲームと化した乙女ゲームとも言えない悪役令嬢もどき(レズルートも含むので完全なる悪役令嬢迫害ゲームではない)をチェックしていたのだが。
「……あぁん?何だ、こりゃ」
オフの日用のちょっとお高めパックを顔に貼り、片手に脳死周回ゲーム真っ最中のスマホを持ちパソコンのモニターに顔を寄せてメンチを切るような声と表情をして首を傾げる。
画面はイベントもない町並みとモブキャラ、そこをうろちょろ歩くヒロイン。一見何の変哲もないように見えるだろうが私が想定していた動きと明らかに異なるおかしな行動をとっているのだ。
例えばモブと話す。パターンが数種あるだけなのにあらゆる角度からぶつかったり。そんなコマンドしてないしそこにはヒロインのキャラクターは侵入できるはずがないという場所にまで行く。試しにキーボードから手を離せばもうね、めちゃくちゃ。
「こっわ。先輩が前言ってたゲームに幽霊とか入り込む都市伝説かよ……」
南無阿弥陀とか唱えても収まらないからまたキーボードに手を伸ばしマウスで入力を試み、しばし繰り返す。
そうして格闘する事数分。私の考えた無垢で怖いもの知らずだけれどどこか憎めない可愛らしい天使ちゃんと言うヒロインに相応しい子が、道を踏み外し始めた。
モブと違う主要キャラクターと会った途端にくねくねバチバチにシナを作る……。ふざけんな止めろ!その娘はそんな事しない!
「ざけんな、ざけんなよぉ……!ラシェンナちゃんはなぁ、男らもそうだけど何よりライバル関係にもなり得た身分違いの令嬢ちゃんも懐に入れて温かく友情関係築こうとするくらい良い子なんだぞ。それを、おま、合コンで男あさりするビッチみたいな下品な事させやがって!」
歯ぎしりをしながら私の娘を乗っ取った下手人を睨み拳に力を込めた。
「いいぜぇ、そっちがその気ならアタシだってやってやらぁ……!」
クリエイター舐めてんじゃねえぞと乱入者を睨みつけながら、恐らくはその行動から逆ハーレム作成を企んでいると見てノートパソコンを今点けているデスクトップとは別で起動する。
没ネタフォルダの中でもチート級にいい顔の男を引っ張り出し、設定を後付けマシマシでくっつけて世界観を壊さない程度の衣装を別キャラから借り。
USBへとそれを取り込んでセット。別窓で確認しつつゲームに影響しないよう、泥棒猫にバレぬよう、あたかも隠しキャラとの遭遇と見せかけ罠を仕掛ける。
「このコ仕上げた絵師は私の大親友且つ人気大絶頂の売れっ子様だよぉ〜?今はもう話しかけられる立場でもねえけど、くっくっくっ……!さぁ、いつでも食らいついてご覧よ、くそビッチ!!」
食らいついたが最後、悲惨なエンドの幕開けだぁ!!
何せ元々はまったりうっふんな乙女ゲー向けではなく濃厚ヤンデレ身内ゲーの息子さんだもの!親友がまだ駆け出しの頃にどうしても動いて喋る我が子が見たいと渡してきて、深夜のテンションと合わせてそらもう販売なんて万が一にもできぬオンパレード。
ああんだめーなんてものじゃない、ギャアぐわ何するやめで絶える身の毛もよだつ展開の嵐!!
まぁ、私のゲームを壊されたら堪んないからそっちの道になりかけたらキャラと一緒に取り込んだ別ルート展開とともに終了画面出して一旦ゲーム自体止めよか。
で、パソコンも再起動させて様子見しよう。
「久しぶりに連絡入れてみよっかなぁ」
まんまとイケメンに食いついた哀れな犠牲者を尻目にうちの子をこっそり離れさせ、物語の攻略に必要なやりとりと見せかけて裏の顔が現れたところで黒画面に赤の血飛沫。
洒落た文字で永遠に想われて幸せに暮らしましたと振り、私はスマホ片手に随分と連絡を取っていなかったあの子の連絡先を探し始めた。