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〈九月三日〉
命の落ちる音は、思っていたよりも汚なかった。
恐怖はあったけれど、後悔はなかった。
衝撃に紛れたのか、覚悟していた痛みも感じなかった。
視界に広がるのは横倒しになった地面。いや、これは私が倒れているからと表現した方が正しい。
少し遅れて周囲から悲鳴や怒声が響いてくる。しかし、その内容はもう正確には聞き取れない。
思考はやがてスローになり、もうすぐ私の意識が完全に途絶えてしまうというのがはっきりとわかる。
だらん、とのびた手や、もう動かない身体が何かで浸されていく。それが私の身体に流れる血だと認識できたころには、もう何も見えなくなっていた。
「お前たちは見るんじゃない! 離れていろ!」
「早く救急車を呼ぶんだ!」
「看護の緑川先生を呼んでこい!」
「何としてでも助けるんだ! そうしないと――」
うるさい。
繰り返すが私のこの選択に後悔はこれっぽっちもない。お前たちは見ているだけで何もしてくれなかった。所詮他人事だと我が身を第一に振る舞っていた。
だから私も自分の好きなようにやらせてもらった。
これが私という小さい存在がこの身を使ってできるせめてもの抵抗だ。せいぜい責任でも何でも感じればいい。
……そろそろ暗闇の中での思考も限界のようだ。本格的に私の命の終わりが近づいている。
でもそれでいい。むしろ本懐だ。
ざまあみろ、と中指でも立ててやりたかったがそれすら叶わない身では仕方がない。どうか清々しい笑顔で最期を迎えられていますように。
そうして唯一保たれていた思考だけの世界にもヒビが入り、私の世界は聞こえない音を立てて崩れ去った。